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『君の隣を目指して』――図書室、帰り道、教室――。少しずつ距離を縮めていく、高校生たちの等身大の青春ラブストーリー。  作者: 伊佐波瑞樹


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190/201

第190話 正式に置かれた瞬間から、それはもう私たちだけの案内ではない


 正式設置当日の朝。


 梅桜高校の空は、雲一つない快晴だった。


 昨日まで残っていた湿気も少し抜け、朝の風には珍しく涼しさが混じっている。中庭の木々は強い日差しを受けながらも、早い時間のせいか影を長く伸ばし、校舎の白い壁へ枝の形を細く落としていた。


 いつもなら、なつきが学校へ着く頃には昇降口へ向かう生徒の数もかなり増えている。


 けれど今日は。


 校門を通った時点で、まだ人は少なかった。


 時計を見る。


 七時四十二分。


 普段より、かなり早い。


「早すぎたかな」


 自分で呟く。


 返事はない。


 当然だった。


 春樹とは。


 今日は現地集合。


 正式設置作業が授業前にあるため、全員それぞれ少し早めに来ることになっている。


 校門を抜ける。


 朝の校舎は。


 昼や放課後とは違う。


 まだ眠っているような静けさ。


 清掃担当の職員が廊下の窓を開けている。


 職員室側から。


 コピー機の動く音。


 遠く。


 体育館。


 朝練の掛け声。


 それくらい。


 なつきは。


 階段を上がりながら。


 胸の奥へ。


 何度も同じ言葉が浮かぶ。


 正式設置。


 今日。


 正式設置。


 本当に。


 今日。


 何度考えても。


 現実感が薄い。


 短期試験。


 九枚。


 最終通し。


 申請。


 照会。


 管理。


 許可。


 全部。


 今日のために続いてきた。


 でも。


 いざ今日になると。


 今までの方が長すぎて。


 逆に。


 簡単には信じられなかった。


 二階へ着く。


 十一組ラボの教室。


 扉。


 開いている。


「おはよう」


 中から。


 紅秋。


「おはよう」


「早いね」


「紅秋の方が」


「七時半」


「早すぎ」


「書類確認」


 机の上。


 正式設置用の案内一式。


 最初の青。


 中継。


 黄色い三角。


 正式管理番号付き承認表示。


 管理表。


 設置位置確認写真。


 全部。


 きれいに並んでいる。


 なつきは。


 一瞬。


 教室の入口で。


 止まった。


 知っている。


 全部。


 でも。


 今日から。


 意味が変わる。


「触る?」


 紅秋が聞く。


「いい?」


「もちろん」


 なつきは。


 最初の青い案内へ近づく。


 端。


 厚み。


 文字。


 青い丸。


 大きな右向き矢印。


『青い丸が目印です』


『次は大きな窓』


 何度。


 見ただろう。


 何度。


 作り直しただろう。


 指先で。


 端を。


 軽く触れる。


「昨日までと同じなのに」


 なつきが言う。


「うん」


「違って見える」


「今日から学校の案内になるから?」


「たぶん」


「寂しい?」


「少し」


「嬉しい?」


「すごく」


 紅秋が。


 少し笑う。


「私も」


 その後。


 少しずつ。


 集まる。


 美優。


 蓮。


 茜。


 田辺。


 春樹。


 島中。


「俺最後?」


 島中が教室へ入るなり言う。


「一分前」


 田辺。


「遅刻してない」


「最後」


「関係ない」


「朝一番狙ってたんじゃない?」


 なつきが聞く。


「今日は五時に一回起きた」


「何で」


「正式設置」


「それから?」


「二度寝」


 教室に笑いが起きる。


 春樹が。


 なつきの隣へ。


「おはよう」


「おはよう」


「早かったね」


「春樹も」


「少し」


「緊張?」


「うん」


「同じ」


 春樹が。


 机の上の正式承認表示を見る。


「これ」


「試験って書いてない」


「うん」


 新しい表示。


 学校の校章。


 管理番号。


『校内正式掲示』


 小さな文字。


 それだけ。


 でも。


 今までとは。


 大きく違う。


「これが付くんだね」


 なつき。


「うん」


「正式」


