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神殺しの2トントラック〜社畜ドライバーの異世界爆走記〜  作者: ぱすた屋さん


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第18話:【回収】勇者の聖剣、トラックのバンパーの装飾品(飾り)になる



「……よし。こんなものか」


 夕暮れの平原に、駆さんの満足げな呟きが響いた。


 純白の2トントラックのフロントバンパー。

 その中央に、世界を救うはずの伝説の武器『聖剣』が、黒いガムテープと太い結束バンドでぐるぐる巻きに固定されている。

 まるで、ダサいデコトラの安っぽい装飾品オーナメントのような扱いだった。


「……駆さん。いくらなんでも、それは……」


 私は頭を抱え、言葉を失っていた。


「どうしたミオ。バランスが悪いか?」


「バランス以前の問題です! 神様の力を宿した伝説の武器ですよ!? なんでトラックのバンパーにくくりつけるんですか!」


「……さっきも言っただろう。フォグランプ(補助灯)の代わりだ。この剣、やたらとピカピカ光って眩しいからな。夜間の視界確保にはもってこいだ」


 駆さんは死んだ魚の目で、真面目にそう答えた。

 彼にとっては、伝説の聖剣も「よく光る棒」程度の認識らしい。


「それに、見てみろ」


 駆さんは、バンパーに固定した聖剣の先を指差した。


「トラックの車幅から、剣の先端が数十センチほどはみ出している」


「……はみ出してますね。それが何か?」


「これでは道路交通法違反(積載物の寸法超過)だ。他の車とすれ違う時に接触する危険がある」


 駆さんはそう言うと、トラックの工具箱から大きめのハンマーを取り出した。


「えっ? 駆さん? まさか……」


「……車検に通らない仕様は許されない」


 駆さんは無表情のまま、ハンマーを振り上げた。


「待って! ストップ! なにする気ですかぁぁぁっ!」


 私の悲鳴が響く中。

 駆さんは、トラックの車幅からはみ出している聖剣の先端部分に向かって、容赦なくハンマーを振り下ろした。


 ガキィィィィンッ!!

 パキィッ……!


