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神殺しの2トントラック〜社畜ドライバーの異世界爆走記〜  作者: ぱすた屋さん


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第26話:【国境】難民受け入れ拒否?「彼らは難民ではない。引越しの『お荷物』だ」



「……ふむ。やはり重量があると、サスペンションの沈み込みが違うな」


 帝国軍の包囲網を突破し、西へ向かう街道をひた走る純白の2トントラック。

 運転席の駆さんは、死んだ魚の目でスピードメーターと燃費計を交互に睨みつけていた。


「150人分の人間なまものと、彼らの家財道具。それに金貨500枚の入った木箱。積載制限ギリギリといったところか。……燃費がさらに悪化しそうだ」


「か、駆さん。命からがら逃げ出してきたばかりなんですから、燃費の文句を言うのはやめてくださいよぉ……」


 助手席で、私は疲労困憊してシートに深く沈み込んでいた。

 帝国軍の数千の大軍勢を蹂躙し、巨大ゴーレムを光のレーザーで真っ二つにしてきたのだ。

 私の心臓は、まだ早鐘のようにドクドクと鳴り続けている。


「……ミオ。荷台の様子はどうだ」


「あ、はい。モニター確認します」


 私はダッシュボードのモニターを操作した。

 空間拡張チート機能によって、まるで体育館のように広大になった荷台の内部が映し出される。


『おおっ、揺れないぞ! この魔獣の腹の中はどうなっているんだ!?』

『村長! 冷蔵庫っていう箱の中に、すごく甘くて冷たい飲み物が入ってました!』

『こら! 勝手に飲むんじゃない! ……うむ、美味い!』


 モニター越しに見える村人たちは、すっかり恐怖を忘れ、異世界の最新家電(?)と快適な空調に囲まれて、ちょっとした宴会状態になっていた。


「……完全にくつろいでますね。さっきまで帝国軍に焼き殺されそうになっていた人たちとは思えません」


「……まあいい。引っ越し業において、お客様(お荷物)が快適に過ごせるのは良いことだ。ストレスは品質劣化の原因になるからな」


 駆さんは淡々と呟き、ハンドルを握り直した。


「それで、駆さん。私たちはこれからどこに向かっているんですか?」


「西の隣国、『自由交易国ゼピュロス』だ。国境まであと少しのはずだが」


 駆さんが指差したフロントガラスの向こう。

 地平線の先に、巨大な城壁に囲まれた巨大な関所ゲートが見えてきた。


「あっ、見えました! ゼピュロスの国境ゲートです!」


 自由交易国ゼピュロスは、あらゆる種族と商人が行き交う、大陸有数の商業国家だ。

 お金さえあれば、獣人の私たちでも新しい土地を買って、村を再建することができるはず。


「よし。あそこで入国手続きを済ませ、適当な土地にこの150人を『納品おろ』せば、今回の業務は完了だ」




     * * *




 ゼピュロスの国境ゲート前には、入国審査を待つ商人たちの馬車が長蛇の列を作っていた。


「……渋滞か。これだから関所の手続きは嫌いなんだ」


 駆さんはチッと舌打ちをすると、列の最後尾にトラックをピタリと停車させた。


「あ、駆さん。列に並ぶんですね」


「当たり前だ。俺はプロの運送屋だ。渋滞の割り込みや、路肩走行などの交通違反は絶対にしない」


 数千の軍隊のど真ん中はクラクションを鳴らして強行突破したくせに、こういうところのルールは異常に厳守する男である。


 トラックのアイドリング音を響かせながら待つこと数時間。

 ようやく、私たちの順番が回ってきた。


「次! 前へ進め!」


 ゼピュロスの国境警備隊の兵士が、手招きをした。

 駆さんはトラックをゆっくりと前進させ、検問所の窓口に横付けした。


「……なんだこの奇妙な箱馬車は? 馬も繋がっていないのに動いているぞ」


 窓口から顔を出した小太りの警備隊長が、不審そうにトラックをジロジロと見回した。

 そして、バンパーにガムテープで縛り付けられた『光る棒』を見て、さらに目を丸くする。


「お、おい! そのバンパーについているピカピカ光る剣は……まさか『聖剣』じゃないか!?」


「……フォグランプ(補助灯)の代用品だ。車検対応サイズにハンマーで折ってあるから、道交法上の問題はないはずだが」


 駆さんが運転席の窓を開け、死んだ魚の目で答えた。


「ほ、補助灯……? 聖剣を……?」


 警備隊長は完全に混乱しているようだったが、すぐにコホンと咳払いをして威圧的な態度に戻った。


「ま、まあいい! 入国目的と、積載物を申告しろ!」


「轟運輸だ。引っ越し業務のため、荷物を運搬している」


 駆さんはバインダーを取り出し、通行証の代わりとして差し出した。


「引っ越しだと? ふん、こんな鉄の箱に大した荷物が乗っているとは思えんが……一応、中を改めさせてもらうぞ。怪しい密輸品がないか確認するからな」


「……構わん。ミオ、後ろを開けてやれ」


「は、はい」


 私は助手席から降りて、トラックの後方へと回った。

 警備隊長と数名の兵士たちが、槍を構えながらついてくる。


「さあ、早く開けろ! この中に武器でも隠し持っていたら、即刻没収だからな!」


「驚かないでくださいよ……」


 私はガチャリとロックを外し、観音開きのドアを大きく開け放った。


 バァァァァァァンッ!