「うん」


「何回言うんだろ」


「今日だけで十回以上」


「数えた?」


「多分」


「島中みたい」


「今日はいい」


 二人で笑う。


 八時。


 施設管理教師。


 十一組ラボ担当教師。


 さらに。


 清掃管理担当の職員。


 全員。


 教室へ。


「おはようございます」


「おはようございます」


「今日はよろしくお願いします」


「こちらこそ」


 施設管理教師は。


 書類を広げる。


「最終確認します」


 一気に。


 空気が変わる。


 嬉しい。


 でも。


 作業。


 正式。


 雑にしない。


 設置位置。


 素材。


 固定方法。


 承認表示。


 管理番号。


 状態。


 全て。


 一つずつ。


「最初の青」


 教師。


「位置」


 美優。


「既存掲示と干渉なし」


「高さ」


 蓮。


「歩行時視線内」


「避難経路」


 田辺。


「問題なし」


「正式承認表示」


 紅秋。


「右下」


「読み取れる?」


 なつきが見る。


「見える」


「作る側だから」


 島中。


「またそれ」


 施設管理教師が笑う。


「設置後に通路側から全員で確認します」


「はい」


「中継」


 次。


 窓。


 青い丸。


 左向き矢印。


『第二実習室は左です』


 つや消し枠。


「固定材」


 確認。


「透明?」


「はい」


「端」


「浮きなし」


「採光」


「問題なし」


「窓開閉」


「固定窓」


「避難表示」


「干渉なし」


「黄色」


 第二実習室前。


 既存表示。


 教室名右横。


 黄色い三角。


『到着後の確認』


 正式承認表示。


「位置」


「昨日確認済み」


「今日も」


「はい」


 全部。


 問題なし。


「では」


 施設管理教師が言った。


「設置します」


 教室が。


 静かになる。


 誰も。


 すぐには動かない。


「誰から?」


 島中が小声で言う。


 施設管理教師が。


 少し笑う。


「十一組ラボのみなさんでどうぞ」


「いいんですか?」


「学校側立ち会いで」


「全部?」


「場所ごとに」


 紅秋が。


 全員を見る。


「最初」


 誰が。


 という空気。


 島中が。


 少し手を上げる。


 でも。


 途中で止める。


「俺やりたい」


「うん」


「でも」


 少し考える。


「一人じゃ嫌」


 教室が。


 少し静かになる。


「じゃあ」


 田辺が。


「俺」


 島中を見る。


「一緒に?」


「二人で」


 島中が笑う。


「頼む」


 最初の青い案内。


 島中。


 田辺。


 二人。


 廊下。


 設置場所。


 施設管理教師が位置を確認。


「ここ」


「はい」


「傾き」


「少し右」


「もうちょい」


「そこ」


 島中の手。


 少し震えている。


「震えてる」


 田辺。


「うるさい」


「押さえる?」


「頼む」


 二人で。


 貼る。


 固定。


 押さえる。


 十秒。


 二十秒。


 手を離す。


 青い丸。


 第二実習室。


 右矢印。


 二行。


 正式承認表示。


 廊下へ。


 そこに。


 残る。


 島中は。


 一歩。


 下がった。


「……置いた」


「うん」


 田辺。


「正式?」


「正式」


「やば」


 声が。


 少し。


 震える。


「泣く?」


 なつきが聞く。


「今日は泣くかもしれない」


「認めた」


「今日はいいだろ」


 笑い。


 次。


 中継。


「ここ」


 紅秋が言う。


「誰?」


 なつきは。


 春樹を見る。


 春樹も。


 こちらを見る。


「やる?」


 春樹。


「うん」


 二人で。


 窓。


 設置位置。


 何度も確認した場所。


 ここ。


 以前。


 分かれ道で戻った人。


 会話中に見落とした人。


 正面だけ見た人。


 知らない人へ声を掛けた人。


 全部。


 この場所。


 なつきは。


 案内を両手で持つ。


「水平?」


 春樹が聞く。


「多分」


「右少し上」


「直す」


「そこ」


「春樹押さえて」


「うん」


 二人。


 設置。


 軽く。


 押さえる。


 正式。


 手を離す。


 窓。


