第2話:【ざまぁ】「俺の残業代を返せ」怒りのアクセルベタ踏みで女神を轢き飛ばす
ガッシャァァァァァァァァァンッ!!
異世界転生管理局、本部神殿。
その荘厳なガラス張りの正面玄関が、轟音と共に粉々に砕け散った。
「な、なんだぁっ!?」
「敵襲か!?」
ロビーを警備していた天使たちが、パニックに陥って叫ぶ。
無理もない。神聖なる神殿の1階に、突如として白い2トントラックが乱入してきたのだから。
俺はハンドルを強く握りしめ、アクセルペダルから足を離さない。
スピードメーターの針は、すでに時速60キロを超えている。
神殿内のツルツルとした大理石の床。
だが、スタッドレスタイヤを履いた愛車は、一切の横滑りを見せずに直進を続けた。
「止まれ! 貴様、何様のつもりだ!」
武装した警備天使たちが、俺のトラックの前に立ち塞がる。
彼らの手には、光り輝く神聖な槍が握られていた。
「神聖魔法、第一位階! 『聖なる障壁』!」
天使たちが一斉に詠唱し、分厚い光の壁がトラックの進行方向に展開される。
強度は鋼鉄の数倍。並の魔獣なら激突した瞬間にミンチになるだろう。
だが、俺は顔色一つ変えずに呟く。
「……障害物あり。強行突破する」
俺の乗っているこのトラックは、ただの運送車両ではない。
『勇者候補』という超重要危険物を安全に轢き殺し、次元の壁を越えて輸送するための『異世界転生用・特別カスタマイズ仕様』だ。
光の壁と、トラックのフロントバンパーが激突する。
パリンッ!
「な、ば、馬鹿なっ!?」
「俺たちの全力の結界が、紙屑のように……!」
天使たちが絶望の声を上げる。
当然だ。このトラックのバンパーには、あらゆる魔法的干渉を無効化する『対神格結界コーティング』が施されている。
俺はブレーキペダルに微塵も触れることなく、天使たちの陣形の中へ突っ込んだ。
「どけ。業務の邪魔だ」
ドゴォォォォンッ!
2トンの質量と時速60キロの運動エネルギーの前に、天使たちはボウリングのピンのように跳ね飛ばされていく。
悲鳴を上げながら、神殿の天井や壁に激突して気絶する天使たち。
「ふむ。バンパーの調子も悪くないな。昨日の夜、洗車しておいて正解だった」
俺は淡々と独り言をこぼしながら、神殿の奥へ向かって爆走を続ける。
目指すは、局長室から繋がるVIP専用の大階段の上。
そこに、驚愕に顔を歪ませたクソ女神、アリアリアの姿があった。
「な、ななな、何をしてるのよあのアホはぁぁぁっ!?」
女神の金切り声が、神殿内に響き渡る。
「私の美しい神殿が! 高級な大理石がぁっ! ええい、天使ども、早くあの鉄の塊を止めなさい!」
「む、無理ですアリアリア様! あれ、うちの局の備品です! 魔法が一切効きません!」
「物理で止めなさいよ! 神の力を見せてやりなさい!」
女神の命令に、残った上位天使たちが一斉に空へ飛び立った。
俺のトラックの上空を取り囲み、巨大な光の剣を何本も生成する。
「天罰を下す! 『裁きの光剣』!」
雨あられと降り注ぐ、巨大な光の剣。
直撃すれば、普通の車ならスクラップどころか灰になるだろう。
だが、俺は冷静にハンドル横のレバーを操作した。
「……ワイパー、作動」
ウィィィン、バキィィィンッ!
「は?」
空中の天使が、素っ頓狂な声を漏らす。
トラックのフロントガラスを覆うように動いたワイパーが、飛来する光の剣を次々と弾き飛ばしたのだ。
「馬鹿な……神の剣が、あんな黒い棒切れに弾かれただと……?」
「……強化防弾・対魔力反射仕様のフロントガラスとワイパーだ。飛び石でヒビが入ったら、車検に通らないからな」
俺は呟きながら、さらにアクセルを踏み込む。
トラックは神殿の中央にある、巨大な大階段へと到達した。
「よし。四輪駆動(4WD)モード、起動」
ボタンを押す。
トラックのタイヤが力強く駆動し、急な大階段をものともせずに駆け上がっていく。
ガリガリガリッ! と大理石を削りながら、猛然と突き進む白い悪魔。
「ひっ……!? な、なんで階段を登ってくるのよ!?」
女神アリアリアが、ついに恐怖で顔を引き攣らせた。
俺は助手席の窓を開け、メガホンを手に取って叫ぶ。
「轟運輸だ! 未払い残業代の回収に来た!」
「くるな! こっちにくるなぁぁぁっ!」
女神はなりふり構わず、両手から極太のレーザー光線のような神聖魔法を放ってきた。
神殿の柱を軽々と消し飛ばす、局長クラスの圧倒的な火力。
「死になさい! この下等生物がぁぁぁっ!」
直撃コース。
だが、俺は落ち着いてハンドルのスイッチを押した。
「ハイビーム、点灯」
カッ!!