「ほら、中を見――」


 警備隊長が威張り散らしながら荷台の中を覗き込んだ、その瞬間。


『わはははは! そっちの肉も焼けたぞ!』

『おお、この魔獣の腹の中は本当に快適じゃのう!』


 空間拡張された『巨大な体育館』サイズの空間の中で。

 150人の獣人たちが、備え付けのキッチンで肉を焼き、ベッドでトランポリンをし、冷蔵庫の麦茶を飲んで大宴会を開いている光景が、目に飛び込んできた。


「…………は?」


 警備隊長と兵士たちは、ポカンと口を開け、持っていた槍を取り落とした。


「な、ななな……なんだこの空間は!? 箱の中に巨大な部屋があるぞ!? しかも、獣人が……100人以上!?」


「……だから言っただろう。引っ越しの『お荷物』だ」


 運転席から降りてきた駆さんが、淡々と説明した。


「彼らは全員、俺が運送契約を結んだ大切なお客様(お荷物)だ。検品が終わったなら、早く入国スタンプを押してくれ。アイドリングで燃費が悪くなる」


「ふ、ふざけるな!!」


 警備隊長が、顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げた。


「お荷物だと!? どう見ても、帝国領から逃げてきた獣人の『難民』じゃないか! 我がゼピュロスは、金を持たない難民の受け入れは固く拒否しているのだ!」


「難民ではない。俺が運んでいるのは、ただの引っ越しの荷物だ」


 駆さんは一歩も引かずに言い返す。


「ええい、屁理屈を言うな! 150人もの獣人を国に入れたければ、一人につき金貨10枚……合計で『金貨1500枚』の特別入国税を払え! 払えないなら、即刻立ち去れ!」


「き、金貨1500枚!?」


 私は悲鳴を上げた。

 私たちが持っているのは、オルテシア伯爵からもらった金貨500枚(うち借金返済用50枚)だけだ。

 そんな大金、払えるわけがない。


「隊長! こいつら、払えそうにありませんぜ!」


「ふん! ならば、この不審な箱馬車と、中にいる獣人たちはすべて我々国境警備隊で『没収』する! 獣人は奴隷として売り飛ばせば、いい金になるからな!」


 警備隊長が下卑た笑いを浮かべ、兵士たちが一斉に武器を構えてトラックを取り囲んだ。


「ひぃっ! か、駆さん!」


「……」


 駆さんは、武器を向けられても一切表情を変えず、ただ冷たく、地を這うような低い声で呟いた。


「……正当な理由のない荷物の差し押さえ。および、法外な関税の要求。これは明確な『運送業務への妨害行為』だな」


「へっ! ここは俺たちの国だ! 俺たちのルールが絶対なんだよ!」


「……そうか」


 駆さんはバインダーを閉じ、踵を返して運転席へと歩き出した。


「ミオ。車に乗れ。ドアを閉めるぞ」


「えっ? か、駆さん? 入国できないなら、どうするんですか!?」


「……ナビは黙って座っていろ。シートベルトを忘れるな」


 駆さんの死んだ魚の目に、帝国軍の陣地に突っ込んだ時と同じ『狂気の炎』が宿っているのを見て、私はすべてを悟った。


「あ、あわわわ……またですか! またなんですかぁぁぁ!」


 私は慌てて荷台のドアを閉め、助手席に飛び乗ってシートベルトを強く握りしめた。




     * * *




「おい! 逃げる気か! 門を閉めろ! 逃がすな!」


 警備隊長の命令で、国境ゲートの分厚い『鋼鉄の城門』が、ギゴゴゴ……と重々しい音を立てて閉ざされていく。

 さらに、トラックの前には、太い丸太で作られた車止め(バリケード)が何重にも降ろされた。


 完全に、退路も進路も断たれた状態だ。


「……ミオ。この世界の高速道路には『ETC(自動料金収受システム)』は普及していないようだな」


 駆さんはエンジンを吹かしながら、ダッシュボードのスイッチをいくつか操作した。


「ETC? なんですかその呪文は!」


「料金所で止まらずに、専用レーンをノンストップで通過できる素晴らしいシステムのことだ。……導入されていないなら、俺が自ら『ETCレーン』を開拓するまでだ」


「開拓って、まさか……あの鋼鉄の城門を!?」


「……対神格結界コーティング、最大出力。障害物、排除」


 駆さんが、アクセルペダルを床の底まで踏み抜いた。


 ヴオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!


