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『君の隣を目指して』――図書室、帰り道、教室――。少しずつ距離を縮めていく、高校生たちの等身大の青春ラブストーリー。  作者: 伊佐波瑞樹


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第72話 予定を決めるだけで、胸が忙しい


 夏休みの予定は、決めようとした瞬間から騒がしくなる。


 なつきは、そのことを初めて知った。


 朝。


 スマホの通知音で目が覚めた。


 目覚ましではない。


 通知だった。


 しかも一回ではない。


 二回、三回、四回。


 寝ぼけたまま画面を見ると、グループチャットが動いていた。


 名前は、相変わらず亜衣がつけたままの『夏休み生還組』。


 最初の通知は圭だった。


『海の日程、決めようぜ!!』


 次が亜衣。


『朝から元気すぎ笑』


 圭。


『夏は朝から本気』


 紅秋。


『宿題は?』


 圭。


『紅秋、朝から現実を投げないで』


 茜。


『現実は大事です』


 亜衣。


『茜ちゃんまで!』


 春樹。


『宿題会をもう一回してから海?』


 なつきはその文字を見た瞬間、眠気が少し飛んだ。


 春樹くん。


 朝からグループチャットにいる。


 しかも、海の話。


 宿題会。


 もう一回。


 つまり、また会える。


 その事実に気づいた途端、胸が少しだけ高鳴った。


 なつきは布団の中でスマホを持ち直す。


 返信しようとして、少し止まる。


 何と送ればいいだろう。


 賛成?


 いいと思う?


 宿題会、したい?


