【10】そんな人だと思わなかった
婚約破棄を勝手に宣言しちゃう王子と、
王子の真実の愛の相手(義妹)がセットで主人公に言う言葉の定番に、
「見損なったぞ!」
「お義姉さまがそんな人だとは思いませんでしたわ!」
というのがあるように思います。
たいてい冒頭にあります。
このセリフがあったら、驚くような結末は待っていないと思って間違いない、
そんなふうに思っています。
この2つのセリフは、主人公を貶める為に言っているはずなのに、
貶められているのは発言者でしかないという、ある種の哀しみを感じます。
「見損なった」と言うからには、前提としてそれをぶつけた相手への
高い評価が存在しますね。
「おまえのことを高く評価していたけれど、それが間違っていた」
と声高に言うことで傷がつくのは、
「見誤った本人」でしかない。
相手は無傷です。
なんで王子それ言っちゃうかな、と微笑ましくなる場面ですね。
俺が馬鹿だった、俺の目が節穴だったという宣言を高らかに。
「そんな人だとは思わなかった」もほぼ同じで、
冒頭の宣言の場面は、愚か者が己を愚かと告白しているようなもので、
当人たちの思惑どおりに話が進むことはないと提示する場面です。
「恋は人を盲目にする」がカルピス本体くらい濃縮されている言葉ですが、
『愚かと悲しみは似ている』と思う場面です。
「恋」がそうさせていると言うよりは、劣等感がそうさせている。
そんないろいろなものを、大勢の前で楽団の奏る音楽を背負って、
大声で吐露しちゃっているところに哀しみを感じます。
それを意図的に言ったという設定ではない限り、
その2人に明るい未来はやってこない。
冒頭数行でいろいろなことが分かってしまう場面です。
その哀しみを書ききってある話が好きです。
己の愚かさを自覚しないまま、どれだけ酷い目に遭ったところで
カタルシスを得られません。
アリストテレスも暴れそうです。
英語だとカタルシスという言葉に「便通、下剤」の意味もあり、
スッキリしたい読み手(私)のために、
王子たちが己を愚かだと知ってジクジクと後悔して欲しいです。
実際には快食快便なのでご心配には及ばないのですが、
急に尾籠な話にもっていくなんてそんな人だと思わなかった!
と思われるところまでが遠足です、まことに申し訳ありません。




