崩壊の始まり
34話です。
多分、知らない天井だ。
重く鈍い身体を動かそうとすると、腕に引っかかりを覚える。
何かと思い、そのほうを見ると透明な管に繋がっている針が刺さっていた。
遅れて腹部の痛みがやってくるのと共に、何があったのかを鮮明に思い出す。
そして痛みのお陰で気付けができた。
あの日から何日経ったのだろうか。
ガラッと扉が横に開く。
こちらを見つめるマギアの目が点のようになっている。
「……目覚めたのか!あの後気絶して起きなかったから心配したぞ……」
その目からは涙が溢れていた。
「待っててくれ今人を呼んでくる」
マギアは猛スピードで病室から出ていった。
その後は検査を受けて、特に異常もなく退院も直ぐにできるとのことらしい。
銃で撃たれたのだが、その傷はすでに塞がっていた。
先生からも「なんでかね?治るのが早いよ、これ」と言われた。
そしてその日の内に退院して、マギアと共に帰宅した。
「半日だよね、気絶してたの」
「……そうだな、あの後は色々と大変だった……」
「躑躅森さんのこと……?」
「それもあるが……まぁ……色々あったんだ」
何だか歯切れの悪い返ししかしないな……。
家の近くの権蔵さんの工房の近くまで来た。
その事を考えて歩いていると権蔵さんが現れた。
「おっ……カンナちゃんじゃねえか……退院できなのか?早えな……」
こちらをじーっと見て黙りこくる。
「カンナちゃんは疲れてるだろ?先に帰ってな……マギアと話すことがある」
「先に帰っててくれ」
「えっ……分かった……」
二人で何の話をしているのだろうか、大剣についてだろうか。
「言ったのか……」
「まだです……」
「俺が言うか」
「大丈夫です……俺の役目ですから……」
「……あんま気張るんじゃねえぞ!」
何だか久しぶりの家だ。
「ただいま」
私の声はそのまま誰の耳にも入らずに、家の壁に飲み込まれた。
「ただいま」
遅れてマギアが入ってくる。
リビングを見て、キッチンを見て、工房を見て……
「あれ?」
違和感が現れる。
日常にあるはずのものがない気がする。
“おじいちゃん”はどこ?
マギアの方を見ると、目を逸らす。
そのまま何も言わない。
「何か知ってるの……?」
とても嫌な予感がする。
超能力者にでもなったかのようだ。
あり得ないと考えても、この状況、空気、人間が私に語りかけている。
「お祖父さんは……昨日の夜に亡くなった……」
空気が凍ったような気がした。
でもこれは違う。
“嘘”、“嘘”、“嘘”だ、“嘘”は良くない。
「嘘だよね……おじいちゃんと一緒に私を騙して遊んでるんだよね……」
「嘘じゃない……病気だったんだ……心臓の……」
「嘘だ!そんなの知らない!私は教えてもらってない!」
「カンナに余計な心配をさせたくなかったんだ」
「余計なお世話だ!」
「仕方ないだろ、カンナの家族はお祖父さんしかいなかったんだ!」
「ぐっ……うるさい!」
「待て!カンナ!」
私は走り出した。この家から、それにしても。
マギアは嘘つきだ!マギアは嘘つき、でもマギアは嘘をつかない……。
これは夢だ、きっと、私は今も病院のベットで寝てるはずだ。
曲がり角で誰かの話し声が聞こえる。
そうだ!関係ない人に聞けばいいんだ。
「聞いたか……佐助さん亡くなったらしいな……」
「葬式はいつやるんだ?」
「それがよ……あの家、佐助さんとお孫さんだけらしいから」
「権蔵が引き受けるとかは言ってたが!」
「この娘って……」
「すまねえ……聞かせるつもりは……ってあれ?」
本当だった?この街が私を騙している?この世界が?
分かってる……全部本当だって……。
でも、それが本当だったら……。
私は独りになってしまう……。
私は独りに戻ってしまう。
3人から2人に、
2人から独りに……。
おじいちゃんのお陰で独りから、2人になれたのに……。
まだ戻ってしまう、誰もいない家に、誰もいない食卓に、誰もいない世界に。
心が暗い海の底に沈んだ。
誰も助けてくれない孤独感で溺れてしまう。
そんな感覚に再び陥ってしまう。
私を置いて行かないで欲しい……。
こんな思いをするのならば、私もあの時に連れて行って欲しかった。
この深い孤独の海で私の手を掴んでくれる家族なんていない。
私は独り、
ーー私は独り、
私ーーは独り、
私は独り、
私は独り、
ーー私は独り、
私は独りーー、
私は独り、
私はーー独り、
私は独り、
私は独り、
私は独ーーり、
私は独り、
「違う!」
えっ?
「カンナは独りじゃないだろ!」
「俺がいるだろ!カンナ!」
「……帰ろう……俺たちの家に」
この話が一番悩みました。
初期プロットからこの末路は決まっていたのですが、それをいざ決行するとなると、かなり心が揺れるものですね。




