第136話 他クラスの意見は、思ったより遠慮がない
放課後。
梅桜高校中央棟、二階会議室。
昨日よりも少しだけ早い時間だというのに、廊下にはすでに実行委員たちの姿が増えていた。
制服姿の生徒が資料を片手に歩き回り、小さな輪を作って打ち合わせをしている。
「あっ、昨日の商業科の子だ。」
「二年十一組だよね。」
「交流ブースの案出してた。」
聞こえるような、聞こえないような距離。
昨日までなら、その声だけで肩に力が入っていた。
けれど今日は違う。
緊張はある。
胸も少し苦しい。
それでも足は止まらなかった。
隣には春樹がいる。
その事実だけで、不思議と呼吸が整っていく。
「資料、もう一回見る?」
春樹が歩幅を合わせながら尋ねる。
なつきは首を横に振った。
「……ううん。」
少しだけ笑う。
「見直すと、逆に全部間違ってる気がしちゃいそうだから。」
「そういう日もある。」
春樹は否定しない。
「でも昨日、一緒に確認した。」
「うん。」
「だから今日は、自分たちが考えたことを信じて出せばいい。」
その一言だけだった。
励まそうという大きな言葉でもない。
「大丈夫。」
とも言わない。
それでも。
"昨日やったことは無駄じゃない"
そう言われた気がして、なつきは小さく頷いた。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
二人はそのまま会議室へ入った。
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昨日と同じ机。
昨日と同じ座席。
だが、空気は少し違っていた。
一度顔を合わせた者同士だからだろう。
緊張は残っている。
それでも、
「昨日ありがとう。」
「お疲れ。」
そんな短い言葉が自然に交わされている。
十組の女子実行委員が手を振った。
「横田さん!」
「あ、お疲れさま!」
「企画まとまった?」
「一応……。」
「うちも何とか。」
笑いながら資料を見せ合う。
その横では十二組の男子が、
「昨日より厚くなってる。」
「先生に宿題増やされた。」
と苦笑している。
春樹も隣の男子実行委員と資料を見比べ始めた。
「整理、早いね。」
「昨日帰ってまとめた。」
「やっぱり。」
「そっちは?」
「消しゴムの跡が増えた。」
そんな静かなやり取り。
昨日よりも距離が縮まっている。
なつきは、その様子を見て少し安心した。
「皆さん、席についてください。」
先生の声で会議室が静まる。
椅子を引く音。
紙の擦れる音。
咳払い。
空調の音だけが残る。
「それでは第二回実行委員会を始めます。」
昨日よりも進行は早かった。
説明は短い。
今日は各クラスの企画案を持ち寄り、
相互に意見を出し合う日だった。
「では二年生からお願いします。」
先生が言う。
十組。
十一組。
十二組。
順番に発表していく。
なつきは紙を握る手に少し汗を感じた。
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十組の発表。
交流をテーマにした体験教室。
普通科らしい、
「来た人が楽しめる」
を中心に考えた企画だった。
質問も多い。
「対象人数は?」
「回転率は?」
「準備は?」
発表した生徒が丁寧に答えていく。
なつきは必死にメモを取った。
昨日とは違う。
今日は、
「聞く」
だけではなく、
「比較する」
時間でもある。
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続いて。
「二年十一組、お願いします。」
先生の声。
なつきは立ち上がる。
胸が一度だけ高鳴る。
春樹が隣に立った。
二人は前へ出る。
教室より少し広い会議室。
視線の数も増えている。
昨日より静かだ。
昨日より見られている。
「お願いします。」
春樹が小さく言う。
なつきは頷いた。
昨日。
教室では三秒。
今日は。
何秒だろう。
一度息を吸う。
「二年十一組です。」
自然に声が出た。
昨日より早い。
昨日より震えていない。
春樹が横で少しだけ笑った。
なつきは資料を開く。
「私たちは、地域交流と商業科らしさを両立させる企画として……」
昼休みにまとめた内容。
目的。
流れ。
対象。
混合班。
商品企画。
価格設定。
宣伝。
利益計算。
一つずつ説明していく。
途中は春樹へ交代。
春樹が数字や運営方法を補足する。
二人で交互に話す。
昨日より自然だった。
発表が終わる。
「以上です。」
静かになる。
数秒。
誰も話さない。
沈黙。
なつきは胸が少しだけ苦しくなった。
(……どうだったんだろう。)
その時だった。
十二組の男子が手を挙げた。
「質問いいですか。」
「はい。」
春樹が答える。
「商業科が教える側になる時間、多くありませんか?」
「え?」
なつきは少し驚く。
男子は続けた。
「交流って、お互いが参加するイメージなんです。でも、この資料を見ると商業科が説明して、他学科が聞く時間が長そうに見えます。」
会議室が静かになる。
責める口調ではない。
でも。
率直だった。
十組の女子も続ける。
「私も少し思いました。」
「商品を考えるのは楽しそうなんですけど、商業科の体験授業みたいになりませんか?」
別の声。
「交流というより見学寄りかなって。」
なつきの胸が、少しだけ重くなる。
(……否定された。)
そう思った。
昨日。
皆で頑張ってまとめた企画。
昼休みも話し合った。
放課後も資料を直した。
それを。
最初に返ってきた言葉が、
「弱い。」
だった。
思わず資料へ視線が落ちる。
その瞬間。
春樹が静かに口を開いた。
「ありがとうございます。」
反論ではなかった。
「確認なんですが。」
春樹は落ち着いた声で続ける。
「交流が弱いというのは、説明時間が長いことですか。それとも参加する時間そのものですか。」
質問した男子が少し考える。
「両方です。」
「なるほど。」
春樹はすぐ書き留めた。
「他にも同じように感じた人、いますか。」
数人が手を挙げる。
先生も頷いた。
「率直な意見をお願いします。」
そこで、
一人、
また一人と手が挙がっていく――。




