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Huma Gear  作者: 近藤世界
『官房長官編』ーー終幕ーー

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29/40

天秤に

29話です。

そういえば書き始めてから一ヶ月が経過しました。

記念日を忘れる男はモテナイですよ。

カンナたちは角谷と『Icarus』に勝利した後、エレベーターを作動させるために予備電力を復旧させていた。


「これでついたよね? マギアそっちは?」

「ボタンが点滅しているぞ。多分だが動いている。それにしてもこんなものまで直せるとは」

「マニュアルがあったからね。誰にでもできるよ」


隠しきれない息が、鼻先で軽く弾んだ。


B2(地下2階)でいいな」

「うん。そこからしか出口がないみたい」

「不便な建物だな」

「逃げられないようにしているっぽいよ。地下に行くのも中央のエレベーターだったし」

「なるほど。出口を制限することで監視する場所を絞っているわけだな」

「監獄とかによくある仕組みらしいね」

しかし、あのフロアの部屋や設備を見れば、監獄というよりも研究施設の方が当てはまる気もする。


「光! 外だ」

赤い光が、薄暗い通路を歩いていた私たちの目を突き刺す。

「夕方じゃん……」

「確か昼頃に脱獄したな」

「うわぁ!」

「どうした!」

「……最悪だ……忘れてた……おじいちゃんに怒られる」

カンナはその場で座り込んだ。

「俺も一緒に怒られるから元気を出してくれ」

「……うん」


その時だった。


ブブブ……


音のする空を見上げると、小さな黒い飛翔体がこちらに近づいてきている。


「何だあれは?……敵か!」

「いや……違う! あれはドローンだ!」

「ドローン?」


ドローンは近づき、目の前で着陸するかと思えばホバリングを開始した。


「……破壊するか?」

「待って……」

私は大剣に手をかけているマギアを制止する。


ズズ……ズ……

ノイズが鳴る。

「落ち着きたまえ……私は敵ではない」

ドローンから、聞き覚えのある声が聞こえるが、誰だか分からない。

「そういうセリフを吐くやつは大体敵だったぞ」

「そうだよ」


少しの間が空き、返事が返ってきた。

「おっと、すまないね……ホログラムを起動していなかったか……」


ブォン……


「これで私の姿も見えるだろう?」

「あっ、あの人!」

私とマギアが声を合わせるが、誰かはお互い出てきていないようだ。

「官房長官だ……名前はえーっと……」

誰だっけ?

なんか難しい漢字だった気がする……何たら森みたいな……

躑躅森つつじもりだ。覚えにくい名前ですまないね」

申し訳なさそうに答えてくれた。


「先ほどの戦闘も施設のカメラで見させてもらっていたよ。あの角谷と『Icarus』を倒すとは凄いね」


褒められるのは悪い気分ではない。


「君たちさえよければ、これからお話をしないか? 私の仕事場でね」

「……」


返事が濁る。罠かもしれない。

お互いの顔を見合わせ、二人の間でどうするか決めかねている。

「何かあると警戒しているのだろう。“罠ではない”そこは保証しよう」

「ちょっとだけ時間もらっていいですか?」

「構わないよ」


ドローンのマイクが声を拾わない距離まで離れる。

「罠かな……」

「話すぐらいの価値はあるんじゃないか……」

「でも、相手の本拠地だよ……」

「そうだな……」

「それに時間も遅いし、何よりこれ以上遅くなったら、おじいちゃんがどうなるか……鬼だよきっと!鬼!」

「それもそうだな……」


再びドローンに声をかける。

「すみません。一回家に帰りたいので、後日また返事をさせてもらってもいいですか」

「構わない。私の連絡先を渡しておこう。いつでも連絡してくれ」

ホログラムが切り替わり、電話番号とメールアドレスが出てくる。


タッタッ……

ドローンからも電話の着信音が聞こえる。

どうやら本物のようだ。


「早速お電話かい?」


プツッ……


「一つだけ質問してもいいですか? 躑躅森先生」

「先生は辞めてくれよ。それで何だい? 私に答えられることなら何でも」

「あなたはヒューマについて知っているのですか」

「ん? それは哲学的な質問か? それとも科学的な質問かい?」

「科学的な質問です」

「それなら答えられる。……そうだね。君が投与されたヒューマ抑制薬があるだろう?」


アレのことか。

食べるだけでヒューマが使えなくなった。


「捕獲用抑制ガスや、あれらを開発したのは君たちが捕まっていた施設の研究員だ。君たちが捕まっていた施設もヒューマの研究施設だ……」

そうなると疑問も出てくる。


「どうして官房長官のような人が科学的なことに詳しいのですか」

「私の畑は元々、国防よりも人体に関わる研究だからね」


あっ、そういえば、生まれる前に起きたパンデミックは、新人政治家の働きによって収束したという話を授業で聞いたことがある。

あれも躑躅森だった気がする。


「詳しいことは後日、ゆっくり腰を据えて話そうか。いい返事を待っているよ」

ホログラムが消え、ドローンの通信も切れ、空へ飛んでいった。


「どうするカンナ? 嘘をついているようには聞こえなかったが……」

「私もそう思う……」


研究施設……

そう言われれば、あの最新の医療設備も説明がつく。

私が初日にされた検査も、そこらの大きな病院と大差ない。

ヒューマを軸に研究していたのなら、抑制薬や抑制ガスも医療と繋がりがあると思えば合点がいく。


それに角谷の『Icarus』も、施設研究の副産物として生まれ、防衛の要になっていると思えば……

それらについて詳しく知れる。

「カンナ?」

私の知らない新しいことが……

それでも危険があるかもしれない……

「おーいカンナ」

この二つを天秤にかけたら……

うーん……

「カンナ、カンナ!」

「うわっ! びっくりした! どうしたのマギア?」

「ひとりの世界に行っていたぞ。考えるのはいいが帰ってからにしよう」

周りを見ると、既に街灯がついていた。

「本当だ! 急いで帰ろう!」

情報開示。

開始しますね。

物語が加速します。

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