 純白の2トントラックが、凄まじい白煙を上げて急発進する。


「なっ!? 止まれ! 止まらんかぁぁぁっ!」


 警備隊長が絶叫するが、時速80キロまで急加速した2トンの鉄の塊は、丸太のバリケードを爪楊枝のようになぎ倒し、完全に閉ざされた『鋼鉄の城門』へと真っ直ぐに突進した。


「いやあああああああああああああっ!!!!」


 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!


 ゼピュロスの国境に、鼓膜を破るような大音響が轟いた。

 厚さ数十センチはあるはずの鋼鉄の城門が、トラックのフロントバンパーに激突された瞬間、まるで爆弾を仕掛けられたかのように内側へと吹き飛んだのだ。


 バンパーに括り付けられた聖剣が、黄金の光を撒き散らしながら城門の残骸を粉砕していく。


「……ETCゲート、通過確認。通行料金、0円」


 駆さんは死んだ魚の目でそう呟くと、ひしゃげて吹き飛んだ城門の跡地を悠然と通り抜け、ゼピュロスの国内へと侵入を果たした。


「あばばばばばばばっ……」


 私は助手席で白目を剥いて震えていた。

 帝国軍に続き、今度は隣国の国境ゲートを『物理的に突破』してしまったのだ。

 もう、私たちを指名手配していない国は、この大陸に存在しないのではないだろうか。


「……よし。入国完了だ。さっさと村人たちの新居となる土地を探すぞ、ミオ」


「入国じゃなくて、ただの不法侵入テロですよぉぉぉぉっ!!」


 私の悲痛なツッコミは、トラックの軽快なエンジン音にかき消されていった。




     * * *




 その頃。

 遥か上空の天界、異世界転生管理局の局長室にて。


「…………は?」


 女神アリアリアは、下界を監視する『神眼の鏡』の映像を見て、持っていたティーカップを床に落としてガチャン! と割った。


 鏡に映っているのは、彼女が送り込んだ最強の刺客である『勇者リュウヤ』が、トラックに二度轢かれて地面に埋まり、幼児のように泣き喚いている姿。

 そして、帝国軍の数千の大軍勢と、最強の魔導兵器であるギガント・ゴーレムが、たった一台の白いトラックによって紙くずのように粉砕された挙句。


『……ETCゲート、通過確認。通行料金、0円』


 平然と隣国の国境を物理突破していく、憎き社畜ドライバー、轟駆の姿だった。


「な、なんなのよあいつはぁぁぁぁっ!?」


 アリアリアは髪を振り乱し、鏡をガンガンと叩き割らんばかりの勢いで叫んだ。


「勇者を轢き潰した!? 帝国軍を壊滅させた!? しかも、あのトラックのバンパーにガムテープで縛り付けられているのは……私が授けた『伝説の聖剣』じゃないのぉぉぉっ!?」


 アリアリアは、自分の最高傑作であるチート武器が、ダサいトラックの装飾品(フォグランプ代わり)にされ、挙句の果てに車検対応のためにハンマーでへし折られているのを見て、ついに血の涙を流した。


「許さない……絶対に許さないわ、轟駆! 私の顔面にタイヤの跡をつけたばかりか、神の権威までコケにするなんて!」


 アリアリアは、血走った目で背後に控える天使たちを睨みつけた。


「おい! 今すぐ次の刺客を用意しなさい! 勇者一人じゃ駄目よ! あいつのトラックを確実にスクラップにできる、最凶最悪のバケモノを送り込むのよ!」


「あ、アリアリア様! しかし、あのトラックの結界コーティングと物理耐性は、もはや規格外です! 並の勇者パーティーでは……」


「わかってるわよ! だから……『アレ』を使うのよ」


 アリアリアの顔に、底知れぬ邪悪な笑みが浮かんだ。


「かつてこの世界を滅ぼしかけ、神々ですら封印するしかなかった、伝説の存在……『厄災の邪竜』の封印を解きなさい!」


「なっ!? 邪、邪竜ですか!? あんなものを解き放てば、異世界そのものが崩壊してしまいます!」


「構わないわ! あの死んだ魚の目をした運送屋を消し炭にできるなら、世界の一つや二つ、安いものよ!」


 天界のクソ女神の狂気により、かつてない最悪の脅威が、轟駆とミオの乗るトラックに向けて解き放たれようとしていた。

 しかし、当の駆本人は、そんな神の怒りなど露知らず。


『……ミオ。明日はオイル交換の時期だな。どこか良いガソリンスタンド(魔道具屋)を探しておけ』


 異世界の大地で、今日もマイペースに『車のメンテナンス』のことだけを考えているのだった。


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