 春樹くんに会いたい。


 さすがにそれは送れない。


 なつきは数秒悩み、結局こう打った。


『宿題会してからの方が安心かも』


 送信。


 すぐに春樹から反応があった。


『うん』


 また、たった二文字。


 でも、なつきは朝からスマホを抱え込んでしまった。


 昨日もそうだった。


 春樹の「うん」は短い。


 短いのに、なつきの中ではなぜか長く残る。


 画面の中の二文字が、ちゃんと自分に向けられているような気がしてしまう。


 そこへ、亜衣から個別メッセージが届いた。


『朝から春樹くんの「うん」で幸せになってる?』


 なつきは一瞬で布団を蹴りそうになった。


『なってない』


『絶対なってる』


『なってない』


『じゃあスクショ見せて』


『無理』


『ほら』


 なつきは枕に顔を埋めた。


 亜衣は本当に鋭い。


 いや、自分が分かりやすすぎるのかもしれない。


 その後もグループチャットは続いた。


 茜が日程候補を出す。


『宿題会は明後日か、その次の日。海はその後の週末が現実的だと思う』


 紅秋。


『同意。宿題の進み具合を確認してからの方がいい』


 圭。


『宿題が門番みたいになってる』


 亜衣。


『海へ行くには宿題を倒さないといけない』


 圭。


『ラスボスは読書感想文』


 春樹。


『読めば書ける』


 圭。


『春樹、それが一番難しい』


 なつきは思わず笑った。


 読めば書ける。


 春樹らしい。


 たしかに、読めば書ける。


 でも、何を書けばいいか分からなくなるのが読書感想文だ。


 特に圭と亜衣にとっては、かなりの強敵だろう。


 茜が送る。


『明後日、図書館で第二回宿題会。参加できる人は返信』


 亜衣。


『参加!未来の私を救う!』


 圭。


『参加!未来の俺を救う!』


 紅秋。


『参加。二人を監視する』


 亜衣。


『監視って言った』


 圭。


『自由がない』


 春樹。


『参加』


 なつきは少しだけ深呼吸してから打った。


『参加します』


 送ってすぐ、圭。


『よし!六人!』


 亜衣。


『宿題会という名の青春!』


 紅秋。


『宿題会は宿題会だ』


 茜。


『休憩時間に海の予定を決めましょう』


 春樹。


『了解』


 なつきは画面を見つめながら、小さく笑った。


 また会える。


 図書館で。


 宿題会で。


 そして、海の予定を決める。


 夏が、少しずつ近づいている。


   ◇


 宿題会第二回の日。


 市立図書館の入口前には、前回と同じように三人が先に集まっていた。


 なつき、茜、亜衣。


 ただ、亜衣の荷物は前回より少し大きかった。


「亜衣ちゃん」


 なつきは思わず聞いた。


「今日も生命維持装置?」


「今日は強化版」


「強化版?」


 亜衣は袋を掲げる。


「お菓子、飲み物、付箋、色ペン、冷却シート」


「最後何?」


「頭を冷やす用」


 茜が静かに言った。


「頭を冷やす前に、問題を解きなさい」


「茜ちゃん、今日もキレがいい」


「夏休みだからといって、課題は減らないわ」


「知ってる。でも知りたくない」


 なつきは笑った。


 その時、駅の方から春樹達が歩いてくるのが見えた。


 春樹。


 紅秋。


 圭。


 春樹は前回と同じく落ち着いた服装。


 なつきは、自然に目で追ってしまう。


 すると、春樹と目が合った。


 心臓が跳ねる。


「おはよう」


 春樹が言う。


「お、おはよう、春樹くん」


 少し声が揺れた。


 でも呼べた。


 圭が横からにやりとする。


「おはよう、女子組!」


 亜衣が手を上げる。


「おはよう、圭くん!」


 圭は少しだけ照れながらも、もう前回ほど固まらなかった。


「だいぶ慣れてきた」


「成長」


 亜衣が笑う。


 茜は紅秋へ軽く会釈する。


「おはよう、紅秋くん」


「ああ。おはよう」


 紅秋も前より自然だった。


 名前呼びは、ほんの数日で少しずつ馴染んできている。


 なつきはその光景を見て、少しだけ嬉しくなった。


 みんなの距離が近づいている。


 自分だけではなく、周りも少しずつ変わっている。


「今日は本気だからな」


 圭が図書館の入口前で宣言した。


「今日で読書感想文を倒す」