トラックのヘッドライトから、女神の魔法を遥かに凌駕する爆発的な光の奔流が放たれた。
「ぎゃあああああっ!? まぶしっ! 目がぁぁぁぁっ!」
強烈な光に視界を奪われ、女神の魔法の軌道が大きく逸れる。
「……夜間の安全運転には、ハイビームの活用が欠かせないからな。教習所で習わなかったか?」
そして、トラックは階段を登り切り、完全に無防備となった女神の目の前へと迫った。
「ま、待ちなさい! 待って! 話し合いましょう! 有給休暇、あげる! 30日じゃなくて、100日あげるからぁっ!」
女神が涙目で命乞いをしてくる。
だが、俺の足は微塵も緩まない。
「……遅い。俺の心はもう、定時退社した」
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」
ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!!
美しい女神の顔面に、トラックのフロントガラスがクリーンヒットした。
凄まじい衝撃と共に、女神の体が宙を舞う。
俺は対象を轢き慣れたプロのドライバーだ。
綺麗に中心で捉え、最大限のダメージを与える角度で衝突した。
「ぐはぁっ……!?」
壁に激突し、ズルズルと崩れ落ちる女神。
神のオーラは消え失せ、ピクピクと痙攣している。
「……対象の無力化を確認。だが、念には念を入れる」
俺はトラックを停止させ、シフトレバーを『R』に入れた。
ピーッピーッピーッ。
軽快なバック音が神殿に響く。
「……え? ちょ、バック? なんでバックしてくるの……?」
「……轢き逃げは犯罪だ。最後まで責任を持って、トドメを刺す」
「ひぎぃぃぃぃぃぃっ!?」
メチャァッ。
トラックの後輪が、女神の体を容赦なく踏み潰した。
物理的な重量とスタッドレスタイヤの摩擦が、神の体をペラペラの状態へと変えていく。
「……よし。未払い残業代、回収完了。これでスッキリした」
俺はシフトレバーを再び『D』に戻す。
さて、クソ女神は始末したが、このままここに居座るわけにはいかない。
他の神々が駆けつけてくるのは時間の問題だ。
前方の壁を見ると、女神が使用していたであろう『特大の次元ゲート』が口を開けていた。
魔界行きではなく、どこかの異世界へと繋がるメインゲートだ。
「……元の世界には戻れない。なら、行く宛は一つだ」
俺は躊躇うことなく、アクセルを踏み込んだ。
トラックが次元の渦の中へと突入していく。
眩い光が運転席を包み込み、俺の体は次元の壁を越えて、未知なる世界へとダイブした。
* * *
――バサバサバサッ!
気がつくと、トラックはうっそうと茂る巨大な森の中を走っていた。
空の色は少し紫がかっており、見たこともない植物が生い茂っている。
「……異世界、到着。転送プロセス、正常に完了」
俺は独り言を呟きながら、周囲の状況を確認する。
計器類に異常はない。燃料(魔力液体)も十分にある。
「さて、まずは近くの街を探して、情報収集と……」
そう思った矢先だった。
トラックの進行方向、森の開けた場所に、誰かが倒れ込んでいるのが見えた。
人間の少女……いや、頭にピンと立った獣の耳と、ふさふさの尻尾が生えている。
その後ろからは、剣を持ったゴロツキのような男たちが数人、下品な笑い声を上げながら迫っていた。
「おいおい、逃げられると思ったのかい? 大人しく借金を体で払ってもらおうか!」
「いやっ……こないで……!」
獣人の少女が、涙目で後ずさりする。
「……飛び出し注意。歩行者発見」
俺は即座にブレーキペダルを踏み込んだ。
キキィィィィィィィィィッ!!!
凄まじいスキール音を響かせながら、トラックが急停止する。
その巨大なフロントグリルは、腰を抜かした獣人少女の鼻先、わずか数センチのところでピタリと止まっていた。
「……ひっ!?」
少女が白目を剥いて、完全にフリーズしている。
俺はサイドブレーキを引き、窓を開けて短く言った。
「……道幅が狭い。そこをどいてくれないか。業務の邪魔だ」




