『本番』
42話です。
始めて5000文字ぐらい書いた気がします。
「何々?何これ!?こっちに流れてるんだけど!」
「水?これ水?何で?動けないし!?」
現在、ここら一帯では膝の高さまでが透明の液体に浸かっている状況である。
丁度、10分ほど前にマンホールから水が噴水のように逆流し、周囲を浸水させた。
排水システムが一切機能せず、その上を一滴も零さずに通り抜ける。そのため時間経過で更に溜まっていく一方であった。
誰もがこれは人為的で誰かが起こした現象であると思った。
「ん~誰か捕まえちゃったよ〜、便利だよねこっちの世界って。俺が動きやすいからさ〜。捕まえた人間は好きにしていいって言ってたし〜。どうしよかな〜。」
その現象を起こしたであろう男は椅子に腰掛けながら独り言を言う。その手からは液体が滴り、地面にポタリポタリと落ちる。滴り落ちた液体は足元にある排水口に飲み込まれていく。
「ここに来てくれるかな〜英雄ちゃん。楽しみだな〜、ヒューマ戦なら俺は絶対勝つけどね〜」
男はケタケタと笑いながら、渡されたスマホを眺める。ニュースで地上の様子を伺いながら混乱を楽しんでいるようだ。
そして、鉋が現着したのは事件発生から13分後であった。被害が起きた場所を見て、その場で思い当たる犯人を推測した。
「多分ですけど……これ“水龍”の仕業ですね。一度戦闘をしているところを見たことがありますが、恐らく水放出操作系ヒューマです。」
「放出操作?どういうことだ」
「ヒューマ使いの中には放出したものを操作できる人間がいます。管理人がその例でした。」
「つまりはここら一帯の水全てが奴の操作範囲内ということか」
「そういうことです。こういう場合は近くにヒューマを使っている人間がいるのがセオリーなんですが……」
「いないのか?」
「ええ……浸水域全ての思わしき屋外は捜索しました。同時に水の操作範囲を見ていたのですが、限りなく無限に近いと思います。」
「無限だと!?そんなことがあり得るのか!」
「あり得ないと、思うんですが……今起きていることができている実証なので……」
「屋内の可能性はどうなんだ?」
「操作する際に周りを視認する必要があると思ったので後回しにしてましたが、既に71件目を見終えたところです。」
「そうか……」
「いないことには私もどうにもできません……早くしなければ浸水域が上昇するので……」
「待て、能力発動時は能力者から始まるんだな……」
「そのはずですけど……」
「よし……私に任せてくれ。君はいつでも動けるように待機で頼む。無駄な体力を消費しないように!」
「……わ、分かりました」
その時には浸水は既に腰の高さまで増加していていた。周囲の建物の一階は全て隙間なく浸水していた。
水龍は地下にいた。地下の個室。作られたのはいつか忘れらるほど古びた地下室だった。そこにある排水口から能力を始発させていた。
「まあ、ここがわかるわけないもんね。俺は悪だから表立って行動とかしないも〜ん」
その時、地下室全体が揺れる。大きな衝撃がその場に伝わり、椅子や家具などが細かく振動する。
「はっ?何っ!」
更に衝撃、衝撃、衝撃、衝撃、衝撃、何度も衝撃が伝わる。その度に部屋が揺れ、ホコリが立つ。
「嘘だろ……まさか」
地下室の天井に亀裂が入る。そして、衝撃と共に崩落した。 舞い散る砂塵と共に少女が飛び出す。
「空洞!ぶち当てました!」
「こんな場所にいるやつだ。ろくなやつではないやってしまえ」
「了解です!」
「何で!……ここが分かったんだ……」
「始発点を調べた」
「はっ?どういうことだ!」
「私が代わりに教えてやろう。何難しいことは何一つしていない。SNS投稿や上水下水の総排出量と圧力係数の増加点、それらの出先を調べ、その中心点から始発点を推測、後は疑わしき場所を鉋君に掘ってもらっただけだ。おかけでこちらは総動員で動いだぞ。」
「結構回数はかかっちゃいましたけどね、表面を覆っていた水は蹴りの衝撃で吹き飛ばしました。」
「へぇ~。スマートな感じと思ったけど、そういう泥臭いこともするんだ……。水は上で止まっているけど……それを操作したどうなる――」
