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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第12章 その男【服部半蔵】

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諜報活動

<観音寺城の麓にある石寺の町>


 (あるじ)が竹中様の指示によりこの観音寺城を落とす準備を始めている頃、私と<かなめ>さんはすでに【石寺の町】に潜入し、まずはこの地での(たみ)の様子を探る事から始めていた、何かを成すにも綿密な諜報活動こそが、これからの方向性を示してくれる…師匠【服部半蔵】様の言葉だ。


「あ、いらっしゃいませですの、姉様(あねさま)❤」


 情報を仕入れる際、一番最適な手段は人が集まる場所に潜入するのが基本である…が、しかし…あまり接客が出来ない私は宿屋の手伝いとして働き始め、おしゃべりが得意の<かなめ>さんは酒処(さけどころ)の看板娘となりお互い諜報活動に勤しんでいた。


「凄く繁盛していますね…この男性(がた)は<かなめ>さん目当てですか?」


 完全に町娘に化けた<かなめ>さんは、剣士が持つ特有の風格を消しており、この中のお客様も彼女が【陰流(かげりゅう)】目録の腕前だとは誰も気が付いてはいない。


「あら?ひょっとして焼き餅ですの?あぁん、でもご安心してくださいな、この<かなめ>の心と身体は姉様(あねさま)一筋でございますから❤」


「殴られたいのですか?」


「あぁん、そんな怖い顔で睨まないでくださいまし…で、ご注文は?」


「鮎の塩焼き定食と熱いお茶を…」


「はいですの❤」


 何故だろう?私と<かなめ>さんが会話しているだけでも周りから男性の視線を感じる…恐らく看板娘である彼女に見惚れているのだろう…ま、それもそのはず、まるで胸を隠すようにお盆を持ち、朱色の着物に深緑色の前掛け、誰にでも分け(へだ)てなく振る舞う笑顔…。


(どうりで男性客が集まるわけですね…でも、私だってあの【メイドさんの衣装】を着れば<かなめ>さんよりも……はっ!…わ、私は何を想像しているのです!い、今は大切なお役の最中だと言うのに…)


 少し私は頬から熱を感じながら、心静かに店内の客層を観察する事にした…。


(なるほど、これも<かなめ>さん効果ですか…商人、農民、やくざ(もの)も居ますね…そして…六角氏の家臣であろう武士まで来ているようで…これなら労せず何かと情報が手に入りそうです…)


「へいお(ねぇ)さん!鮎の塩焼き定食お待ちね!」


「ありがとうございます…」


「ところでお(ねぇ)さん、さっきチラッと<かなめ>ちゃんがあんたの事を「姉様(あねさま)」と呼んでいたが、あんた達姉妹なのかい?」


 早速向こうから情報提供者が餌に喰い付いてくれた、近くに<かなめ>さんが居ないのは少し心細いが、私だって師匠から問答の鍛錬は受けている、ここは私なりにやってみるしかない。


「はい…私達は駿河の国から流れてきまして、ゆくゆくは京を抜け堺の町で働こうと…ただ、金子(きんす)が心持たない為、今はこの町で妹と働き旅費を稼いでおります…私はこの近くの大和屋で手伝いをしております…」


「そうかい、でもな…<かなめ>ちゃんがうちの店を辞めると悲しむ男どもが大勢出るから、ずっとこの町に居て欲しいところだよ…それによ、今は京に足を運ぶのはお勧めしねぇな…」


「それはどういう意味ですか?」


「う~ん…ま、あまり変な事は言えねぇが…天子様が居るってのに…今の京は無法地帯だ…規律なんてありゃしねぇ…そこら中に死体が転がってるそうだ…悪い事は言わねぇ、この近江で生きるか、京を避け、大和の国を通って堺へ向かう(ほう)がいいだろ…」


「あぁ!親父さんの言う通りだぜ、お二人ともかなりのべっぴんさんだし、京に巣食う野党共に何をされるか分からないぜ!ま、何処かの有力な大名が上洛し平定でもしてくれれば、京も安全になると思うがな…」


 私の隣の席で酒を嗜んでいる御仁がこの話に割り込んできた、腰に刀を差して知るという事は六角氏の家臣であろう。


「それはこの地を治めておられる【六角(ろっかく)義賢(よしかた)】様ですか?」


 私の質問にその男は右手に酒の入った猪口(ちょこ)を持ちながらしばらく無言になった、恐らくは六角家の家臣である以上、下手な言葉を口にしないよう家臣らしい言葉を詮索しているに違いない。


「…うむ、拙者もそう願ってはおるが…今は東に織田と浅井の連合軍、西には京でやりたい放題の三好一党が居る…どこから手を付けていいものか…さぞ殿(との)も決断に揺らぎ、日々胃の痛い思いをされておるはず…我ら家臣も殿(との)のお心が休まる働きをする覚悟ではあるが…」


 己の忠義を示すありきたりな返事に切り替えたようだが、その言葉だけでも今の六角家の動向を読む事が出来た、となれば更に情報を収集し、竹中様から引き揚げの指示が出るまで今は誠心誠意励むのみである。


(大体の情報が集まり次第、竹中様より頂いた第一の(ふみ)を開けるとしましょう…)


 それから十日ほどが経ち、私と<かなめ>さんもこの地の人々との交流も深まり、更に情報を手に入れる事が出来た、(いくさ)に備えて年貢の割合が高くなった事、日々力を増していく織田家がこの近江に進軍してくるかも知れない恐怖、戦が始まると何処かに避難したいが行く当てもなく愚痴る者…六角家の統治能力を疑っている家臣さえ居た…。


「…<かなめ>さん、だいぶんと情報が手に入りましたね…」


 何とか自分たちも納得が出来るほど情報を集める事が出来、今私と<かなめ>さんは常宿でこれからの行動について打ち合わせをしていた。


「では姉様(あねさま)、そろそろ半兵衛様から預かりました【第一の(ふみ)】を?」


「えぇ、開けてみましょう…」


 私はまず懐から<(いち)>と記された封書を開き<かなめ>さんと共に内容を確かめた。


<出来る限り民の署名を多()集めること、()が読み書き出来ない者は代わりに代筆せよ>


「…??…これだけですの?……」


「…みたいですね…」


 私はそっと(ふみ)に鼻を寄せ臭いを嗅いでみたが、みかんや茶の香りもしておらず、あぶり出しの謎かけでもなさそうだ…この、たった一行の命令文は何を意味しているのか?私達には全く理解する事が出来なかった。


「ま、あの<今孔明>である半兵衛様の(めい)なら、きっと何か目的があるはずですわ♪」


「そうですね、いつ帰還命令が来るか分かりませんので、早急に動きましょう………はぁ~…でも…」


「どうなさいましたの?姉様(あねさま)?」


「いえ…どのように署名とやらを集めればいいのか……私はあまり人と接するのが苦手ですので…知らない人に声をかけるなんて…」


「ふっ、ふっ、ふ!それはこの姉様の露払いである<かなめ>にお任せを♪」



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