 青い丸。


 左向き矢印。


 文字。


 白い縁。


 つや消し枠。


 全部。


 そこにある。


「なつき」


「何?」


「終わった」


「まだ黄色」


「中継」


「うん」


「置いた」


 胸が。


 熱い。


「春樹」


「うん」


「嬉しい」


「僕も」


 学校の中。


 活動中。


 手はつながない。


 でも。


 目が合う。


 それだけで。


 十分だった。


 次。


 第二実習室前。


 黄色い三角。


 美優。


 茜。


 二人。


 教室名右横。


「もう少し左?」


 美優。


「教室名に近い」


 茜。


「昨日の写真」


「これ」


 確認。


 設置。


『到着後の確認』


 正式承認表示。


 既存表示。


 全部。


 つながる。


「全体確認」


 施設管理教師。


 今度は。


 十一組ラボ全員。


 最初から。


 歩く。


 利用者ではない。


 作った側。


 だから。


 見える。


 知っている。


 それでも。


 正式設置初日の安全確認として。


 全員。


 歩く。


 最初。


 青い案内。


「位置」


 問題なし。


「正式表示」


 見える。


「大きな窓」


 進む。


 渡り廊下。


 分かれ道。


 窓。


 中継。


「反射」


 朝。


 弱い。


「文字」


 読める。


「矢印」


 左。


「青い丸」


 輪郭。


 第二実習室。


 教室名。


 黄色い三角。


「位置」


 自然。


「正式表示」


 見える。


 完了。


 施設管理教師が。


 記録へ。


 時刻。


 状態。


 署名。


 十一組ラボ担当教師も。


 確認。


「これで」


 施設管理教師が言う。


 全員。


 見る。


「正式設置完了です」


 静か。


 また。


 一瞬。


 誰も動かない。


「……終わった?」


 島中。


「設置作業は」


「正式?」


「正式です」


 島中が。


 目を閉じる。


「よし」


 小さく。


 今度は。


 叫ばない。


「何で今日叫ばないの?」


 なつきが聞く。


「何か」


 島中。


「今は」


 少し考える。


「静かに見たい」


 その言葉。


 全員が。


 少し。


 分かる気がした。


 青い案内。


 廊下にある。


 人が通る。


 知らない生徒。


 朝早く来た普通科一年男子。


 歩く。


 最初の案内。


 視線。


 矢印。


 何も知らない。


 正式設置初日だと知らない。


 十一組ラボが見ていることも知らない。


「来た」


 島中が小声。


「観察じゃない」


 蓮。


「分かってる」


 でも。


 全員。


 少し見る。


 男子生徒。


 案内の前。


 一瞬。


 矢印。


 右へ。


 歩く。


 渡り廊下。


 大きな窓。


 青。


 左。


 第二実習室。


 教室名。


 そのまま。


 中へ。


「……使った」


 島中。


「普通に」


 茜。


「当たり前みたいに」


 美優。


 なつきは。


 胸が。


 少し変な感じになる。


 嬉しい。


 でも。


 拍手したいほどではない。


 むしろ。


 静か。


 その生徒は。


 何度も試作したことを知らない。


 九枚の意見も。


 黄色い三角の議論も。


 管理基準も。


 知らない。


 ただ。


 行きたい場所へ。


 行った。


「これが」


 春樹が小さく言う。


「正式設置?」


「何?」


 なつき。


「誰も気にしない」


「うん」


「使えたら」


「うん」


「それで終わり」


「うん」


「何か」


 なつきは笑う。


「地味」


「前も言ってた」


「でも」


「好き?」


「好き」


 即答。


 春樹が。


 少し笑う。


 八時二十分。


 朝の生徒が増える。


 案内。


 何人か。


 見る。


 見ない。


 矢印だけ。


 青い丸。


 文字。


 全部。


 それぞれ。


 十一組ラボは。


 観察記録を取らない。


 今日は。


 正式設置初日。


 移行確認期間。


 状態確認はする。


 でも。


 通行する全員を。


 また実験対象にはしない。


「教室戻るよ」


 紅秋。


「授業」


 島中。


