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初めての成功

……ふと、家においてきた少女のことが頭に浮かぶ。あの子のエネルギー源はなんなのだろうか。電力か?それとも人間と同じ食べ物をエネルギーに変換できたりするのだろうか。

そんなことをぼんやりと考えていると視界いっぱいに暑苦しい肉が支配した。よく見たら岡田だった。


「はぁはぁ…聡太、飯を買いに行こうぜ…はぁはぁ…」

「岡田、そういうのは息を整えてから言え。飯が別に意味に聞こえて気持ち悪いから……それはそうと、光山は?」

「光山なら今日は屋上でディナーとか言ってたぜ」

「あっそ。んじゃ俺たちは質素な飯でも買いに行きますか」


そういいながら俺たちは一階の売店へと足を向かわせた。

岡田と売店に買いにいくともれなく特典が二つ付いてくる。


「やっべ、岡田さんが来た…」


特典一つ目、岡田は別に不良というわけではないが、見た目はどうもてもジャイアンをさらにバーサーカーとして召喚したような風格を持っているので、多くの生徒が恐れて売店の商品品切れを気にせず買える。

そしてもう一つの特典は、


「あら~、岡ちゃん今日も元気ぃ?今日も愛嬌ある顔してかわいいわねぇ!はい、いつもの!」


何故か岡田が売店のおばちゃんに好かれているので、専用のお菓子セットみたいなものが俺もついでに貰える。売店のおばちゃんの目が節穴に感謝である。ほかの生徒も岡田に文句が言えないらしく、そ世にも奇妙な絵面に微妙な目線を送るだけにとどめているようだ。


「よし、買うもんかったし、教室戻るか。…ん?どうした岡田?」

「…あそこ…なんか人だかりが出来てねぇか?」


岡田の指さす昇降口付近には、確かに何人もの生徒がざわざわと集まっていた。

ある女子生徒A曰く、


「きゃー!ちっちゃくて可愛いー!妹にしたいー!」


……ある男子生徒B曰く、


「天使降臨だと!?馬鹿な、俺はとうとう二次元の美少女の幻想まで見るようになったのか!?」


……………ある女子生徒曰く、


「この猫耳と尻尾はどうやって動かしてるのー?」



………どうやら青髪猫耳で尻尾を生やした可愛い幼い少女が、注目の的となっているようだ。



「……………………岡田、先に俺のパンもって教室戻っててくれ…」

「え、いいけど……あ、おい!」


俺は岡田の制止も構わず一直線にその人だかりの中に突っ込んでいく。

何度か足を踏まれながらも波をかきわけて進んでいくと、その注目の少女は、若干涙目になりながら体育の教師に事情を説明している最中だった。

が、少女はこちらに気が付くと、ぱぁっと顔に笑顔を咲かせて飛び出してきた。


「聡太さぁあああああんっ!!」


胸に突っ込んできた少女は、間違いなくミーシャだった。

ぱたぱた高速で動く猫耳を鎮めるように頭を撫でると、ミーシャは満足げに笑った。


「なぁ沖原、この子とはどういう関係なんだ?」


体育教師の冷たい目線が俺を犯罪者扱いするように射貫く。い、いかん、ここはうまく誤魔化さないと社会的に消される!


「えーと、こいつは……俺の義理の妹です…」

「………ふむ、そうか……本当か?」

「ほ、本当ですって…俺がこの子に良からぬことをしてるように見えますか?」

「見える!」

「即答!?失礼すぎるでしょ!ともかく大丈夫ですから!ひとまず失礼します!」


なおも引き留めようとする先生を無視して俺は上履きを履き替え、ミーシャの手を引いて逃げるように校庭へと足を進めた。

周囲に誰もいないことを確認し、ひとまずプール横のベンチに二人で腰掛ける。


「それで?なんでミーシャがここに?」


本当はあの場で聞きたかったんだが、状況が状況だったからな。

ミーシャは「そうでした」と言いながらワンピースの中をごそごそ弄り、あるものを取り出す。ん?…これは…


「弁当箱?」

「はいっ!リビングに置いてあった聡太さんのお母様お手製のものって書置きがありました!」


そういってミーシャは小さいメモ用紙を渡してくる。……全く、忙しいのにいい母親しやがって…今度親孝行でもしてやっか…

知らず知らずにのうちに緩んでいた顔は、ミーシャと目があったことで慌てて戻す。一度咳払いをしてその紙を胸ポケットに仕舞うと弁当に目線を変えた。


「ありがとうミーシャ、じゃあ早速いただいちゃおうかな」

「はいっ!私も聡太さんのお母様が作ったお弁当みてもいいですか?」

「おう!俺の母さんの弁当、結構可愛いしうまいんだぜ?」

「へぇそれは楽しみで………!」


ふたを開けてみると、かつては料理というものだったであろうものたちが、無秩序な世界でぐちゃぐちゃに入り乱れていた。 黒豆はほぼ全てのものにぶちまけられ、昆布とはグラタンにのり、たくあんと蒲鉾かまぼこは仲良くハンバーグの上に鎮座している。完全に無傷なのは、下の段の梅干し入りご飯だけだった。

それを見たミーシャの顔はどんどん顔を青ざめさせていき、ついには涙をぽろぽろと落とし始めてしまった。

「お、おい…何も泣く必要は…」


いきなり少女が泣き始めてしまった状況に思わず俺は困惑する。何も泣く必要までは全くないはずだ。ちょっと謝れば済む話なん…………


「う……う……ごめんなさい…ひぐっ…ごめんなさい……私の…わたしのせい、です…えぐっ…私が急いでポケットに入れたから…うっ……走ったから……お弁当……お母様が…愛情込めて作ったお弁当……ぐちゃぐちゃに…聡太さんを学校に送った時もそうです……下着は濡れちゃうこと言うのを忘れちゃって……こんな駄目ロボットで…ごめんなさい…出来損ないで…ごめん、なさい……ポンコツで…ごめんなさい……ゴミロボットで…ごめんなさい…」


