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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第12章 その男【服部半蔵】

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人集め

 出来るだけこの地の民の署名を多く集めるのが、竹中様から我らに与えし第一のお役である…ただ普通に考えても、通りを往来する人々に紙と筆を渡し「名前を書いてください」と頼んでも(みな)怪しんで書いてくれるはずはない、それに私は本来人見知りの性格なのだ、自分から声をかけるなど到底できない。


「竹中様はなぜこの様に難しいお役を私達に……」


「え?難しいですか?こんなの数日もあれば完了いたしますわ♪」


「まさか、<かなめ>さんは何か考えが浮かんだのですか?」


「もちろんでございます♪…では、少しお耳の拝借を…」


 自信満々の<かなめ>さんは何か妙案を見付けたようで、つい私は何も警戒せぬまま左の耳を彼女の顔へ寄せてしまった!。


「チュッ❤」


「いっ!!」


 いきなり私の頬に彼女の唇の感触が伝わる!。


 ♪ガンッッッ!!


「い、痛い…」


「い、いきなり師匠に対して何をするのですか!まさか、これが目的で適当な事を!」


 さすがに拳骨(げんこつ)を喰らったからか<かなめ>さんは両手で頭を押さえている、油断した私も悪いが、彼女にすればこの結末は自業自得である。


「ち、違いますわ!ちゃんと考えはありますの…で、でも…日々の労働で、たまには<かなめ>の疲れた心にご褒美を……」


「何なら、これから庭に出て打ち込み1000回のご褒美を与えてもよろしいのですよ!」


「ひっ!ちゃ、ちゃんと真面目に話します……民の署名を集める為には皆が署名すれば得をすると思ってもらわなければなりませんの…」


「得をする?でも、どうやって?」


 見ず知らずの人に「いい儲け話があるので名前をこの紙に書いてください」なんて言っても、まず誰も怪しんで書いてくれるはずはない、なのに<かなめ>さんは先ほどから余裕の表情で微笑んでいた。


「姉様は気が付いておりませんか?あの竹中様からの(ふみ)、よくよく見れば【く】と【じ】の文字の上に小さく【・】が打たれておりましたわ…その文字を合わせると、【く】【じ】…いわゆる【くじ】の事ではないかと♪」


「くじ?」


 そういえば【くじ引き】なる手法は聞いた事がある、神仏の意思…すなわち【神慮(しんりょ)】を問う神聖な(えき)や、武将たちが不平不満を出さずに重要な決定や任務の割り当てを行うための極めて現実的な手段に用いられているらしい。


「あの…<かなめ>さん?その【くじ】がどうして民の得になるのですか?まさか神の御意志とか言い、名前を書いてもらった者にお(ふだ)を配るのですか?」」


「それだと中には「いらない」という者も出てきますわ、いまだ年貢の高いこの地で民が一番望んでいるのは、年貢が下がる事と生活に欠かせない金銭です!実は幼き頃、松平家に拾われた<かなめ>はずっとお友達も()らず孤独でした…そんな時の支えとなったのはお城の書庫でしたの……そこで【漢王朝時代】の書物を読んだ記憶からいい案が浮かびました♪」


「いい案ですか?」


 正直私は<かなめ>さんの知識に驚かされた、彼女の説明によると、太古の昔…漢王朝時代の軍師である張良(ちょうりょう)が「万里の長城」の建設費や防衛資金を集めるために発行した「白鳩くじ」があったらしく、そのくじには番号が書かれており、厳正なる抽選後、くじの購入者に鳩を飛ばし当たり番号の結果を伝えていたそうで、その時の褒美は豪華な宝物だったそうだ。


「それは妙案だと思いますが、それだと一人だけが得をすることになりませんか?」


「ふふん♪姉様(あねさま)、どうして<かなめ>が竹中様と会えて感激したのか、その理由は<かなめ>の学んだ知力を竹中様本人に見せる事が出来る機会を得たからですの♪あのお(かた)が<今孔明>なら、この<かなめ>は<おなご孫子>だと竹中様から称されたいのですわ♪」


「はぁ…<おなご孫子>ですか……」


「この麗しい美貌に、剣の腕前、それに溢れる知性!この世に<かなめ>ほど魅力的なおなごはおりません事よ❤あぁ、でも…この<かなめ>の全ては姉様(あねさま)だけの…も・の❤」


「また殴られたいのですか?早くその案を教えなさい!」


 自信満々に<かなめ>さんが私に説明したのは、その【くじ】に金子(きんす)を宛がう事だった、まず彼女が設定した当選金は<一番くじが5両×3本、二番くじが2両×4本、三番くじが1両×10本、4番くじが100文×30本>とし、皆に当選の希望を与える、当然家族の多い者には当選確率が高くなるという仕組みだそうだ。


「当選金で人を集めるのですか?でも、どうやって抽選をするつもりです?」


「まずは数字が書かれた木製の【(ふだ)】を2枚用意し、そこに割り印を押して偽造を防止しますの、片方の【(ふだ)】は民に渡し、もう片方の【(ふだ)】は抽選の時に使いますの♪」


「なるほど、そして抽選の時にその【(ふだ)】をくっ付けて割り印を確かめるのですね?でも、誰が元締め役をするのですか?私達だとイカサマを疑われる事も…」


 彼女の発想は大したものだ…だが、この案は誰か一人でも疑いを持たせては成り立たない、私達が胴元になれば、それだけで疑心暗鬼が生まれることだってあり得る。

 もし、そうなれば…すべてが水の泡になってしまうはず。


「ふふん♪その点は心配ありませんわ♪常に公平をきたす為、この抽選会の元締めはこの町のお奉行様である【佐々木宗衛門】様に引き受けてもらうつもりでございますの♪」


「お奉行様に!でも、どうやって話を持っていくつもりですか?」


 お奉行様が抽選会の元締めなんて聞いた事がない、彼女の発想は遥かに私の知識を越えてはいるものの、織田家の宿敵である六角家の奉行を利用するなんて、そう簡単に事は進まないはずだ。


「それはこの<かなめ>にお任せあれ、何せ【佐々木宗衛門】様は、毎日この可憐な<かなめ>を目当てにお店へ通って頂いているほどですので、きっと大丈夫ですわ♪」


「でも、どうお願いするつもりです?まさか、色仕掛けなんて事は!」


「あら❤もしかして焼き餅ですの?あぁん、御心配には及びませんわ♪だって、この<かなめ>の全ては姉様(あねさま)のも・の・ですから❤」


「本当に殴りますよ、人が真面目に聞いていれば!」


 どうやら<かなめ>さん自身、この抽選会の筋書きが完成しているようである、となれば会話が苦手の私よりも彼女に任せる方がいい、こうして私達は第一の(ふみ)の内容を成し遂げる為、翌日から行動に移していった。



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