 紅秋が言う。


「まず本を読み終えたのか」


「……半分」


「倒す前に読み終えろ」


「はい」


 亜衣が圭の肩を叩く。


「仲間」


「亜衣も?」


「半分」


 茜が二人を見る。


「今日は読書時間からね」


「はい」


「はい」


 二人が同時に返事をした。


 図書館へ入ると、冷房の涼しさが体に染みた。


 夏の外気で少し熱くなった肌が、ゆっくり落ち着いていく。


 前回と同じ奥の六人掛けの机へ向かう。


 席も、なんとなく前回と似た形になった。


 なつきの隣に春樹。


 茜の隣に亜衣。


 圭の隣に紅秋。


 それぞれが鞄を置き、宿題を広げる。


 もうその配置に大きな驚きはない。


 でも、なつきの胸はやっぱり少しだけ忙しい。


 春樹が隣に座る。


 それだけで、背筋が伸びる。


「横田さん」


 春樹が小声で言う。


「本、進んだ?」


「うん。半分より少し先まで」


「どう?」


「好き。静かなところが」


 言ってから、なつきは少し照れた。


 好き。


 本の話だ。


 本の話なのに、春樹の前で「好き」と言うだけで少し胸が跳ねる。


 春樹は普通に頷いた。


「うん」


「春樹くんは、もう読んだんだよね」


「うん」


「最後、気になる」


「いいと思う」


「じゃあ楽しみに読む」


「うん」


 たったそれだけの会話。


 でも、なつきは嬉しかった。


 自分の感想を、春樹がちゃんと聞いてくれる。


 それが、少しずつ当たり前になっていく。


 宿題会が始まった。


 前半は静かだった。


 本当に静かだった。


 茜が今日の進行を紙に書いていたからだ。


 一時間目。


 読書、感想メモ。


 二時間目。


 ワーク。


 休憩。


 海の予定決め。


 その文字を見た圭が、小声で呟いた。


「時間割みたい」


 紅秋が言う。


「その方が進む」


「夏休みなのに時間割」


「未来の圭を救うためだ」


「未来の俺、人質に取られてる?」


「取られていない。お前自身だ」


「重い」


 亜衣が笑いをこらえながら言う。


「未来の亜衣も人質」


 茜が即座に返す。


「自分で救いなさい」


「はい」


 なつきは本を開いた。


 物語の続きを読む。


 隣で春樹も本を読んでいる。


 図書館の静けさ。


 ページをめくる音。


 時々、圭が難しい顔で本を睨む気配。


 亜衣が小さくため息をつく音。


 紅秋がペンで何かをメモする音。


 茜が付箋を貼る音。


 全部が静かな夏休みの音だった。


 なつきは本を読み進めながら、登場人物の心の変化に少しだけ自分を重ねた。


 すぐに変われるわけではない。


 大きな出来事一つで、全部が変わるわけでもない。


 少しずつ。


 昨日より少しだけ。


 今日、ほんの少しだけ。


 そうやって近づいていく。


 自分も、春樹の隣へそうやって近づいているのかもしれない。


 ふと、隣を見る。


 春樹は本を読んでいた。


 横顔は静か。


 でも、退屈そうではない。


 その表情が好きだと思った。


 なつきは慌てて本へ視線を戻した。


 今、自分は何を考えたのだろう。


 春樹の横顔が好き。


 いや、前から好きなのだけれど。


 改めて思うと、胸が熱くなる。


「横田さん」


 春樹の声。


「はいっ」


 なつきは少し大きめに返事をしてしまった。


 図書館なので、すぐに口を押さえる。


 圭が肩を震わせている。


 亜衣は完全ににやにやしている。


 茜は静かに目を伏せた。


 紅秋は圭の腕を軽く押さえて、笑いをこらえるのを止めている。


 春樹はいつも通りだった。


「ここ」


「ここ?」


「さっき読んでたところ、付箋貼っておくといい」


「あ、うん」


「感想に使えると思う」


「ありがとう」


 なつきは付箋を取り出し、該当ページに貼った。


 心臓はまだ少し速い。


 でも、春樹は何も気にしていない。


 それが救いでもあり、少しだけ悔しくもあった。


 一時間目が終わると、茜が小声で宣言した。


「読書時間終了。メモに移りましょう」


「先生」


 圭が手を上げる。


「読書時間延長希望です」


「なぜ?」


「読み終わってない」


「予定通りね。続きは家で読みなさい」


「家だと誘惑が多い」


