第1話:【追放】異世界転生管理局の社畜ドライバー、クソ女神にクビを宣告される
勢いだけで書きました
ドンッ!!
鈍い衝撃音と共に、制服姿の男子高校生が宙を舞った。
見事な放物線を描き、アスファルトの上へ転がる。
「……ふぅ」
俺はトラックの運転席で、短く息を吐いた。
サイドブレーキを引き、ハザードランプを点灯させる。
そして、助手席に置いてあるバインダーの『転生予定者リスト』に、赤いボールペンでチェックを入れた。
「対象番号10000番、現世での死亡を確認。異世界への転送プロセス、正常に完了。……これで、今月のノルマ達成だ」
俺の名前は、轟 駆。28歳。
職業は、トラック運転手だ。
ただし、運んでいるのは普通の荷物ではない。
『勇者候補の魂』だ。
所属は『異世界転生管理局・第一交通課』。
俺の仕事は、神々が選別した地球の若者たちを、トラックで物理的に轢き飛ばし、剣と魔法のファンタジー世界へ送り届ける(転生させる)ことである。
いわゆる『トラック転生』の実行犯。
それが俺の業務だった。
「長かった……」
死んだ魚のような自分の目を、ルームミラー越しに見つめる。
月の残業時間は平均800時間。
休日出勤は当たり前。
車中泊が基本で、シャワーは高速道路のパーキングエリアのみ。
どんな悪天候でも、対象者がどれだけ引きこもりだろうと、俺は愛車の2トントラックを駆り、確実にターゲットを轢き続けてきた。
すべては、局長である女神が約束した『ノルマ達成後の有給休暇30日』と『特別ボーナス』のためだ。
「これでやっと、布団で寝られる」
俺はトラックを次元ゲートへ走らせ、管理局の本部へと帰還した。
* * *
「クビよ。あなた、明日からもう来なくていいわ」
「…………はい?」
異世界転生管理局、局長室。
大理石で作られた無駄に豪華な部屋のど真ん中で、俺は耳を疑った。
目の前の豪華なソファにふんぞり返っているのは、この局のトップ。
美と豊穣(とブラック労働)を司る、女神アリアリアだ。
金糸のような美しい髪と、神々しいプロポーション。
しかし、その性格は控えめに言って最悪だった。
「クビ、と言ったのよ。轟駆。あなたは本日付けで解雇です」
「……あの、有給休暇の申請書と、ボーナスの振込先口座を持ってきたんですが」
「はぁ? 何を寝ぼけたこと言ってるの? そんなもの払うわけないでしょ」
女神アリアリアは、鼻で笑った。
「いい? 今、異世界は深刻な『勇者飽和状態』なのよ。あなたが毎日毎日、馬鹿みたいに轢きまくって送ってくるから、向こうの世界じゃ勇者が余ってスライムの奪い合いが起きてるの!」
「……あなたが『1万人は送れ』と指示を出したからですが」
「口答えしない! とにかく、異世界の神々からクレームが入りまくってるの。だから、トラック転生課は本日をもって廃止。よって、専属ドライバーのあなたも用済みってわけ」
あまりの理不尽に、俺の思考が数秒フリーズする。
しかし、社会人としてここで感情的になるわけにはいかない。
「……わかりました。部署がなくなるなら仕方ありません。では、退職金と、これまでの未払い残業代の清算をお願いします。計算したところ、日本円にして約5000万円ほどになりますが」
俺がバインダーから請求書を取り出すと、女神はひったくるようにそれを受け取り――ビリビリに破り捨てた。
「あのですね」
「神の世界に、労働基準法なんてあるわけないでしょ! この下等生物が!」
女神は立ち上がり、俺を見下ろした。
「だいたい、ただの人間であるあなたが、神の事業の機密を知りすぎたわ。生かして元の世界に返すわけにはいかないわね」
「……まさか」
「ええ。口封じよ。あなたにはこれから、魔界へ行ってもらいます」
魔界。
それは、凶悪な魔族や魔獣がはびこる、生存率0%の地獄だ。
片道切符の、事実上の死刑宣告である。
「安心しなさい。あなたの魂が魔獣の餌になることで、魔界の生態系は豊かになるわ。これも立派な社会貢献よ。光栄に思いなさいな! あははははは!」
局長室に、女神の甲高い笑い声が響き渡る。
俺は黙って、足元に散らばった請求書の破片を見つめた。
雨の日も、雪の日も。
居眠り運転ギリギリの意識で、レッドブルをがぶ飲みしながら、アクセルを踏み続けた日々。
ボーナスが出たら、新しいカーナビを買おうと思っていた。
有給が取れたら、温泉旅行に行こうと思っていた。
そのすべてが、このクソ女神の思いつきで消え去った。
「…………」
俺の中で、何かが、静かに、そして確実に――ブチッと音を立てて千切れた。
「あら、どうしたの? 絶望して声も出ない? ほら、さっさと魔界行きのゲートへ歩きなさい――」
「失礼します」
俺は女神の言葉を遮り、踵を返した。
そのまま一切の未練を見せず、局長室のドアを開けて退出する。
「ちょっと! どこへ行くのよ! 逃げられるとでも……まあいいわ。どうせ神殿からは出られないんだから」
背後で女神が何か喚いていたが、もはや俺の耳には入っていなかった。
* * *
神殿の駐車場。
俺は、相棒である白い2トントラックの運転席に乗り込んだ。
シートベルトを締め、キーを回す。
キュルルルルッ、ブルルルルンッ!!
力強いディーゼルエンジンの駆動音が、俺の心を奇妙なほど落ち着かせてくれた。
「……労働基準法が適用されないなら、仕方ない」
俺はギアをローに入れ、サイドブレーキを下ろす。
「未払い残業代は、お前の命(物理)で払ってもらう」
フロントガラスの向こう。
神殿の1階、ガラス張りのロビーで、俺を捕まえようと警備の天使たちが集まり始めているのが見えた。
その奥には、高みの見物をしているクソ女神アリアリアの姿もある。
俺の目は、完全に死に絶えていた。
だが、右足だけは、かつてないほどの熱を帯びてアクセルペダルに置かれている。
「シートベルト、ヨシ。ミラー、ヨシ。……対象のクソ女神、ヨシ」
俺は指差呼称を完璧にこなし、深く息を吸い込んだ。
「業務再開だ」
ベタッ。
アクセルペダルを、床の底まで踏み抜く。
2トンの鉄の塊が、神殿の正面玄関に向かって、凄まじい咆哮と共に猛発進した。
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次回お楽しみに。