「あと五分」


「遅刻する」


「もう少し」


「正式設置は逃げない」


 田辺。


 島中が。


 一瞬。


 案内を見る。


 そして。


 笑う。


「……そうだな」


「行く?」


「行く」


 全員。


 十一組ラボの教室へ。


 最後に。


 なつきが。


 一度。


 振り返る。


 中継案内。


 窓。


 朝日。


 人。


 そこにある。


「なつき」


 春樹。


「置いてく?」


「うん」


「学校に」


「うん」


「寂しい?」


「少し」


「僕も」


「でも」


「嬉しい?」


「すごく」


 二人。


 戻る。


 授業。


 いつもの一日。


 一時間目。


 正式設置された案内は。


 そこにある。


 二時間目。


 そこにある。


 昼休み。


 そこにある。


 十一組ラボが見ていなくても。


 そこにある。


 昼。


 移行確認。


 今日から二週間。


 朝簡易確認。


 十一組ラボ。


 学校側。


 二者。


 昼は。


 義務ではない。


 でも。


 なつきは。


 どうしても。


 見たかった。


「行く?」


 茜が聞く。


「見たい」


「私も」


「観察じゃなく」


「状態」


「うん」


 何人か。


 第二実習室方面へ。


 歩く。


 最初の青。


 問題なし。


 中継。


 問題なし。


 黄色。


 問題なし。


 正式承認表示。


 そこ。


 そして。


 第二実習室前。


 普通科の女子生徒二人。


「これ変わった?」


「何が?」


「黄色のやつ」


「あ、ほんと」


「前からあった?」


「知らない」


 その会話。


 なつきたち。


 少し離れたところで。


 聞く。


「正式って書いてある」


「学校のなんだ」


「へえ」


 それだけ。


 女子生徒たち。


 中へ。


「承認表示」


 美優。


「見た」


「機能?」


 蓮。


「一事例」


「はい」


 島中が笑う。


「すぐ成功って言わない」


「学習した」


「今日は言っていい」


 笑い。


 昼休み。


 十一組ラボの教室。


 正式設置初日。


 でも。


 今度は。


 別の話。


「意見箱」


 紅秋。


「正式設置後の案内意見を受け取る方法」


「昨日」


 島中。


「常設の意見箱へ、案内も書けるって」


「うん」


「専用紙なし」


「うん」


「掲示追加?」


「しない」


「どうやって知ってもらう?」


「十一組ラボの変更記録に」


 美優。


「正式設置後も意見受付中とだけ」


「案内横に?」


「置かない」


「情報増やさない」


 なつき。


「教室前」


「意見箱近く」


「それ」


 正式設置。


 終わってない。


 むしろ。


 新しい運用。


 管理。


 意見。


 学校との共同。


 そこが。


 始まる。


「正式設置後」


 紅秋が言う。


「十一組ラボの役割」


 黒板。


『状態確認』

『意見受取』

『記録』

『改善提案』


「直接変更」


「なし」


 島中。


「学校と相談」


「うん」


「何か」


 少し。


 考える。


「前より仕事減った?」


「変わった」


 蓮。


「作るから」


 春樹。


「見る」


 なつき。


「声を拾う」


 茜。


「渡す」


 美優。


「必要なら提案」


 田辺。


「管理は」


「学校と一緒」


 紅秋。


 島中が。


 黒板を見る。


「それ」


「嫌?」


 なつき。


「いや」


 少し笑う。


「好き」


 放課後。


 正式設置初日。


 一日の最後。


 十一組ラボと施設管理。


 状態確認。


 最初の青。


 異常なし。


 中継。


 異常なし。


 黄色。


 異常なし。


 固定。


 問題なし。


 正式承認表示。


 問題なし。


 管理表。


 記録。


『正式設置初日 異常なし』


 その一行。


 島中が。


 しばらく見ている。


「書く?」


 施設管理教師が聞く。


「俺が?」


「今日は十一組ラボ側担当」


 島中が。


 ペンを持つ。


 少し。


 慎重に。


 署名。


「……書いた」


「今度は学校の記録」


「うん」


 少し。


 嬉しそう。


 施設管理教師が。


 管理表を閉じる。


