表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殺しの2トントラック〜社畜ドライバーの異世界爆走記〜  作者: ぱすた屋さん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/34

第6話:【無双】野盗の待ち伏せ?「邪魔だ。納期に遅れる」



「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」


 私の絶叫が、平和なはずの草原にこだまする。


 フロントガラスの向こう側では、街道を完全に塞ぐ巨大な丸太のバリケードが、猛烈な速度で迫ってきていた。

 その手前には、汚い身なりをした野盗の集団が数十人。

 彼らは私たちが乗る『鉄の魔獣トラック』を見て、ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべている。


「ひゃははは! なんだあの白くて四角い馬車は! 馬がいねえぞ!」


「馬鹿め、魔法陣で動く高級な魔道具アーティファクトだろうよ! どこの貴族様か知らねえが、いいカモが来やがったぜ!」


「おいおい、あんなスピードで突っ込んできたら、バリケードに激突して自滅するんじゃねえか?」


 野盗たちは武器を構えたまま、余裕の表情でこちらを見物している。

 彼らは知らないのだ。

 この白い鉄の箱が、いかに異常な質量と硬度を持っているかを。

 そして、この運転席に座る男が、どれほど狂っているかを。


「か、駆さん! お願いですから止まってぇぇぇ! 丸太にぶつかったら、私たちペシャンコになっちゃいますぅぅ!」


「……シートベルトは締めているな」


 駆は私の悲鳴を完全に無視し、淡々と確認した。


「締めてますけど!? そういう問題じゃな――」


「衝撃に備えろ」


 駆はハンドルを強く握り直し、一切の躊躇なく、アクセルペダルを底まで踏み抜いた。


 ヴオオオオオオオオオオオオオンッ!!!


「ひぎゃあああああああああああっ!」


 時速60キロ。

 現代の幹線道路ではごくごく一般的な「法定速度」である。

 しかし、馬車が時速10キロから20キロで走るこの異世界において、時速60キロで迫り来る2トンの鉄の塊は、まさに「災厄」そのものだった。


「お、おい! あいつ、減速しねえぞ!?」


「バカな!? この分厚い丸太の壁が見えねえのか! 止まれぇぇっ!」


 ようやく事態の異常性に気づいた野盗たちが、慌てて逃げ出そうとする。

 だが、遅い。


 ドゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!


 凄まじい激突音と共に、私たちの視界が激しく揺れた。


「あわわわわわわわわっ!」


 目を固く瞑った私だったが、予想していた「ぺしゃんこ」になるような衝撃は来なかった。

 ただ、車体が少しガタン! と上下に跳ねただけだ。


 恐る恐る目を開けると。

 目の前にあったはずの、太さ数十センチはあろうかという丸太のバリケードが、木っ端微塵に粉砕され、宙を舞っていた。


「な、ば、馬鹿なっ!?」


「俺たちのバリケードが、紙屑みたいに……!」


 野盗のリーダー格の男が、信じられないものを見る目で絶叫する。

 当然だ。

 女神の神聖魔法すら無効化し、大理石の壁を容易くぶち破る『対神格結界コーティング・フロントバンパー』。

 ただの木材ごときが、このトラックの進行を止められるわけがないのだ。


「……バリケード突破。進路クリア」


 駆は顔色一つ変えず、スピードメーターを確認する。


「な、舐めるな! 野郎ども、攻撃だ! 魔法でぶっ壊せ!」


 リーダーの怒声に呼応し、野盗の魔術師たちが一斉に杖を構えた。


「『火炎球ファイアボール』!」


「『岩石弾ロックバレット』!」


 車体に向かって、無数の炎と岩が飛来する。

 直撃すれば、並の装甲馬車など一瞬で木っ端微塵になる火力の集中砲火。


「ひぃぃぃぃっ! 今度こそ死ぬぅぅぅ!」


 しかし、駆は涼しい顔で、ハンドルの横にあるレバーをカチッと引いた。


「……ウォッシャー液、噴射。ワイパー作動」


 プシュッ! ウィィィン、バキィィィンッ!


「えっ」


 私の目の前で、信じられない光景が広がった。


 フロントガラスの根元から、青い謎の液体(ウォッシャー液)が勢いよく噴射される。

 そして、左右に動く黒いワイパーが、飛来してきた巨大な火炎球も、硬い岩石弾も、まとめて「バキィッ!」という甲高い音と共に弾き飛ばしたのだ。

 さらに、青い液体がフロントガラスをピカピカに磨き上げていく。


「ま、魔法が弾かれただと……!?」


「あ、あの青い聖水はなんだ!? 神聖防壁か!? 結界魔術か!?」


 野盗たちがパニックに陥り、完全に戦意を喪失して尻餅をつく。


「……視界良好。さて、次は」


 駆の黒い瞳が、野盗の集団を冷たく見据えた。


「道交法違反の歩行者ゴミを掃除する」


 ヴオオオオオオオンッ!!


 トラックは無慈悲な加速を続け、逃げ惑う野盗たちの群れへと突っ込んでいった。


「ひぎゃあああっ!」


「だ、誰か助け……ごはぁっ!」


「アバババババババッ!」


 ドンッ! バンッ! ボグシャァッ!