行動を起こす前に先手必勝の動きで、動いた鉋だが高速に届く前に水龍が動いていた。
「と思うっ!」
――ゴゴゴ――
「鉋君!地上の水が物凄い勢いで――」
「そのようですね……」
直下で掘ってきた高さ15m以上の縦穴からは、全体を覆う滝のような水流が振り落ちてくる。
「俺には全然効かないけど君はどうかな?俺を倒しても!水は止まらないぞ!この水量はどうだっ!」
鉋の思考は先ほどからシンプルだった。以前は知恵を使い、誰かと協力して打開していた状況だった。
しかし、今の鉋はその状況状況にただ愚直に力を振るうだけだった。実際にそれで解決していた。
今回も頭を使わずにただ率直に脚を振るう。力に対抗するためには知恵ではなく、それと同程度の力でなくてはならない。
スパァンと水に打ちつける音が狭い地下室に響く。
絶えず蹴りを入れて、水を弾き続ける。蹴られた水は周りに飛び散り、周りに溜まっていく。そして、すぐさま蹴りの勢いを上げていく。
まるでモーゼが海を割ったように、水面の中心に勢いよく力強く蹴りを入れると中心に穴が一瞬だけ空いた。
そこを逃さぬように一飛で駆け登る。水が襲いかかってくれば横に飛び、再度同じことを繰り返す。
三度か四度同じことを繰り返す後に鉋は縦穴から脱出していた。
「マジかよ……何で生きてるかな?ドン引きだわ……ホントに人間?」
「……どうかな……試してみたら?」
「試してあげるよ!人間なら惨めに真っ二つだ!」
その時、鉋の身体スレスレを何かが通過し、後ろにあるビルに切れ込みを入れた。
鉋はそれを見て捉えた、そしてそれは水龍の背後にある水の塊から射出していた。ただの水だが何かしらして圧力や速度を高めたものを打ち出したのだろう。
鉋は以前それを体験していた。あの時逃げることしかできなかった攻撃を見て、避けたのだ。
「何で避けれるのかな?避けられたのこれで2回目なんだけど……」
「2回目……それだったら敗北も2回目になるね」
「君……顔はかわいいけどかわいくないね」
「そう、ナンパは終わり?倒させてもらうけど」
鉋の身体のボルテージが更に上がる。出力にして55%ほどだが、この3日間の中では最高出力だ。
そして、走り出す。水龍の眼には鉋の動きは映らない。そして、いつものように蹴りを入れる。
スパァンという音が再び鳴る。
「はっや〜……ホントに見えないんだね……相性最悪だよ……君」
質量を持った水の塊がぶつかる。まるで岩石のようなものがぶつかったような衝撃が届き、吹き飛ぶ。
入らなかった……。何でだ……。遅かったのか……。
出力は55%だったから遅いわけがない。
まるで身体が突然重くなったような……。
通常であれば先ほどの蹴りで勝負は決まっていた。水龍は周囲に目に見えない小さな水泡を無数に浮かしていた。それが身体に触れると生地に吸水される。その液体を操ることで自身から距離を離した。
更に自身の液体の場所の探知の応用で鉋の場所を一瞬だけ察知し、その地点に液体の防壁を設置するとにより紙一重で蹴りの勢いを殺したのだ。
「倒すが何だって?ごめんね〜煽りみたいになっちゃった」
認識を改めよう……。あれは今まで倒してきたような敵ではない。雷雲や管理人のような難敵。“水神”の二つ名は伊達じゃなかった。
考えない戦い方をしてたけどそれは辞めだ。そのヒューマを解き明かしてやる。私も危ない橋を渡ってみるか……。
「全然、効いてないし。この程度で倒したつもりになった?」
「へぇ~。やるんだ……あれかな?管理人ってやつを倒したあれ」
「あなたに“鳴神”は見せないよ……私は日々進化してるんだ……出力とさっきと同じでやってあげるよ……」
「舐めてるのかな?その口を黙らしたら可愛くなるよ!」
その時、足元が膨らみ、アスファルトが張り裂ける。鉋は予兆を察知し、上に避ける。
下に水を染み込ませて弾いたのか! 咄嗟に空中に避けたけどまずったな。
「飛ぶよね〜!じゃあ〜落とす!」
これまた事前に液体を忍び込ませていたのか四方八方から先ほどの水弾が撃ち込まれる。今の鉋は空中でかつ周りに避ける遮蔽物も移動に利用できるものもない。