「なら今日借りて帰って、夜に読みなさい」


「夜は眠い」


 紅秋が言う。


「読む気はあるのか」


「ある!」


「なら読め」


「はい」


 亜衣も似たような顔をしていた。


「茜ちゃん、私も延長希望」


「却下」


「早い」


「亜衣はメモを書きながら読みなさい」


「メモって何書けばいいの?」


「気になったところ、好きなところ、疑問に思ったところ」


「全部?」


「まず一つ」


「一つならできる」


 なつきはそのやり取りを聞きながら、自分のメモ帳に書いた。


『少しずつ変わる気持ちは、自分では分かりにくい。でも周りから見ると分かることもある』


 書いてから、少しだけ手が止まる。


 これも、自分のことだ。


 なつき自身は、まだまだだと思っている。


 でも亜衣や茜は、変わったと言ってくれる。


 春樹との距離も、少しずつ近づいていると言ってくれる。


 本の感想なのに、自分の気持ちを整理しているみたいだった。


 隣から春樹がメモを見る。


「それ、いいと思う」


「え?」


「感想文に使えそう」


「そ、そう?」


「うん」


 なつきの胸が温かくなる。


「ありがとう」


 春樹は少しだけ頷いた。


 その何気ない反応が、また嬉しい。


 二時間目のワークは、前回より少しだけ騒がしかった。


 もちろん図書館なので声は抑えている。


 けれど、圭と亜衣が同時に詰まった。


「紅秋」


「何だ」


「数学が俺を拒否してる」


「逆だ。お前が数学を拒否してる」


「なるほど」


「納得するな。解け」


 亜衣も茜に聞く。


「茜ちゃん、英語が私を拒否してる」


「亜衣も英語を拒否しているわ」


「圭くんと同じこと言われた」


「同じ状態だから」


 圭と亜衣は顔を見合わせた。


「仲間」


「仲間」


 紅秋と茜が同時に言う。


「解きなさい」


「解きなさい」


 二人は同時に背筋を伸ばした。


 なつきは笑いをこらえきれず、肩を震わせた。


 春樹が小さく言う。


「息ぴったり」


「茜ちゃんと紅秋くん?」


「うん」


「確かに」


 なつきは二人を見る。


 茜と紅秋は、どちらも落ち着いていて、真面目で、面倒見がいい。


 少し似ているのかもしれない。


 亜衣がそれを見て、小声でにやっとした。


「茜ちゃんと紅秋くん、先生コンビだね」


 茜がすぐに見る。


「亜衣」


「はい」


「手」


「動かします」


 紅秋も圭を見る。


「圭も」


「はい」


 また笑いが起きる。


 静かな図書館なのに、六人の机だけは小さな熱を帯びていた。


 やがて休憩時間になった。


 図書館の外のベンチへ移動する。


 今日は昨日よりも少し日差しが強い。


 日陰に入れば涼しいが、日向は明らかに夏だった。


「生き返る」


 圭が飲み物を飲みながら言う。


「二時間で?」


 紅秋が返す。


「二時間は長い」


「テスト期間より短い」


「夏休み補正で長く感じる」


 亜衣もお菓子を開けながら頷く。


「分かる。夏休みの勉強時間は三倍に感じる」


 茜が言う。


「なら三分の一で済むよう、集中しなさい」


「茜ちゃん、今日も強い」


 全員が少し笑ったところで、茜がノートを開いた。


「では、休憩中に海の予定を決めましょう」


 その一言で、空気が変わった。


 圭と亜衣の目が輝く。


 なつきの胸も跳ねる。


 春樹はお茶を持ったまま静かに聞いている。


 紅秋はすでにスマホのカレンダーを開いていた。


「まず候補日」


 茜が言う。


「来週末か、その次の平日。家の予定、部活、ダンス、その他の用事を確認」


「俺、来週末はダンスある」


 圭が言う。


「午後なら行けるけど、海なら一日だよな」


「そうね」


「じゃあその次?」


 紅秋が言う。


「その次の土曜なら俺は空いている」


 亜衣が手を上げる。


「私も!」


 なつきもスマホを見る。


「私も大丈夫」


 春樹が言う。


「俺も」


 その「俺も」で、なつきの胸がまた弾む。


 春樹くんも来る。


 海に。


 同じ日に。


 当たり前のことなのに、改めて決まると緊張がすごい。


「春樹」


 圭が言う。


「日陰ある場所な」


「うん」


「そこ重要なんだな」


「焼ける」


「春樹らしい」


 亜衣がなつきをちらっと見る。