 まるでボウリングのピンが弾け飛ぶように、野盗たちが次々と空高く舞い上がっていく。

 2トンの質量による、純粋な物理的蹂躙。

 トラックの頑丈なボディは、野盗の鎧や剣にぶつかっても傷一つ付かない。


「……ストライク」


 駆が小さく呟いた。


 バックミラーに映る光景は、まさに地獄絵図だった。

 数十人の凶悪な野盗たちが、道端で白目を剥いて泡を吹き、ピクピクと痙攣している。

 一人の死者も出ていないのが奇跡的だが(おそらくトラックの謎のチート補正だろう)、全員が完全に再起不能の重傷を負っていた。


「……」


 私は助手席で、口をパクパクと開閉させることしかできなかった。


「ふむ」


 駆はルームミラーで後方を確認し、短く息を吐いた。


「フロントグリルに血と泥が少し付いたな。あとで洗車機を探さないと」


「……」


「どうした、ミオ。静かだな。車酔いか?」


「……か、駆さん」


「なんだ」


「あ、あなた、本当に運送屋なんですか……? どこかの国の、暗殺部隊のトップとかじゃなくて……?」


 私の震える声に対し、駆は心底不思議そうな顔をした。


「何を馬鹿なことを言っている。俺はただの社畜だ。それに、あんな程度の障害物、教習所の路上教習でいくらでも出てくるだろう」


「どんな地獄の教習所ですかそれぇぇぇぇっ!?」


 私は両手で頭を抱え、思い切りツッコミを入れた。

 この男、異世界の常識はおろか、自分の異常性すら全く自覚していない!

 時速60キロで野盗を数十人轢き飛ばしておいて、「洗車しなきゃ」で済ませる精神構造はどうなっているのだ。


「……とにかく、納期に間に合わせるのが最優先だ。荷台の『スライムの粘液』の温度も問題ない。このままオークヘイブンまで一気に直行するぞ」


「は、はい……」


 私は力なく頷いた。

 もう、この鉄の魔獣の暴走を止めることなど、私には不可能だと悟ったからだ。

 ただ一つ確かなのは、この助手席にいれば、どんな危険からも絶対に守られるということだけである。




     * * *




 それから数時間後。

 トラックは一切のトラブル(現れた魔獣はすべてクラクションと突撃で排除された)もなく、順調に街道をひた走っていた。


「……駆さん。もうすぐ夕暮れですね」


 私は窓の外の景色を見ながら言った。

 空が赤く染まり始め、街道の周囲の森も暗い影を落とし始めている。


「そうだな。現在時刻は17時30分。そろそろオークヘイブンの街が見えてくるはずだ」


 駆の言葉通り、遠くの平原に、高い石壁に囲まれた街のシルエットが浮かび上がってきた。


「あっ、見えました! あれがオークヘイブンです!」


「よし。時間通りだな」


 本来なら馬車で3日かかる死の道のりを、たった半日で走破してしまった。

 ギルドマスターのガストンさんが知ったら、泡を吹いて倒れるかもしれない。


「納品が終わったら、今日はあの街で宿を取りましょう。私、野宿はもう嫌ですからね……」


 行商人時代、借金取りから逃げるために、森の中で震えながら寝袋に包まっていた日々を思い出す。

 やっと、柔らかいベッドで眠れる。


「……いや。宿には泊まらない」


 駆の予想外の言葉に、私は首を傾げた。


「え? どうしてですか? 報酬をもらえば、安い宿くらい泊まれるはずですよ?」


「……無駄な経費は削減する。それがプロの運送屋だ」


 駆は街の城門の手前でウインカーを出し、街道から少し外れた、静かな草原の広場へとトラックを停車させた。


 キキィッ、ブルルルルン……。

 エンジンが停止し、周囲に夜の静寂が訪れる。


「ここで野営をする」


「よ、野営!? 嘘でしょ!?」


 私は慌てて抗議した。


「せっかく街の目の前まで来てるのに、なんで野宿なんですか! 森の近くは夜になると魔獣が出ますよ! それに、私、テントも寝袋も持ってませんし……!」


「問題ない。設備は整っている」


 駆は運転席から降りると、荷台の方へと歩いていった。

 私も渋々、助手席から降りて後を追う。


「設備って……ただの鉄の箱じゃないですか。いくら魔獣が近寄ってこないかもしれないとはいえ、固い荷台の床で寝るなんて……」


「……ミオ。俺を誰だと思っている。長距離トラックのドライバーだぞ」


 駆は荷台の観音開きのドアに手をかけ、ガチャリとロックを解除した。


「いいか。運送業界において、車中泊は基本中の基本だ。俺のトラックは、長期間の過酷な業務に耐えられるよう、特別な『空間拡張チートカスタマイズ』が施されている」


「く、空間拡張……?」


「見ろ」


 駆が、バァン! と荷台のドアを大きく開け放った。

 私は、その中を覗き込み――。


「ええええええええええええっ!?」


 そして本日、何度目かわからない絶叫を上げることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