第24話:【追撃】帝国軍の巨大ゴーレム起動。行く手を阻む
ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン……!!
地響きと共に、村の入り口に巨大な影が落ちた。
見上げるような、という表現すら生温い。
それはまさに、意志を持った『山』が立ち塞がったかのような絶望感だった。
帝国軍の最終兵器、ギガント・ゴーレム。
城壁をそのまま人型に組み替えたような岩石の巨体は、一歩踏み出すだけで大地を震わせ、周囲の木々をマッチ棒のように薙ぎ倒していく。
「あ……あわわ……」
私は助手席で、歯の根が合わないほどガタガタと震えていた。
フロントガラス越しに見えるのは、ゴーレムの巨大な『足首』だけだ。
視線をどれだけ上に上げても、その全貌を捉えきれない。
『はーっはっはっは! 逃げ場はないぞ、ネズミども!』
ゴーレムの肩口に設置された指揮台から、ザルド将軍の勝ち誇った声が魔法で増幅されて響き渡る。
『我が帝国の叡智が結集したこのゴーレムに、傷一つ付けることなど不可能! その鉄の箱ごと、村の残骸と共に平らにならしてやるわ!』
「か、駆さん……逃げられませんよぉ……。あんなの、突っ込んだらこちらが煎餅になっちゃいます!」
私は駆さんの袖を掴んで叫んだ。
時速80キロの突進も、相手がこのサイズでは豆鉄砲にもならない。
2トンのトラックと、数万トンはあろうかという岩石の塊。
ぶつかればどちらが砕けるか、子供でもわかる。
「……ミオ。ナビなら冷静に状況を報告しろ。パニックは事故の元だ」
「冷静になれるわけないでしょぉぉぉ! 目の前にあるのは『道』じゃなくて『壁』ですよ! 動く壁!」
「……ふむ。確かに、大型特殊車両を通り越して、もはや不法建築物だな」
駆さんは死んだ魚の目のまま、ダッシュボードのモニターを確認した。
荷台(体育館モード)に避難した村人たちの様子が映し出されている。
『村長様、本当に大丈夫なんですか!?』
『外ですごい音がしてるぞ!』
不安がる村人たちに対し、村長さんが「落ち着くんじゃ! この魔獣……いや、トラックの中は絶対に安全じゃ!」と必死に宥めている。
「……村人150名、および金貨500枚。積載物の安定を確認」
駆さんは指差し確認を行うと、おもむろにシフトレバーを握り直した。
「荷崩れの心配はないな。これより、障害物の強制排除に移行する」
「排除って、どうやって!? 相手は山ですよ!?」
「……ミオ。お前は、夜の山道で一番恐ろしいものが何か知っているか?」
「え? 幽霊? それともお腹を空かせた魔獣ですか?」
「……違う」
駆さんは、コンソールパネルにある『赤いカバーに覆われたスイッチ』の蓋を、親指で跳ね上げた。
「……『光』だ」
『死ねぇぇぇっ! 塵となって消え失せろ!』
ザルド将軍の命令と共に、ゴーレムが巨大な拳を振り上げた。
空を覆うほどの巨大な岩の塊が、私たちのトラックに向かって、音を置き去りにするような速度で振り下ろされる。
「ひゃあああああああああああっ! 潰されるぅぅぅっ!」
私は目をつむり、頭を抱えた。
しかし、駆さんはハンドルを電光石火の速さで切り回した。
キキキィィィィィィッ!
トラックがその場で独楽のようにスピンし、ゴーレムの拳が叩きつけられる寸前で、わずか数センチの差で回避する。
ドガァァァァァァァァァンッ!!
広場が爆発したかのような衝撃。
凄まじい土煙が舞い上がり、トラックの車体が大きく跳ねるが、強化サスペンションがその衝撃を瞬時に吸収した。
「……回避よし。次は、こちらから『パッシング』を見舞ってやる」
駆さんは、赤いスイッチの奥にある、クリスタルのような輝きを放つボタンを見据えた。
「これは、異世界転生管理局が開発した『緊急用高出力・魔導波照射装置』だ。本来は、転生ゲートに詰まった巨大な魂の残滓を焼き払うためのものだが……」
「……魂を焼き払うためのものを、トラックに積まないでくださいよぉ!」
「……文句はクソ女神に言え。行くぞ。ハイビーム、フルスロットル」
駆さんの指が、迷いなくボタンを押し込んだ。
カッ……!!
一瞬、世界から音が消えた。
トラックのフロント、バンパーに括り付けられた聖剣と、左右のヘッドライトが共鳴するように共振しはじめる。
「な……なに、これ……」
私は光に焼かれないよう、慌てて備え付けのサングラス(駆さんが貸してくれた)を装着した。
トラックの前面から放たれたのは、もはや『光』などという生易しいものではなかった。
それは、あらゆる物質を原子レベルで分解し、蒸発させる、極太の『魔導レーザー』の奔流。
「くらえ。……無灯火運転の罰金だ」
ドオォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!
真っ白な光の柱が、ギガント・ゴーレムの胴体のど真ん中を貫いた。
『な……っ!?』
将軍の驚愕の声が響く暇もなかった。
厚さ数十メートルの強固な岩石のボディが、まるで熱したナイフを通されたバターのように、一瞬で蒸発していく。
光が収まった後。
そこには、胴体に直径5メートルほどの巨大な風穴を開けられた、ギガント・ゴーレムの無惨な姿があった。
「や……やったぁ! 穴が開いた!」
「……いや、まだだ。自己再生機能がついているようだな」
駆さんの言葉通り、ゴーレムの穴の周囲の岩が、不気味に蠢きながら修復を始めていた。
それどころか、ダメージに激昂したゴーレムが、さらに巨大な魔力を蓄え始めている。
『おのれぇぇぇっ! ただの鉄の箱が、我が最高傑作に傷を付けるとは! 許さん、許さんぞぉぉぉっ! 全魔力解放! ギガント・プレスだぁぁぁっ!』
ゴーレムが、その巨体すべてを投げ打って、村ごとトラックを圧殺しようと倒れ込んできた。
「ひ、ひぃぃぃぃっ! 倒れてくるぅぅぅっ! 逃げ場がない!」
「……逃げる必要はない。直進するだけだ」
駆さんはアクセルを底まで踏み抜いた。
トラックのエンジンが、これまで聞いたこともないような高周波の音を立てて咆哮する。
「……ハイビーム、収束。レーザーブレード・モード、起動」
光の柱がさらに細く、鋭く、そして密度を増していく。
それはもはや、トラックの前方に突き出た『光の槍』だった。
「邪魔だ。納期に遅れると言っただろう」
ヴオオオオオオオオオオオオンッ!!
光の槍を先頭に掲げたトラックが、倒れ込んでくる山の如きゴーレムの『股下』へ向かって、超音速の突撃を敢行した。
「いやああああああああああああああああああああっ!!!」
私の絶叫が、ゴーレムの崩壊音と、駆さんの冷徹なアクセルワークの中に溶けていった。
果たして、この巨大な絶望を貫き、私たちは村人を守り抜くことができるのか!?
帝国軍の包囲網を突破するための、最期の『ラスト・ラン』が始まった!




