第25話:【突破】「車検非対応の極悪カスタムだ」巨大ゴーレムを一刀両断
「いやああああああああああああああああああああっ!!!」
私の絶叫が車内に響き渡る中。
純白の2トントラックは、フロントバンパーから極太の『光の槍』を突き出したまま、倒れ込んでくる巨大ゴーレムの股下へと突っ込んでいった。
『ははははっ! 愚かな! そのまま押し潰されてペシャンコになれぇぇぇっ!』
ゴーレムの肩口に立つザルド将軍の狂笑が、上空から降り注ぐ。
数万トンの岩の塊が、完全に私たちを視界から覆い隠し、すべてが圧殺される――はずだった。
「……ミオ。眩しいからサングラスを外すなよ」
駆さんの冷徹な声が響いた、次の瞬間。
ズバァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!
世界が、白に染まった。
トラックの先端から放たれる『レーザーブレード・モード』の光の槍。
それは、ギガント・ゴーレムの強固な岩石のボディに触れた瞬間、抵抗らしい抵抗を一切受けることなく、まるで熱したナイフでバターを切り裂くように、その巨体を『下から上へ』と真っ二つに切り裂き始めたのだ。
「えっ……!?」
『な……っ、ば、馬鹿なぁぁぁっ!?』
ザルド将軍の笑い声が、裏返った悲鳴へと変わる。
トラックは時速80キロのトップスピードを維持したまま、ゴーレムの股下から潜り込み、胴体、胸部、そして頭部へと、車体を垂直に近い角度で跳ね上げさせながら(どういう物理法則だ)、一直線に光の軌跡を描いて駆け抜けた。
「か、駆さん! トラックが空を飛んでますぅぅぅっ!」
「飛んではいない。ジャンプ台(ゴーレムの足)を利用して、立体交差を抜けているだけだ」
駆さんは宙に浮いた車体の中で、まるで空を飛ぶのが当たり前かのように、空中で見事にハンドルを切り返した。
ドゴォォォォォォォォォォンッ!!
トラックが通り抜けた直後。
世界最強と謳われた帝国軍の超古代魔導兵器、ギガント・ゴーレムは、綺麗に『左右対称の真っ二つ』に分断され、轟音と共に大地へと崩れ落ちた。
ズドドドドドドドッ!!
凄まじい地鳴りと共に、盆地全体に岩の雨が降り注ぐ。
巻き上がる土埃が、朝の太陽を隠すほどに高く立ち上った。
「ひぃぃぃぃっ! 岩が降ってきます!」
「……ウォッシャー液噴射。ワイパー最大速度」
カチッ、ウィィィン、バキィィィンッ!
空から降ってくる家ほどの大きさの岩石も、チタン合金製のワイパーが「パラパラと降る小雨」のように弾き飛ばしていく。
そして、トラックは美しい放物線を描き、ゴーレムの残骸の向こう側――帝国軍の包囲網の外側へと、ドスゥン! と見事に四輪着地を決めた。
「……よし。サスペンション異常なし。着地成功」
駆さんは何事もなかったかのように呟き、シフトレバーを操作して再びトラックを前進させた。
* * *
「あ、あばば……あばばばば……」
一方、真っ二つに崩壊したゴーレムの残骸の頂上付近。
奇跡的に無傷で岩の上に投げ出されたザルド将軍は、完全に白目を剥いて泡を吹いていた。
「わ、我が帝国の……最高戦力が……たった一台の鉄の箱に……真っ二つに……」
彼の目の前には、帝国が数十年かけて発掘し、莫大な予算を投じて起動させたギガント・ゴーレムの無惨な姿が広がっている。
さらに、数千の帝国軍の兵士たちは、その信じられない光景を目の当たりにして、完全に戦意を喪失していた。
カラン、カラン……。
兵士たちが、次々と手にした武器を地面に落としていく。
『も、もう無理だ……あんな化け物、勝てるわけがない……』
『神だ……あれは、軍隊でどうにかなる相手じゃない……神の怒りだ……!』
誰一人として、トラックを追おうとする者はいなかった。
魔法部隊も、重装歩兵も、そして将軍でさえも。
そんな彼らの前で、少し離れた場所に停車した純白のトラックの『赤いランプ(テールランプ)』が、パパッ、と二回点滅した。
それは、まるで「お疲れ様でした」とでも言っているかのような、運送屋特有の『サンキューハザード』だった。
「……あ、あくまだ……人間の皮を被った……悪魔の乗り物だ……」
ザルド将軍は、そのままガクンと首を垂れ、完全に気を失った。