「なつき、日焼け止め必要だね」


「うん」


「水着も」


「亜衣ちゃん」


「言っただけ」


「顔が言ってる」


「何を?」


「からかう気満々」


 亜衣はにやっと笑った。


 茜が話を戻す。


「美優さん、蓮くん、祐衣さんにも確認しないと」


 春樹が頷く。


「蓮と美優には聞く」


「祐衣さんは?」


「図書室……じゃなくて、連絡先ある?」


 春樹は少し考える。


「美優が知ってるかも」


 なつきが小さく言う。


「私、祐衣さんに聞いてみようか?」


 全員が少しだけなつきを見た。


 なつき自身も、言ってから少し驚いた。


 自分から。


 祐衣に。


 連絡を取る。


 前なら考えられなかったかもしれない。


 でも、図書室で本の話をした。


 感想会の約束もある。


 だから、できる気がした。


 茜が柔らかく微笑む。


「いいと思うわ」


 亜衣もにこっと笑う。


「なつき、すごい」


 春樹が短く言った。


「ありがとう」


 それだけで、なつきの胸はいっぱいになる。


「うん」


 なつきは頷いた。


「聞いてみる」


 海の日程は、仮でその次の土曜日になった。


 参加者は確認中。


 場所は、日陰や休憩スペースがあるところを紅秋と茜が調べる。


 持ち物は後でリスト化。


 圭は「紅秋しおり作って」と言い、紅秋は「必要なら簡単に」と答えた。


 亜衣が「本当に作るんだ」と笑った。


 春樹は「助かる」と言った。


 なつきはそのやり取りを聞きながら、胸の奥がずっと忙しかった。


 海。


 春樹。


 水着。


 美優。


 祐衣。


 みんな。


 期待と緊張が混ざり合っている。


 でも、不思議と逃げたいとは思わなかった。


 行きたい。


 みんなで。


 春樹くんと。


 その気持ちは、ちゃんとある。


 休憩が終わり、最後にもう少しだけ宿題を進めてから解散になった。


 図書館を出る頃には、太陽が少し傾き始めていた。


「今日はかなり決まったな!」


 圭が言う。


「宿題も進んだし!」


 紅秋が言う。


「読書感想文はまだだろう」


「そこはこれから」


「忘れるな」


「はい」


 亜衣も笑う。


「海、楽しみ!」


「その前に宿題」


 茜が言う。


「分かってる。でも楽しみ」


「それは私も」


 なつきはその言葉に頷いた。


「うん。楽しみ」


 春樹がなつきを見る。


「横田さん」


「うん?」


「祐衣のこと、無理しなくていいから」


 なつきは少しだけ驚いた。


 春樹は普通にそう言った。


 気遣い。


 いつもの短い言葉。


 でも、ちゃんと見てくれている。


「大丈夫」


 なつきは小さく笑った。


「私から聞いてみたい」


「そう」


「うん」


 少し間を置いて、なつきは言った。


「春樹くんが、ありがとうって言ってくれたから」


 春樹は不思議そうにする。


「それだけ?」


「それだけじゃないけど」


 なつきは胸の前で手を握る。


「みんなで行けたら、楽しいと思うから」


 春樹は頷いた。


「うん」


 また、短い返事。


 でも、その「うん」は今までより少し柔らかく聞こえた。


 図書館前で解散する。


 圭と紅秋は駅の方へ。


 春樹も同じ方向。


 なつき達は地元側へ。


「また連絡する」


 春樹が言う。


「うん」


 なつきは本と宿題の入った鞄を持ち直す。


「またね、春樹くん」


「また」


 その背中を見送ってから、亜衣がすぐに隣へ来た。


「なつき」


「何?」


「祐衣ちゃんに聞いてみるって言ったね」


「うん」


「すごいじゃん」


「緊張してる」


「でも言えた」


「うん」


 茜も優しく言った。


「大きな一歩ね」


 なつきは小さく頷いた。


 夏の予定を決めるだけで、胸が忙しい。


 でも、その忙しさは嫌ではなかった。


 宿題も、読書感想文も、海の予定も、祐衣への連絡も。


 全部が少しずつ、なつきを前へ押している。


 君の隣を目指す夏。


 その予定表に、ついに「海」という文字が書き込まれた。


 なつきは夕方の空を見上げる。


 雲の隙間から、夏の光が強く差していた。

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