城攻め軍議
俺にとって初めて【城攻め】の勅命が出た…信長様は観音寺城を燃やし尽くせとの命だが、そうなると敵とはいえ想像を絶する犠牲者が出るのは目に見えて明らか…俺の知っている観音寺城の【落城】は六角親子が城を捨て逃げ出し、織田軍が無血占領したはずだが、今はその歴史通りに事態は流れていないはず、それが一番俺にとって不安の材料となっていた。
「…主…信長様と拝謁してからずっと表情がお硬いようですが…」
信長様との拝謁が終わり帰路の途中、やはり俺の顔が暗かった事に気が付いていた楓さんが心配し、そっと声をかけてくれた。
「うん、まさか【城攻め】を命じられるとは思ってもいなかったから…」
「これまでの主の軍功からだと当然だと思います…【城攻め】を任されるは武人の栄誉…おめでとうございます…」
「…何がめでたいのか分からないよ…きっと城内には多くの家臣の家族が住んでいるはずだし…何の罪もない奥さんやその子供だって居るだろう……【戦】になれば逃げ場も無く炎に包まれ…そんな光景を…僕は見たくない…」
大河ドラマや映画、戦国アニメ…色々な作品で【城攻め】の場面を観たが、それはあくまで演出の世界だった…それが…リアで目の当たりにするのは、俺が今頭に浮かんでいる光景よりも遥かに恐ろしい惨状になっているはず…。
「めでたいのは【淳一】の頭ですわ、強い者が生き残り、弱い者は強い者に滅ぼされてしまう…それがこの時代だと、その歳にもなって理解をしていないのですか?」
「そ、そんな事は分かっているよ…分かってる…けど……」
「……本当によくこの時代で生き延びて来たものですわね…大抵あなたのような甘い考えの人から死んでいくものですが……でも…その【淳一】気持ち……<かなめ>はよく分かりますわ……戦でも没落でも、一人だけ生き残る寂しさと悲しさは、経験した者でしか分からないですから…」
「…<かなめ>…」
そうだった…<かなめ>も幼い頃から天涯孤独の身で、松平家に引き取られるまでは日々不安と恐怖を隣り合わせに生きて来たんだ…当然こんな時代である、彼女がその辺の道端で息絶えていても誰も見向きすらしない…そんな境遇の中で<かなめ>は自分の身は自分で守るしかないと悟り…彼女は生きる為に剣の道を選んだのだ…。
(くそ、どこまで俺は平和な時代に守られ生きて来たお花畑野郎なんだ!きっと<かなめ>は、俺が小学校の低学年くらいに両親と死別し、すでに天涯孤独だったはず…それからは食べたい物も食べられず、誕生日すら誰にも祝ってもらえない…ただ今日を生き抜く事だけを、幼いなりに必死で考えていたんだ…なのに、俺ってヤツは…)
「でも…<かなめ>は信じておりますわ…【淳一】はむやみに殺生は好まぬ男子だと…味方だけではなく、敵の家族まで気を配るほどのお人好しですが、あの【服部半蔵】様から<かなめ>を守ってくれた心意気は…お、おほん…評価しておりますから…ま、それ以外で褒める所はありませんけど…」
「おい、最後の言葉はいらなかったぞ!」
だが、今回は<かなめ>の毒舌もムカツク事は無かった、それは昨日の歓迎会の時、あれほど嬉しそうに、酒や料理を楽しむ無邪気な少女の笑顔を出していたからだろう…今思えば、ずっと<かなめ>が憧れていた【家族団らんの食事】が叶った笑顔だったのかも知れない。
「では主、此度は竹中様のお力を?」
「うん、必ずそうなる…まずは帰って軍議だ!」
こうして俺達は急ぎ帰宅し、今は竹中様の部屋で軍議を始める事にしたのだが、何故かその場に楓さんとオマケの<かなめ>がしっかりと参加していた…。
「あの…これから軍議を始めるのですが…どうして楓さんと、どうでもいい<かなめ>がここに居るのでしょうか?」
「愚問、私は主の警護役、今回より戦場でも主を守る為、同行いたします!」
「<かなめ>は姉様の露払い!姉様の行くところ、常に<かなめ>有りですわ!」
また一つ頭痛の種が飛んで来た…歴史上で戦に参戦した女性武将は居るには居たが、まさか楓さんがその中の一人に加わるなんて、俺自身は全く想像すらしていなかったし、オマケの<かなめ>が何の役に立つのか考えもつかない。
「おほん、ところでじゃ!殿は巽殿に何を命じられたのか、そろそろ言ってはくれまいか?軍議と言っておったからには戦なのじゃろ?」
「はい、では後日の評定にて信長様から我らに勅命が出されます!それは…僕達だけで派手に観音寺城を攻め、業火に包まれる【佐々木六角】の城を世に見せ付けてやれ!織田家に歯向かえばこうなる運命であると年寄りから子供まで知らしめよと…」
「な、なんと!殿は、わしらに城攻めをお命じになられるのか!」
「……そ、そうです……」
その瞬間、いきなり藤吉郎様は身体を180度反転させ、畳に額を擦り付けながら深々とひれ伏した。
「あ、ありがたき幸せーーーー!!この木下藤吉郎、身命を賭けて観音寺城を落としまするぅーー!!」
「あ、あの…藤吉郎様?稲葉山城の方向は…藤吉郎様がお尻を向けている方向です…」
「な、なんと!これでは殿に尻を向けている事になるではないか!では、改めて…」
やはり楓さんの進言通り、城攻めは武人の栄誉なのだと藤吉郎様の姿を見ればよく分かる、それでも俺は喜びの感情は生まれることは無かった、いや!むしろ炎に包まれる観音寺城を見て喜ぶ藤吉郎様の姿すら見たくない気持ちだった。
「どうかしましたか?巽殿?先ほどから浮かない顔がでておりますが…」
「はい、竹中様…実は…どうしても火攻めの事が頭から離れなくて…」
「…あの炎の中には罪なき女子供が居て、どうしてその者まで巻き込まなくてはならないのか?そうお考えなのですね?」
「…そ、その通りです…」
「なるほど…それがしは少し考えが違います、あの観音寺城を燃やすなど、なんと勿体なき事!それがしなら、そっくりそのまま無傷で城を頂き殿に献上するのですが♪」
「え?…た、竹中様!」




