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下準備ですっ!

「安心してください!服の性質状、他者が勝手に内部を見ることは不可能なので!」


いや……そんなドヤ顔されても、そもそも穿いてないということ自体が問題なわけで……

……まぁ、本人がいいなら、別にいいか……いいのかな?

とにかく、話を無理やりにでも変えないと…


「ミ、ミーシャはそろそろうちに戻ったほうがいいんじゃないか?…というか、帰れるか?」

「大丈夫です!えーと確かあの道具が使えるはず……」


例のごとくミーシャは、ワンピースの内側をごそごそ弄り、ある小さな物を取り出した。


「ぱんぱかぱーんっ!『ヘンゼルの石』!これで聡太さんのお家に帰れます!」

「ヘンゼルの…石?」

「はいっ!聡太さんは童話の【ヘンゼルとグレーテル】は知ってますよね?」

「まぁ……そりゃあ…」

「あの物語の序盤でヘンゼルは森に連れてこられる途中で目印の石を落とし、それをたどって家に帰ることが出来ましたよね?」

「あぁ、そうだな」


まぁその次は石を調達できなくてパン屑道端に落として失敗したらしいけどな。


「この道具、『ヘンゼルの石』をこうすると…!」


ミーシャが『ヘンゼルの石』を地面に投げ置くと、まるで意志があるかのようにその石がぴょこぴょこと跳ねながら先に進み始めた。……………いや、別に意思いしと、いしをかけた訳じゃないよ?


「聡太さん…いまのは少し寒いと思います…」

「だからちげぇつってんだろ!」


その会話の間にも石はぴょこぴょこと道を飛び駆けていく。どうやら本当に家を目指しているらしい。


「……ていうかアレ、外から見たらかなり奇怪なんだが…」

「大丈夫です!しばらく立つと、道具発動者以外には見えなくなるので!」


なんて高性能、いやご都合性能というべきか。


「では、私はこの辺で帰ります!」


ミーシャは小さく敬礼しながら微笑む。こちらも軽く敬礼して返すと、ふと両親のことを思い出した。事前に準備しておいてもらうか。


「帰ったら大事な話があるから、いくつか道具を出せるようにしておいてくれないか?」

「道具?…なんでもいいのですか?」

「あぁ、こっちの世界の人間が驚くような道具ならなんでもオーケーだ」


俺の言葉に、ミーシャは少し疑問を浮かべてそうな顔だったが、やがて笑顔になって大きくうなずいた。


「理由は分かりませんが、やるべきことは分かりました!用意しておきます!」

「頼んだよ。んじゃ俺も学校戻るわ。帰る途中気を付けてな」

「はいっ!聡太さんも勉強頑張ってくださいね!」

「はいよー」


ミーシャは今度こそこちらに背を向けて、石を追うように駆けだしていった。

さて……俺も覚語決めておくかぁ

最初は信じてもらえないだろう。

頭がおかしいと言われるかもしれない。

それでも俺は、絶対にやり遂げなければいけないんだ。

スマホでメールを送信し終えると、昼休み終了のチャイムが響き渡った。





「なるほど…これが聡太さんが住んでる家ですか」


そういえば、突然机から押しかけたり瞬間転移で飛び出したりはしたものの、外観自体は初めて見ますね…やっぱり未来の住居とは大分違いますねぇ。

ミーシャの造られた時代では、上空千メートル以上に何本も伸びる超高層マンションのなかで人々は生活を営んでいる。一部の資産家は宇宙や海中のなかに住居を立てているが、基本的には個人的に住居を構えていることはない。

様々な技術進歩の末に増加に歯止めがきかない人口問題が背後にあるため、個人的な住居がないのか仕方ないことかもしれないが、どうやらこの時代ではまだそこまで問題な深刻になっていないようだ。


「……と、そろそろ聡太さんの部屋に行って道具の準備をしておかないと」


今は感慨にふけっている場合ではありません!まず私の持っている道具の中でも安全かつ驚くような道具を探しておかないといけませんよね!私、頑張ります!