鉋はバク宙の要領で脚を思いっきり振り回し、一回転する。その際に巻き起こした爆風で跳んできた水弾を全てはじき飛ばした。
55%の出力だったけどはじき返せた……。これは使える……。
「ええ〜……何で今のも防げるの……しかもさ〜騙したな。さっきより力上がってるし!」
鉋は黙って着地し、次の攻撃を警戒し体勢を整える。
「いや、無視しないでよ〜。傷つくなあ!」
水龍が攻撃を繰り出そうとした時、鉋が目の前から消える。
「さっきと一緒だろ!」
水龍は先ほどと同様の防御策を取った。周囲360°に水泡を作り、鉋に既に付着している水滴から位置を推測。更に水泡を付着させることで水量を増加させた。念には念を入れ、液体の防壁の強度を増加させていた。
再び水の弾く音が響き、その裏で重い音が聞こえた。重い音はまるで肉体に何かがぶつかったような音だった。
しかし、それは水龍の腹部に鉋の蹴りが決まった音であった。
水龍は勢いよく吹き飛び壁に打ち当たる。
水泡を背中に付着させ、勢いを殺し壁に衝突した際も液体のクッションを作ったが初撃の勢いはその工夫を上回る。
「……何で……さっきよりも、強くしたはずなのに……嘘ついてんじゃねえよ……」
「出力は上げてない……足だけに電気を回して留めただけ」
「は?防御を捨てたわけ?イかれてるよ……」
「留めるのは水を見て思った。もう十分に立てないでしょ。“負け”を認めなよ。」
水龍の脳裏に敗北の2文字が浮き上がる。これで負けてしまえば2度目の敗北。それは一度折れた自身のプライドが許さない。
あのマギアに負けた。
でも、ここでこいつに負けるのは嫌だ。自分よりも上がいるなんて知りたくないし、見たくもない。
殺せるならマギアも殺した。奴は寝込みを襲っても殺せなかった。謀殺、誅殺、水殺、溺殺、思いつくのは全てやったが殺せなかった。
本当の負けなんて2度も味わいたくない。
「鉋君!まずい!早くとどめを!――」
鉋の肌に水が当たる。水龍は能力を使っていない。そして、その現象に奴は歓喜した。
「ああ……!雨だ!雨だ!俺は神に見られてる!いや!俺が神だ!!」
水龍のヒューマは水を操るヒューマではない。
実体は身体から水に溶ける粘性の液体を放出し、それを操る。
液体は他の液体を吸水し、その体積を増やす。
更にその粘性は液体のみ働き結合を促す。そのため、ただ触れるだけでは液体は水にしか見えない。
その溶けた粘性の液体を操り水を操っていた。
それがもしも、海や川などの自然物に混ざればどうなるだろうか。
ただでさえ町中の上下水道や水源を利用していた現代インフラでこの力量である。
それが無数に振り落ちる自然の恵みと混ざれば――
――それは当に“神”と等しい。――
雨粒に混ざった液体が周囲の雨水を取り込み、瞬く間に質量を増やしていく。一滴が十滴に、十滴が百滴に膨れ上がる。
それは鉋の常時の状態では回避は不可能であった。
「ごめんね……俺は神だから運がいいんだ……英雄ちゃん」
ベースは既に水龍の側にあった。連鎖型飽和状攻撃は確実に鉋の集中力、体力を削っていき、弱らせることができた。
「鉋君!大丈夫か!今すぐ我々も行く!待っていてくれ!」
「大丈夫です……。すみません……。やっぱり使います“鳴神”」
「それはいけない!他に方法が――」
――
「ないです……奴を倒すには“鳴神”しかない」
出力80%臨界
『鳴神』
雨が落ちる音がない一瞬の刹那があった。 実体のない“神”が落ちる。
刹那に雨粒が襲いかかってきたが、その一つ一つを潰し、吹き飛ばす。
その閃光は自然如きには捕まえることができない。
雨が落ちる音、それよりも速く、水がビルを斬る速度よりも速く、音よりも速く
――穿つ。
「化けーー」
言霊は鳴神よりも遅かった。
かかった時間は3秒ほど。二撃で全てが終わった。
そして鉋の意識はそこで途切れた。
残念ながら投稿者は以前と同一人物です。
読み返した人はすまんな。驚いただろう。
読んできてくれていたた人はすまんな。この領域にたどり着くのに時間がかかりすぎちまった。