「あ」


 私の口から、間抜けな声が漏れた。


 さっき、トラックのフロントガラス(のワイパー)に全力で叩きつけられた際に、すでに見えないヒビが入っていたのだろう。

 ハンマーの一撃を受けた聖剣の先端部分は、あっけなくポキリと折れ、地面に転がり落ちた。


「……よし。これで車幅に完全に収まったな。合法カスタムだ」


 駆さんは折れた聖剣の先端を無造作に拾い上げると、ポイッと後方の草むらに投げ捨てた。


「お、折れたぁぁぁぁぁっ!? 伝説の聖剣がぁぁぁぁぁっ!」


「あぁぁぁぁぁっ!? 俺の、俺のエクスカリバーがぁぁぁっ!?」


 私と、地面に埋まっていた勇者リュウヤの絶叫が、見事にハモった。


「な、なんてことを……! 世界に一本しかない至高の武器が、ただの寸法合わせで折られちゃった……!」


「……ミオ。騒ぐな。機能は失われていない。ほら、まだ光っているだろう」


 確かに、折れて短くなった聖剣は、未だに黄金の光を煌々と放っている。

 だが、もうそれは「聖剣」ではなく、ただの「光る短い金属の棒」に成り下がっていた。


「……悪魔だ。てめぇは本当に、血も涙もねえ悪魔だぁ……」


 地面の型枠に埋まったままのリュウヤが、涙と鼻水で顔をドロドロにしながら呪詛を吐く。


「……おい、そこの歩行者」


 駆さんは、冷たい視線をリュウヤに向けた。


「俺は親切心で、お前の落とし物を回収してやったんだ。感謝こそすれ、悪魔呼ばわりされる筋合いはない」


「俺は落としてねえ! お前が勝手に奪って、挙句の果てにハンマーでへし折ったんだろうが!」


「……歩道に放置すれば、他の歩行者がつまずいて怪我をする危険がある。俺は交通安全のために危険物を排除しただけだ」


「理不尽すぎるぅぅぅ! 誰か、誰かこの狂った運送屋を止めてくれぇぇぇっ!」


 リュウヤは地面の中でジタバタと暴れたが、全身の骨が悲鳴を上げて動けないようだった。


「……さて、ミオ。出発するぞ。納期はないが、日が暮れる前に次の街を目指したい」


 駆さんはリュウヤの泣き言を完全に無視し、トラックの運転席へと向かった。


「えっ、ちょ、駆さん! 本当にあの勇者様、放置していくんですか!?」


 私は慌てて駆さんを追いかけた。


「全身泥だらけで、地面に埋まってますよ!? 夜になったら魔物が出ますし、いくらチート持ちでも死んじゃいませんか!?」


「……心配ない。あの程度の耐久力チートがあれば、魔物に噛まれても痛いだけで死にはしない。一晩かけて自力で這い上がれば、いい運動になるだろう」


「スパルタすぎるぅぅぅ!」


 駆さんはガチャリとドアを開け、運転席に乗り込んだ。

 私も慌てて助手席に滑り込み、シートベルトを締める。


 ブルルルルンッ!


 ディーゼルエンジンが力強く唸りを上げる。


「ま、待って! 置いていかないで! 暗いよぉ! 怖いよぉ! 魔物が来るよぉぉぉっ!」


 リュウヤの情けない懇願が聞こえてくる。


「……シートベルトよし、ミラーよし、周囲の安全よし」


 駆さんは一切の慈悲もなくシフトレバーを操作し、アクセルを踏み込んだ。


 ヴオオオオオオンッ!!


 トラックは凄まじい砂埃を巻き上げ、夕暮れの街道を猛スピードで走り出した。


「ごめんなさーい! 勇者様、強く生きてくださーい!」


 私は窓から身を乗り出し、遠ざかっていくリュウヤに向かって手を振った。

 バックミラーの中で、地面に埋まったままの勇者が、米粒のように小さくなり、やがて完全に見えなくなった。




     * * *




 トラックは、完全に日の落ちた夜の街道をひた走っていた。


「……ふむ」


 駆さんが、満足そうにハンドルを握りながら呟く。


「やはり、俺の目に狂いはなかったな。あの棒(聖剣)、素晴らしい光量だ」


 トラックのフロントバンパー。

 そこにガムテープで縛り付けられた折れた聖剣は、闇夜の中で爆発的な黄金の光を放っていた。


 それはもう、フォグランプどころの騒ぎではない。

 トラックの前方数百メートル先まで、昼間のようにくっきりと照らし出している。


「……HIDヘッドライトやLEDなんて目じゃないな。しかもバッテリーを一切消費しない。究極のエコランプだ」


「駆さん……それ、神様の力が宿ったオーラですよ。ただの照明器具じゃないんですからね……」


 私は呆れ果てて、シートに深く沈み込んだ。


 窓の外を見ると、聖剣の神々しい光に引き寄せられたのか、夜行性の魔物たち(巨大な蛾やコウモリなど)がトラックに向かって飛んできているのが見えた。


「ひっ! 魔物が寄ってきてますよ!」


「……問題ない」


 駆さんがウォッシャー液のレバーを引く。


 プシュッ! ウィィィン、バキィィィンッ!


 フロントガラスにぶつかろうとした魔物たちは、チタン合金製のワイパーに弾き飛ばされ、彼方へと消えていった。


「……出発前に、フロントガラスに虫除け(撥水)コーティングをしておいて正解だったな。視界は良好だ」


「魔物を虫扱いですか! メンタルが強すぎます!」


 私はツッコミを入れながらも、内心では深い、深い疑念を抱いていた。


(……この人、本当に何者なの……?)