私は気合を入れて家の扉に手をかけ……………あれ、開かない……そういえば…確か学校行くときに聡太さんは…


『じゃあ!ひとまず今日は俺の部屋にいてくれ!一応鍵かけといたけど留守は気をつけてな!』


とか言っていたような………


「鍵がかかってるじゃないですかぁ!」


どうしましょう!どうしましょう!今から聡太さんに鍵を借りに?無理です!授業が始まっているに違いありません!ならば……開くドアに無理やりするしかありません!

私はポケットから瞬z……瞬時に……これじゃないや……瞬時に…あれ違う…あ、あった!瞬時に適切な道具をポケットから取り出します!その名も!


「『どこでもノブちゃん』です!」


パッと見ただのドアノブですが、これをくっ付けた扉は鍵がかかっていようが、どんなセキュリティーロックを誇っていようが、相手が扉である限り必ず開けられるのです!

それではいざ尋常に…開かせてもらいます!


「……………………………………やっぱり、駄目ですね……」


道具がドアに触れる直前、私の手はそれ以上先へと進みませんでした。

私は知っています。正式には居候ですら無い私が、この扉を勝手に開けてはいけないんだと。

優しい聡太さんのことです。事情を話せばきっと許してくれるでしょう。

でも、許してもらったその瞬間、私は自分を許すことが出来るのでしょうか?


「…………考えるまでもないですね」


私は『どこでもノブちゃん』を迷うことなくポケットに仕舞い、別の道具を片っ端から取り出していきます。


「ふふっ…聡太さん、あなたがとびきり驚くような道具、用意して待ってます!」


私は家の庭の隅に道具を広げて、聡太さんの帰りを待つことにしました。





夕焼けが世界を赤く染め始める時間。

俺は息が苦しくなるほどの猛ダッシュで帰宅に急いでいた。鍵渡すのを忘れていなければこんなに苦しい思いせずに済んだのに!


「あぁくそっ!!」


何かしらの道具を使って家に入ってくれていれば問題はないが、たかだか道具の忠告をし忘れたり弁当を綺麗に運べなかった程度で泣いてしまう優しい少女がそんなことをするという確信が生まれてこなかった。

だから俺が最速タイムで家に付いた時の第一声は、


「…やっぱりか」


だった。

ミーシャは周りに見たことない道具を五つ並べたまま、玄関を背にして体育座りで眠っていた。が、こちらが声をかける前にゆっくりと瞼を開けてかわいらしく微笑んだ。


「…おかえりなさい、聡太さん…とっておきの道具、用意しておきました…」

「……ありがとう。ごめんな、鍵渡すの忘れてた」

「いいんですよ。机の引き出しからやってきたロボットに謝る必要なんてありませんから」

「……じゃあこれでおあいこだな……なかに入ろうぜ」

「……はいっ!」


ピョコン!と猫耳と一緒に勢いよく立ちあがったミーシャは俺の後に付いてくるように家に入ってお邪魔しますと一礼した。

ひとまずリビングのテーブルにミーシャをつかせると、キッチンからあるものをいくつか皿にのせてとって戻った。


「はいこれ。出せそうなものがこれしかなくて悪いな」

「いえ、それは全然構わないのですが…………これは、何でしょうか?」

「あれ?たい焼きは未来の世界ではないの?」

「いえ、基本的に私は人間の食べ物は食べたことはありませんので…これが…鯛焼き?…鯛を焼いているわりには甘い香りがしますね…」

「あははは、別に本物の魚の鯛を焼いてる訳じゃないよ。小麦粉とかからつくった生地に餡子が入ってるお菓子だ」

「これはお菓子なのですか!…あれ?じゃあなんで鯛が少しも入ってないのにたい焼きって言うんですか?」

「知らん!!」

「即答!?」

「細かいことはいいから食べてみろって!絶対美味いから!」

「分かりました!分かりましたから無理やり押し込もうとしないでください!自分で食べられますから!……えっとそれじゃあいただきます。…はむ………………!?」

「…………………あれ、ミーシャ?」

「………………」


ミーシャはたい焼きを食べた瞬間、まるで石になったようにその場で固まってしまった。もしかして口に合わなかったかな?…やはりここはどら焼きを買ってくるべきだったのだろうか。

