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第零話 たちまた
昭華の物語は、まだ誰も歩いていない“朝の層”から始まります。
この零話は、世界が動き出す前に漂う、光と白石の静かな気配だけを置いた一枚です。
本編は一話から始まるけぇ、ここでは物語の前にある“余白”として読んでみてください。
王城の中心に広がる儀庭は、朝の光を受けて白い石畳がやわらかく輝いていた。
王城の中でもひときわ静かで、風の音さえも礼をわきまえているような場所。
しかし、その静けさが保たれるのは、いつも朝のほんの短い時間だけであった。
白い石畳の庭には、今日も庭っ娘たちがゆるりと集まってくる。
庭っ娘とは、六文化の家系に生まれた若い娘たちで、この儀庭を拠点に毎日ゆるゆると騒ぎ立てる存在である。
詩、色、舞、深読み、静、天然——六つの個性が、朝の光の中でふわりと混ざり合う。
儀庭の端にある東屋では、心華家の娘であり、侯爵家の娘でもある芳華が、前髪をつまんで困った顔をしていた。
「今日の前髪、なんか足らんのんよ~……たちまち変になるんよ~」
朝の光を受けてふわりと揺れる髪は、どう見ても十分かわいいのに、本人は納得していないらしい。
鏡をのぞき込んでは、結い直し、ほどき、また結い直す。
その様子は、儀庭の静けさを前髪だけで乱しているかのようであった。