これにて、西の辺境を脅かしていた帝国軍の制圧部隊は、たった一台のトラックによって完全に無力化されたのである。
* * *
「ふぅ……」
完全に帝国軍の陣地を抜け出し、舗装されていない街道に出たところで、駆さんは短く息を吐いた。
「……レーザーブレード・モード、解除。バッテリーの消費が激しいからな、あまり連発はしたくない機能だ」
カチッ、とスイッチを戻すと、バンパーの光がスッと収まった。
「か、駆さん……」
私は助手席で、全身の力が抜けてシートに崩れ落ちた。
震えが止まらない。
恐怖からではない。安堵と、そして目の前の男の『底知れなさ』に対する、畏怖の念からだ。
「……終わったん、ですか?」
「ああ。目的地への集荷、および危険地帯からの脱出は完了だ。ミオ、ナビご苦労だった」
駆さんは死んだ魚の目で、私に向かって小さく頷いた。
「これより、安全な隣国までこのまま長距離ドライブと洒落込む。……後部荷台の様子はどうなっている」
「えっ? あ、はい! モニター見ます!」
私は慌ててダッシュボードのモニターを確認した。
『おおおっ! 揺れが収まったぞ!』
『助かったのか!? 帝国軍は!?』
体育館のように広い荷台(空間拡張モード)の中では、村人たちが不安そうに寄り添っていたが、誰一人怪我をしている様子はない。
それどころか、子供たちはすでに冷蔵庫のアイスを勝手に開けて食べているし、村長さんはシステムキッチンの浄水器から出る水に感動して拝んでいた。
「……みんな、無事です! 怪我人もいません! 荷台の揺れも、ほとんどなかったみたいです!」
私はポロポロと涙を流しながら、満面の笑みで報告した。
「……電子制御式エアサスペンションの働きは完璧だな。人間150人の移送でも、乗り心地は最高のはずだ」
駆さんは満足そうに頷き、ハンドルを片手で握りながら、もう片方の手でエスプレッソマシンのボタンを押した。
コポポポ……。
「……飲むか? 砂糖とミルクをたっぷり入れてやろう」
「はいっ! いただきます!」
私は差し出された甘いコーヒーを両手で受け取り、ゆっくりと一口飲んだ。
温かくて、甘くて、体に染み渡るような味がした。
「駆さん……本当に、本当にありがとうございました。私、お金を払うって言いましたけど、こんなの金貨1枚や2枚で引き受けていい仕事じゃないです」
「……言ったはずだ。俺はプロの運送屋だ。契約以上のことはしていない」
駆さんはブラックコーヒーをすすりながら、前を向いたまま答えた。
「それに、あのクソ女神が作ったチート機能……レーザーだの空間拡張だの……少しは役に立ったようだからな。車検には絶対に通りそうもない極悪カスタムだが」
「フフッ……あははははっ!」
私は、駆さんの相変わらずの『車ファースト』な発言に、たまらず吹き出してしまった。
涙を流しながら、声を出して笑った。
「駆さんって、本当に変な人! デタラメで、無愛想で、でも……世界で一番、頼りになる運転手さんです!」
「……助手席で騒ぐな。ナビなら次の街までのルートを確認しておけ。……それと」
駆さんは、チラリと私を見た。
「ナビの仕事は、まだまだ終わっていないからな。お前には、俺の『労働環境改善』のための証人になってもらう必要がある」
「え? 証人?」
「ああ。いつか天界に戻って、あのクソ女神に未払い残業代と、この出張の危険手当を全額請求してやる。その時のための、確固たる証拠(ナビの証言)だ」
駆さんの死んだ魚の目に、ギラギラとした『社畜の執念』が燃え上がっていた。
「あはは、わかりました! 私、駆さんが女神様からお金をふんだくるまで、どこまでも助手席についていきますよ!」
「……ふむ。悪くない返事だ」
駆さんは小さく鼻を鳴らし、アクセルを軽く踏み込んだ。
ヴオオオオオオンッ!!
夕日に向かって、純白の2トントラックが街道を真っ直ぐに走っていく。
バンパーに縛り付けられた折れた聖剣が、夕日を反射してキラキラと輝いている。
異世界転生管理局の最狂ドライバー、轟駆。
そして、ワケあり獣人ナビのミオ。
彼らの『絶対に時間通りに届ける異世界無双ドライブ』は、まだ始まったばかりである。
次の配達先には、どんな理不尽な障害(と、不運な歩行者)が待ち受けているのか。
それはまだ、誰にもわからない。