「明日も」


「はい」


「二週間」


「はい」


「よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 そこ。


 対等ではない。


 生徒。


 学校。


 でも。


 一緒に管理する。


 それが。


 少し。


 誇らしい。


 教室。


 おかえり会。


 正式設置初日の案内は。


 戻ってこない。


 今まで。


 仮置き。


 撤去。


 教室へ。


 試作品。


 おかえり。


 でも。


 今日は。


 戻ってこない。


 机の中央。


 空いている。


「ない」


 茜が言う。


「何が?」


 島中。


「案内」


「あ」


 全員。


 少し。


 気づく。


 いつも。


 確認後。


 机の上。


 青。


 黄色。


 矢印。


 今日は。


 ない。


「おかえり会なのに」


 なつき。


「帰ってこない」


 春樹。


「正式設置だから」


 紅秋。


「向こうに残る」


 少し。


 静か。


「変な感じ」


 美優。


「寂しい」


 茜。


「俺も」


 島中。


 誰も。


 否定しない。


 嬉しい。


 でも。


 寂しい。


 両方。


「じゃあ」


 なつきが。


 机の中央へ。


 管理表の控えを置く。


「これ」


「何?」


「今日戻ってきたもの」


「記録」


「うん」


 春樹が。


 少し笑う。


「案内の代わり?」


「代わりじゃない」


「じゃあ?」


「今日の声」


「まだ意見ない」


「状態」


「なるほど」


 机の中央。


『正式設置初日 異常なし』


 たった一行。


 それを。


 全員で見る。


「地味」


 島中。


「でもいい」


 田辺。


「うん」


 正式設置。


 最初の日。


 何も壊れなかった。


 大きな問題は届かなかった。


 それだけ。


 でも。


 それが。


 正式に使われる日常。


 夕方。


 活動終了。


 校門。


 なつきと春樹。


 二人。


 今日は。


 いつもより。


 少し歩く速度が遅い。


「終わったね」


 なつき。


「何が?」


「設置」


「うん」


「でも」


「活動は終わってない」


「うん」


「変な感じ」


「僕も」


 人が減る。


 手。


 近づく。


 なつきから。


 つなぐ。


 春樹も。


 握る。


「今日」


 なつき。


「うん」


「中継、一緒に置いた」


「うん」


「覚えてる?」


「忘れない」


「私も」


「でも」


「何?」


「いつか」


 春樹。


「僕たちが卒業して」


「うん」


「誰か別の人が管理する」


「うん」


「その人は」


「うん」


「僕たちが一緒に貼ったこと知らない」


 なつきは。


 少し。


 胸が。


 寂しくなる。


「そうだね」


「でも」


「使える」


「うん」


「それがいい」


「うん」


 夕暮れ。


 風。


 つないだ手。


「今日から」


 なつき。


「学校の案内」


「うん」


「私たちだけのじゃない」


「うん」


「でも」


「何?」


「私たちが作ったこと」


「うん」


「なくならない?」


 春樹は。


 少し考える。


「記録が残る」


「うん」


「僕たちが覚えてる」


「うん」


「それで」


 少し。


 手を強く握る。


「十分じゃない?」


 なつきは。


 春樹を見る。


「……うん」


 少し。


 笑う。


「十分」


 正式に置かれた瞬間から。


 案内は。


 もう。


 十一組ラボだけのものではなくなった。


 使う生徒。


 管理する学校。


 清掃する人。


 先生。


 後輩。


 いつか。


 この案内の理由を知らない誰か。


 全部。


 その人たちのものにもなる。


 だから。


 嬉しい。


 だから。


 少し寂しい。


 でも。


 手放すことは。


 なくすことではない。


 届く場所を。


 増やすこと。


 十一組ラボは。


 今日。


 一つの案内を。


 学校へ渡した。


 そして。


 空いた机の中央には。


 次に届く声を置く場所が。


 もう残っていた。

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