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神殺しの2トントラック〜社畜ドライバーの異世界爆走記〜  作者: ぱすた屋さん


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第20話:【包囲】ミオの故郷、すでに帝国軍に包囲されていました



「泣き喚くな、獣の分際で。お前たちの運命はすでに決まっているのだ」


 ガルディア帝国軍、辺境制圧部隊の陣幕。

 ふんぞり返ってワイングラスを傾けているのは、この軍を率いるザルド将軍だった。


 彼の目の前には、血だらけになって縄で縛られた、獣人族の村長が引き出されていた。

 ミオの故郷である、小さな森の村の長である。


「村の娘が、金を工面するために街へ向かったそうだな。だが、無駄な努力だ。たった数日で金貨50枚など用意できるはずがない」


 ザルド将軍は冷酷な笑みを浮かべ、ワインを飲み干した。


「そもそも、金など最初からどうでもいいのだ。我々帝国軍の真の目的は、この森の資源と、お前たち獣人という『労働力どれい』を確保することにある」


「ひどい……最初から、我々を騙して……!」


「騙される方が悪い。さあ、明日を待つ必要もないだろう。総員に告げよ! 村を焼き払い、抵抗する者は殺せ! 若い女と子供は生け捕りにしろ。高く売れるぞ!」


 ザルド将軍の命令に、周囲の帝国兵たちが下卑た笑い声を上げ、一斉に武器を掲げた。


「ミオ……どうか、逃げてくれ……」


 村長が絶望の涙を流し、目を瞑った。

 数千の帝国兵が一斉に村へとなだれ込もうとした、まさにその時だった。


『将軍閣下! 報告いたします!!』


 見張りの兵士が、血相を変えて陣幕に飛び込んできた。


「なんだ、騒々しい。村の連中が暴動でも起こしたか?」


『違います! 東の丘から、謎の……謎の物体が、猛スピードでこちらに向かってきます!』


「謎の物体だと?」


 ザルド将軍は眉をひそめ、陣幕の外へ出た。

 数千の兵士たちも、何事かと東の丘へと視線を向ける。


 朝日が昇り始めた、うっすらと霧のかかった丘の上。

 そこから、地鳴りのような『恐ろしい獣の咆哮』が響き渡ってきた。


 ヴオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!


「な、なんだあの音は!? ドラゴンか!?」


「い、いえ! 見てください! あれです!」


 兵士が震える指で指し示した先。

 猛烈な砂埃を巻き上げながら、丘を駆け下りてくる『白い四角い鉄の魔獣』の姿があった。


「馬が……いない? 馬も繋がれていないのに、鉄の箱が自ら走っているだと?」


 ザルド将軍は目を見開いた。


 しかも、その速度は尋常ではない。

 どんな名馬でも絶対に出せないような恐ろしいスピード(時速80キロ)で、数千の軍勢が陣取る盆地へと真っ直ぐに突っ込んでくる。


「なんなのだ、あれは……新手の魔獣か? それとも他国の新兵器か?」


 ザルド将軍が呆然と呟く中、その白い鉄の魔獣は、一切の減速を見せることなく、帝国軍の陣地へと迫っていた。




     * * *




「いやあああああああああああああっ!! 無理無理無理無理ぃぃぃっ!!」


 トラックの車内では、私の絶叫が鼓膜を破らんばかりに響き渡っていた。


「か、駆さん! ブレーキ! ブレーキ踏んでください! 相手は軍隊ですよ!? 数千人いるんですよぉぉぉっ!」


 フロントガラスの向こうには、黒いテントと黒い鎧を着た兵士たちが、まるで蟻の群れのように大地を埋め尽くしている。

 そのど真ん中に向かって、駆さんはアクセルをベタ踏みしたまま、長い下り坂を爆走していた。


「……ブレーキを踏めば、荷台の金貨500枚が慣性の法則で吹っ飛んでバラバラになる。俺のトラックは現金輸送車ではないからな。急制動は禁物だ」


 駆さんは死んだ魚の目で、スピードメーターとタコメーターを交互に確認している。


「お金の心配より命の心配をしてください! 槍衾やりぶすまが見えませんか!? 串刺しにされますよぉぉぉ!」


「……ミオ。あの大軍の向こう側に、お前の村があるんだろう」


 駆さんは、一切の動揺を見せずに言った。


「そうですけど!」


「なら、直進するしかない。俺は目的地(納品先)へ向かっているだけだ。車道を塞いでいる奴らが悪い」


「車道じゃないです! 戦場です! 相手は正規軍!!」


 私の悲痛なツッコミも虚しく、トラックは時速80キロという、異世界では音速に等しいスピードで坂を下りきり、帝国軍の陣地の目の前まで到達した。


「……よし。下り坂の勢い(モメンタム)は十分に乗ったな。重量2トンの車体に、この速度。……物理の授業を思い出させてやる」


 駆さんがハンドルを強く握り直した。




     * * *




『来るぞ! 迎撃しろぉぉぉっ!』


 帝国軍の陣地は、完全にパニックに陥っていた。

 近づいてくる白い鉄の魔獣の全貌が明らかになるにつれ、その異様さに兵士たちが恐怖し始めたのだ。


「弓兵、構え! 魔法部隊、詠唱開始! あのふざけた箱を穴だらけにしてやれ!」


 ザルド将軍が剣を振り下ろし、号令をかける。


 ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!