しばらくしてミーシャはたい焼きをもったその手を震わせていた。


「そ、聡太さん……こ、これは…たい焼き、と言いましたよね?」

「あ、あぁそうですけど…口に合わなかった?」

「口に合わなかった?そんな低次元の話をしているのではありません!」


ミーシャは突然、凄まじい勢いで持っているたい焼きを平らげ、残った三つのたい焼きも瞬時に口に運んでしまった。

全部食べ終わってようやく目を輝かせてこちらに身を乗り出してくる。


「これから私はたい焼きを様付けして知っている神様リストに加えます!」

「そんなに!?」

「あれはもう美味しいなどという人間の言葉で表せるものではありません!絶妙な甘さの餡子はつぶあん派だった私の心を一口でこしあん派に引き込みそれを覆う生地は香ばしくカリカリなのに中はもちもちとした食感も感じられ…」

「つまり簡単に言うと?」

「美味しいです!」

「がっつり人語じゃねぇか!」


……まぁ、この子の好物はたい焼きと覚えておくか。

さて、あと一時間くらいで親も帰ってくるだろうし、そろそろ本題に入るとするか。


「なぁミーシャ、俺は君が居候するのはとっても歓迎したい。でもその為にはやっぱりどうしても親に全てを話しておきたいんだ。問題はないか?」


ミーシャは幸せそうな顔を一転させ、至極真面目な顔で頷き返してくれた。


「はい、聡太さんがそうするというなら構いません」

「分かった。とりあえず段取りとしては、まずミーシャの状況をありのまま話す。そのあとは君がロボットであるという証拠を見せてもらいたいんだけど……パッと見ミーシャは人間にしか見えないんだよなぁ」


するとミーシャはわんぱくな小学生のように目を輝かせながら手を挙げる。


「ん?何かアイデアあるのか?」

「背中がパカッって開いてコード系その他を見せるのと、首が360度回転を披露するのどっちが良いと思いますか!?」

「どっちもグロいわ!」

「駄目ですか…あと私がロボットだと証明できるもの……痛覚がない、とかでしょうか?」

「?ミーシャ、五感はあるのに痛覚はないのか?」

「はいっ!開発者の意図が分かりませんが、私達ミーシャ型は共通して痛覚を持ち得ていません」


なるほど、だから殺虫剤受けても痛くはなかったのか……でもこれだとロボットっていう証明は出来ないな。我慢してると言われればそれまでだろうし……

猫耳を利用したいところだが、残念ながら猫耳は人ではないということは証明出来ても、ロボットとは証明はできないだろう。

やはり…背中をパカッてあけたり、首を360度回転させるしか方法はないのだろうか…

そう頭を抱えていると、追い打ちをかけるように玄関の扉を開ける音がした。


「聡ちゃんただいまー」

「「!?」」


馬鹿な!?まだ退社には時間があるはずだ。そして母さんの声がするということは、父さんもいるはず…くそっ!まだ段取りを全然決めてないのに!

そんな焦る俺の手に、そっと上からミーシャが手を重ね、優しく微笑んだ。


「大丈夫です。聡太さんのお父様とお母様なら、きっと信じてくれますよ」


その自信は湧いてくるのか、俺には全く理解できない。

でも何故だろう。不思議と失敗する気がしなかった。

さぁ、プロローグ最終任務、親の説得をはじめよう!






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