 横顔を盗み見る。

 死んだ魚のような、漆黒の瞳。

 一切の感情を読み取らせず、ただ淡々と『業務』をこなすだけの機械のような男。


 勇者の最強の魔法を、平然と無効化するトラック。

 山をも断ち切る聖剣を、ただのワイパーで弾き飛ばす物理法則の無視。


 それだけじゃない。

 一番おかしいのは、あの『聖剣』だ。


 おとぎ話では、聖剣は選ばれし勇者にしか抜くことができないとされている。

 悪しき心を持つ者や、資格のない者が触れれば、岩のように重く、決して持ち上げることはできないはずだ。


 それなのに、駆さんは。

 まるでその辺の木の枝でも拾うように、片手でヒョイッと持ち上げてしまった。

 そして、躊躇なくハンマーでへし折った。


(……ただの運送屋のはずがない)


 私はごくりと唾を飲み込んだ。


(もしかして、駆さん自身が『神』と同等か、それ以上の存在なんじゃ……?)


「……ミオ。何をジロジロ見ている。俺の顔に何かついているか」


 駆さんが、前を向いたまま冷たい声で言った。


「ひゃっ!? い、いえ! 何でもありません!」


 私は慌てて誤魔化した。

 深く詮索してはいけない気がしたのだ。

 もし彼が本当に恐ろしい存在で、その正体を知ってしまったら、私もあの勇者のように『物理的に指導』されるかもしれない。


「……駆さんって、本当にただの運送屋さんなんですよね?」


 恐る恐る、当たり障りのない質問を投げてみる。


「何度も言わせるな。俺は轟運輸のプロドライバーだ。それ以上でもそれ以下でもない」


「でも、前の世界では『異世界転生管理局』とかいう物騒なところで働いてたんですよね? それって、普通の会社なんですか?」


 駆さんは、少しだけ眉をひそめた。


「……普通の会社ではないな。完全なブラック企業だ。残業代は未払い、休日はなし、上司(女神)はパワハラ気質。……あんな職場、二度と戻りたくない」


 その時だけは、彼の声に確かな『感情(恨み)』がこもっていた。


(……女神をパワハラ上司扱いしてる時点で、やっぱりおかしいですよ)


 私は心の中でツッコミを入れつつ、それ以上追及するのはやめた。

 とりあえず、この助手席に座っている限り、私は世界で一番安全だということだけは間違いないのだから。


「……ところで、ミオ」


 しばらくの沈黙の後。

 夜の静かな車内に、駆さんの平坦な声が響いた。


「はい? なんですか?」


「お前、出会った時に『借金取りに追われている』と言っていたな」


「えっ……」


 突然の話題の転換に、私は言葉を詰まらせた。


「行商に失敗して、故郷の村を担保に500万ゴールドの借金をしたと。そうだったな」


「あ、はい……そうですけど……」


 私は少し視線を落とした。

 金貨500枚を手に入れた今となっては、すぐにでも返せる額だが、その経緯についてはあまり語りたくなかった。


「……俺はナビの身辺調査をする趣味はない。だが、共に仕事をするパートナーとして、トラブルの火種は事前に把握しておきたい」


 駆さんは、チラリと私を見た。


「なぜ、そんな大金を借りる必要があったんだ。行商の失敗だけで、村一つを担保にするほどの借金ができるとは思えないが」


「…………」


 私はギュッと拳を握りしめ、窓の外を流れる夜の景色を見つめた。

 バンパーの聖剣が放つ黄金の光が、私の暗い顔を照らし出す。


「……駆さんには、全部話しておかないといけませんね。私を助けてくれて、こんなに安全な場所を与えてくれた恩人ですから」


 私は、ゆっくりと、自分の過去について語り始めた。


「……私が借金をしたのは、行商の失敗が原因じゃありません」


「ほう」


「私の故郷の村を……『帝国軍』から救うためだったんです」


「帝国軍、だと?」


 駆さんの瞳が、微かに鋭く光った。


「はい。私の村は、今、とんでもない危機に瀕しています。……だから、お願いです、駆さん」


 私は真っ直ぐに、駆さんの目を見つめ返した。


「次の配達先(目的地)は……私の故郷の村にしてくれませんか?」


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