 ズドォォォォンッ!!


 数え切れないほどの矢の雨と、巨大な火炎球ファイアボールや岩石弾が、一斉にトラックに向かって放たれた。


「ひぃぃぃぃぃっ! 死ぬぅぅぅ!」


 助手席でミオが頭を抱えてうずくまる。


 しかし、運転席の駆は、まるで小雨でも降ってきたかのように、ハンドルの横のレバーをカチッと引いた。


「……ウォッシャー液、噴射。ワイパー作動」


 プシュッ! ウィィィン、バキィィィンッ!


 トラックのフロントガラスを覆うように動いたチタン合金製のワイパーが、飛来する魔法をすべて甲高い音と共に弾き飛ばした。

 さらに、矢の雨は『対神格結界コーティング』が施されたボディとフロントガラスに当たり、カンカンカンッ! と虚しい音を立ててすべて弾き落とされていく。


 傷一つ、つかない。

 塗装すら、剥がれない。


「ば、馬鹿な……!?」


 ザルド将軍は、自分の目を疑った。


「帝国が誇る魔法部隊の総攻撃だぞ!? それを、あの黒い棒切れが弾き飛ばしたというのか!? どんな強力な結界魔術が張られているのだ!」


 さらに、ザルド将軍の視界が、信じられないものを捉えた。


「ま、待て。あの鉄の魔獣のフロントバンパーにくくりつけられている、あのピカピカ光る棒は……!」


 ザルド将軍は、かつて王都で一度だけ見たことがあった。

 神の力を宿し、勇者のみが扱えるという、世界最強の伝説の武器。


「せ、聖剣!? なぜ伝説の聖剣が、あんな鉄の箱に縛り付けられているのだぁぁぁっ!?」


 ザルド将軍の混乱は極致に達した。


 しかし、考える時間はもう残されていない。

 魔法も矢も一切通用しない白い悪魔は、砂埃を巻き上げながら、帝国軍の最前列までわずか数十メートルの距離に迫っていた。


「ひぃっ……! 重装歩兵部隊! 前へ出ろ! 盾陣ファランクスを組め! 絶対にあの魔獣を足止めするのだ!」


 ザルド将軍の悲痛な叫びに呼応し、全身を分厚い鋼鉄の鎧で固めた重装歩兵たちが、最前線にズラリと並んだ。

 彼らは身の丈ほどもある巨大な大盾を地面に突き立て、何重もの壁を作り上げる。


 人間が作り出せる、最も堅牢な物理防壁。

 騎馬隊の突撃すら完全に受け止める、帝国軍が誇る鉄壁の陣形である。




     * * *




「か、駆さん! 前! 盾です! 鉄の壁ができてます!」


 私はフロントガラスに顔を押し付け、絶望の声を上げた。


 大盾を持った兵士たちが、何百人も密集して壁を作っている。

 いくらトラックでも、あんな鋼鉄の塊の群れに突っ込んだら、ただでは済まない。


「止まって! お願いだからブレーキを踏んでぇぇぇ!」


「……ミオ。よく見てみろ。あれはコンクリートの壁じゃない。ただの人間が盾を持っているだけだ」


 駆さんは、一切の減速を見せずにアクセルを踏み続けた。

 スピードメーターの針は、時速80キロを指したまま固定されている。


「人間の壁は、道路交通法上、有効なバリケードとは認められない」


「法律の話はもういいですぅぅぅっ!!」


「それに、あの程度の厚みなら、衝突安全ボディの衝撃テストにもならないな」


 駆さんは死んだ魚の目で、大盾を構えて恐怖に顔を引き攣らせている帝国兵たちを真っ直ぐに見据えた。


「……業務妨害だ。どけ」


 駆さんは、ハンドルの中心に右手を添え、力強く押し込んだ。


 ファアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!!!!!


 早朝の盆地に、数千の軍勢の怒声をも掻き消す、最大音量のクラクションが鳴り響いた。


「いやあああああああああああああああああっ!!!!」


 私の絶叫と。


『来るぞぉぉぉっ! 踏ん張れぇぇぇっ!』


 帝国兵たちの悲鳴が交差する。


 そして。

 時速80キロ、重量2トン。

 一切の躊躇とブレーキを捨てた最強の運送屋トラックが、帝国軍の誇る重装歩兵の鉄壁の盾陣へと、真っ向から激突した。


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