第一話 〜じゃ
昭華王朝は、儀庭に庭っ娘が集まってゆるりと騒ぐ、文化と日常が混ざった国じゃ。
ネイティブ広島弁が飛び交う不思議な庭で、ちいさな出来事が“文化”?として語られていく物語じゃけん。
王城の中心に広がる儀庭は、朝の光を受けて白い石畳がやわらかく輝いていた。
王城の中でもひときわ静かで、風の音さえも礼をわきまえているような場所。
しかし、その静けさが保たれるのは、いつも朝のほんの短い時間だけであった。
白い石畳の庭には、今日も庭っ娘たちがゆるりと集まってくる。
儀庭の端にある東屋では、朝霧街からの風がそよぎ、芳華が前髪をつまんで今日も困った顔をしていた。
「今日の前髪、なんか足らんのんよ~……たちまち変になるんよ~」
朝の光を受けてふわりと揺れる髪は、どう見ても十分かわいいのに、本人は納得していないらしい。
鏡をのぞき込んでは、結い直し、ほどき、また結い直す。これを繰り返す。
その様子は、儀庭の静けさを前髪だけで乱しているかのようであった。
そこへ、黒耀が巻物を抱えて走ってきた。
巻物は今日も長い。白い石畳をずりずりと引きずりながら、黒耀は息を弾ませて言った。
黒耀:「芳華様!今日の詩は短いです!全八十章です!」
芳華:「短うないんよ~!たちまち庭いっぱいになるんよ~!」
芳華の声が庭に響くと、瑠映が色壺を抱えて現れた。新色の絵の具が朝日にきらきらと光っている。
瑠映:「芳華、その前髪にこの新色ちょっと塗ってみんさい。ほいじゃったら、絶対かわいゅうなるけぇ」
芳華:「色を足すんよ!?前髪に!?そんなことしたら余計変になるんよ~!」
そこへ夜凛が舞の衣をひらめかせて登場した。歩くだけで白い石畳がわずかに揺れる。
夜凛:「瑠映ばっかり褒められるけぇ、おもしろうないんじゃけぇ!舞で風起こして前髪整えちゃげる!」
芳華:「揺らしなさんな~!前髪飛んでいくんよ~!」
琴雪はその様子を見て、すでに深読みを始めていた。
琴雪:「これは美の迷走をしとるんじゃ。髪型の乱れは心の乱れ、心の乱れは文化の乱れ……つまり、これは昭華王朝の意識の象徴——」
紅牙が静かに言った。いつものように、すべてを一言で片付ける。
紅牙:「結べ。」
芳華:「結んだら余計変なんよ~!ようせんわ~!」
儀庭の静けさは、今日もあっという間に消え去った。
白い石畳の庭は、庭っ娘たちの声で満ちていく。
詩が広がり、色が踊り、舞が揺れ、深読みが飛び交い、紅牙が静かに片付け、芳華が天然で締める。
昭華王朝の庭は、今日もゆるりと賑やかである。
この国では、庭っ娘たちの小さな迷いも、時に文化として語られることがある。
髪型が決まらない朝のひと幕でさえ、後の世ではこう呼ばれた。
【昭華の豆知識】
●『髪型迷走』
昭華王朝において、前髪や髪飾りを整える際に形が決まらず、何度も結い直して迷ってしまう現象を指す言葉。当時の美意識では「前髪のわずかな乱れ」が極めて重んじられていたため、ほんの少しの違いであっても「美の象徴」として深く語られていた。
●“髪は心の鏡”
昭華の美意識では、髪型の乱れはそのまま「心の乱れ」と結びつけられていた。今回の芳華の前髪がなかなか決まらなかったのも、当時の価値観に照らし合わせれば、彼女の精神に何らかの迷いが生じていた証拠と解釈される。
儀庭の朝は、今日もゆるりと始まり、そしてゆるりと騒がしくなる。
それこそが昭華王朝の、愛おしい日常であった。
作風はゆるふわ日常+ネイティブ広島弁。
短い話を積み重ねて、最後に昭華王朝の世界観がふわっと深まる構成。
気軽に読めて、ちょっと笑える作品を目指すね。