挿絵(By みてみん)


………ミーシャの謝罪の中には、かつて自分が本当に言われてきたであろう辛い罵倒も含まれているような気がした。きっと今回の失敗によってその記憶が蘇り、自分の中で溢れてしまったのだろう。泣いているその姿は…とても痛々しかった。


「ごめんなさい…ごめんなさい……え?…」


傷ついた少女の頭をなるべく優しく撫でる。相手が戸惑っていようが、構わず撫でる。

俺じゃこのロボットの深い心の傷を癒すことは出来ないのかもしれない。

でもせめて、これだけは伝えたい。少女の胸に届かせたい。


「君は人の為に一生懸命、役に立とうと頑張った。とっても強くて優しい子だ。その努力を俺は絶対に責めたりしない。大丈夫、君は駄目なんかじゃないよ」

「………聡太…さん……ありがとう……ございます…そんなこと言ってくれたの、あなたが初めてです」


ミーシャはこぼれ続ける涙を何度も拭って、ようやくこちらに微笑みを返してきた。

俺は最後にぽんぽんとミーシャの頭を軽く触り、その手を引いた。


「さて、じゃあ折角持ってきて貰ったから食べようかな!……ん、美味い!」


次々におかずとご飯を口に運び偽りなく感想を言う。ぶっちゃけ言うとおかずが混ざった程度で食べられなくなる訳がない。うちの母さんの弁当はいつでも最高である。


「ミーシャも食べてみろよ。とってもおいしいから」


俺は箸をミーシャに手渡した後、二人の間に弁当箱を置く。


「………はいっ!いただきますっ!」


ミーシャは目元をもう一度拭いて元気な声で頷くと、箸をとっておかずを口に運ぶ。


「おいしいです…とってもとっても、おいしいです!」

「……そっか。なら良かった」


ミーシャはいくつかおかずを食べた後、はっ!?と我に返って慌ててこちらに弁当を渡す。


「ごごごごごごめんなさいっ!おいしくてつい…」

「あはは、しゃーねぇなぁ」


戻ってきた弁当箱はあっという間に空になった。ミーシャの笑顔も相まって今日は特に満足感が心地よかった。

ふと時計を見る。まだ少し時間があると思った瞬間、ミーシャに対して小さな疑問が二つだけ浮かび上がってきた。この際聞いてみるか。


「なぁミーシャ、質問が二つほどあるんだけど、いい?」

「はい!なんでもどうぞ!」

「それじゃあまず一つ目だけど、ミーシャはロボットなのに人間の食べ物を摂取しても大丈夫なのか?」


ミーシャはその疑問に「良い質問ですね!」と目を輝かせて胸を張る。全く、喜怒哀楽の表情変化が激しいロボット少女だ。


「私達、ミーシャ型は教育ロボットとしての性能上、五感のほぼ全ての機能が再現されています!

例えばですよ?ピーマンが嫌いな子供がいるとします。その子供に私が好き嫌いは駄目だよ~って言ったとします。その時に私もピーマンを食べられなかったらどうですか?説得力が皆無となってしまうのですよ!だから私達は味覚も備わっていますし、食べ物を摂取しても問題ないのです!もっとも、食べたものは内部に一定量たまると自動的に物質消去が行われますけどね」

「へぇ…別に動力になるって訳じゃ無いんだ」

「そうですね、私達ミーシャ型は半永久機関を内蔵していて、あと百年ほどは充電しなくても稼働出来ます。あ、あと半永久機関の構造は過去の人間には教えられない規則なのでご了承ください」


なるほどねぇ、やっぱり未来のロボットだけあって凄まじい高性能だな。意思も五感も備わっているし、半永久機関で稼働。加えてこんなに可愛いとかチート過ぎるわ。出会えた運命にキスしたいレベルで感謝。


「聡太さん、それでもう一つの質問とは?」


…あぁ、そうだった。ついでに程度の質問だったからつい忘れるとこだったわ。


「一つ目よりは大した質問じゃないんだけどさ、ミーシャはどうやって学校に来たの?俺と同じ方法?」

「はいっ!『どこでも入浴剤』を使用してきました!本当にごめんなさい!…使用したら下着は濡れちゃうことを言うの忘れてて…」

「あーうん、まぁそれはいいんだけどさ…その……君は…来るとき…大丈夫だったの?」

「??……何のことですか?」

「えーと…その…」


いやいや、ここでこのこと言った俺がセクハラしてるみたいじゃないか……ええいっ!心配してるだけだ!やましいことは何もない!

俺は決死の覚悟でミーシャのアレの安否を確認する!


「ミーシャの!……その……下着は…大丈夫なのかなーって…ごめん、別にやましい心から言ってるわけじゃなくて!その…えーと…」


しどろもどろになりつつある俺の言葉に、ミーシャはあっさりと頷いた。


「はいっ!大丈夫です!もともと下着は付けてないので!」

「そ、そうかなら良かっ………………………………え?」

「ですから、下着はもともと装備してないので問題は発生していません!」

「………………………なん…だと!?」


つまり………えーとそのワンピースのしたは…上も下も、付けてないし…穿いて…ない!?

大問題発生したんですけどぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!?



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