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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第12章 その男【服部半蔵】

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師の教え

 本気の鬼となり【服部半蔵】の命を奪おうとしていた(かえで)さんに【待った】をかけたのは、修行時代の仲間であったお絹さんと久兵衛さんだった。

 そんな彼らの悲壮な声に少しづつ表情が変わり(かえで)さん自身も冷静さを取り戻していく。


「どうやら間に合ったようだ…お(かしら)、大丈夫ですか?」


「お(かしら)、うちらが止めたのに…どうしてそんな無茶を…」


「ど、どういう事なの?お絹、久兵衛?」


「それよりも、まずはお(かしら)とその御仁の傷の手当だ…お絹はあの御仁の傷を頼む!」


「あいよ!」


 どうやらこの二人の介入で今以上の惨劇にはならずに済みそうだ…しかし、彼らの口調から察するに、この件については深い理由がありそうに思える。

 (かえで)さん自身も何故この二人が現れたのか、まだその現実が理解出来ず愛刀を握り締めたまま立ち尽くしている。


(かえで)の傷は大した事はなさそうだし、これなら手伝えるね!ほら、そこの嬢ちゃんも(かえで)と一緒に手伝いな!」


「は、はいですの…」


(これで、本当に終わったと思っていいのか…)


 俺は<かなめ>と(かえで)さんに介抱されながら、傷の手当てを受けていく。

 何度か痛みで苦悶の表情と声を出したが、そこはやはり忍びの苦しい修行を耐え抜いたお絹さんである、軽く俺の頭を叩き「男がこの程度の傷で情けなく(わめ)くな!」と彼女は俺を叱責した。


「それにしても、さすがお(かしら)の腕前だね…見事に背中の急所を外しているわ……」


「お絹よ、最後にこの軟膏を【(たつみ)】に塗ってやれ…」


「あいよ♪とりあえず、お(かしら)が無事で良かった♪」


 恐らく忍びに伝わる妙薬だろうか…お絹さんは【服部半蔵】からその薬を受け取ると、惜しみなくその軟膏を俺の傷口に塗ってくれる、ようやくここで場の空気が落ち着いたからか、改めて(かえで)さんの口が開く。


「お絹、久兵衛…どうして私を止めた?」


「…それは…お(かしら)は本気であんたを殺すなんて考えていなかったからさ…当然そこに居る御仁や嬢ちゃんもね…(かえで)…お(かしら)は、ずっとあんたが弟子を取った事や、何処の誰だか分からない主人の警護役を請け負っている事にも悩んでおられた…」


「お絹、その続きはわしの口から話そう…」


「お(かしら)…」


 先に手当てが終わった【服部半蔵】からはすでに殺気が消えており、静かにその場から立ち上がると(かえで)さんの前に歩み寄った。

 ただ…しっかりとその右手には、あの恐ろしい刀が握られてはいたが…。


(かえで)よ、これまでの貴様には人の命とその人生を背負う事への重荷を理解していなかった…<かなめ>との試合もしかり、わしとの勝負もしかり…貴様の中にある慈悲の心が己の決断を曇らせておった…今、貴様は弟子を取り主人を警護する役目も(にな)い始めた…言わば自分の命と二人の命を同時に守る重責が出来たのだ…だが、その大きな重みを貴様はまだ分かっていない…いいか、人の命と人生を守るという事は、時として自ら非常な鬼とならねばならぬ…それを肝に命じよ!」


「……………」


 何も言わず(かえで)さんは目の前に立つ【服部半蔵】を見詰めていた、そんな【服部半蔵】は手にしていた刀を前へと差し出し更に話を続けていく。


「よいか、【(つばめ)】とは遠き地より過酷な試練を乗り越えこの()(もと)まで飛来する、その強き忍耐は雛鳥(ひなどり)へと受け継がれ、また遠き地へと飛び立つ…親鳥が弱くてはその子の待つ運命は【死】…その為に親鳥は必死で飛び方を伝授するのだ…子を死なせぬようにと…(かえで)、自分の命を粗末に考えれば、その子も同じ道を歩むであろう…師とは己の歩む道を、弟子の目に焼き付けさせる事も肝要だと心得るがいい…」


「……し、師匠……」


 (かえで)さんの前に刀を差し出している【服部半蔵】の頭巾の奥からは先ほどのような殺気に満ちた眼差しとは違い、いかにも弟子を思う師匠らしく、厳しい眼つきの中には優しい光が輝いているように俺は見えた。


(かえで)よ、この先…もし貴様が師匠としてあるまじき道を選択した時…次は容赦なくこれで貴様を斬る!大和飛燕流(やまとひえんりゅう)とは弱き者を救う剣だけではない、己の命を守りぬいてこそ(まこと)の伝承者である事を自覚せよ…」


「う…うぅっ………し、師匠……ぐすっ……ご、ご指導…あ、ありがとうございました…」


 (かえで)さんはその場で正座をすると、涙を流しながら深々と【服部半蔵】に向けて頭を下げた…弟子の指導の為であれば【時として己の命を賭け鬼となる事も必要だ】との教えは彼女の心に深く刺さったに違いない。


(やはり伊賀軍団を率いる【服部半蔵】は、とてつもなく凄い男だったな…)


巽淳一(たつみじゅんいち)、不詳の弟子を(さと)す為とはいえ、貴殿を利用した事…心よりお詫び申し上げる…背中の急所は外してある(ゆえ)、十日ほどで傷は癒えるだろう……」


「い、いえ…事の全てを理解しましたので…いたた…それに、あの有名な【服部半蔵】様から受けた傷というだけでも僕の誇りになります…」


「そうか…あの時、<かなめ>を(かば)った貴殿の姿には感心した…天晴(あっぱれ)武士(もののふ)の姿であったぞ…これはわしの本心じゃ…」


 こうして静かに【服部半蔵】は手にしていた刀を鞘に納めると、彼の配下であるお絹さんと久兵衛さんから安堵の吐息が漏れた…それと、不思議な事にあの塗り薬を塗られてから傷の痛みが随分と楽になったような気がした。

 もしかするとあの薬は戦国ゲームでチラッと出ていた金創膏(きんそうこう)かも知れない。


「お(かしら)、そろそろ、うちらも行きましょうか?」


「うむ、だがお絹よ、お前は美濃の国境まで(かえで)達を送ってやれ、わしの事は心配いらぬ…久兵衛も居るでな」


「あいよ、お(かしら)!うちが責任を持って送り届けます、じゃ<かなめ>まずはあんたの出立準備からだ、立てるかい?」


「え!あ、た、立てる事は…立てますが……そ、その…お絹様…少しお耳をこちらに……」


「え?何?」


 何やら<かなめ>はそっとお絹さんに耳打ちをしているが、俺と<かなめ>の距離がかなり近かった為、(かす)かに俺の耳には「恥ずかしながら…少々お漏らしをしてしまいまして…」の言葉が流れていたのだ。


「え、それは大変じゃない!…いいかい?ちょっと男性陣はあの山の方向を見ていな!お(かしら)もだよ!さ、早く着替えを持ってあの川で身体を洗いに!うちも手伝うから!」


「え…あ……は…はい……ですの…」


 今のお絹さんの言葉は、完全に<かなめ>とのヒソヒソ話を台無しにしたと、彼女以外は全員頭に浮かんでいた、当然ながらあの<かなめ>でさえ、耳まで赤くさせながらそのまま着替えを持ち、お絹さんに手を引かれながら、雑木の茂る河川敷へと向かって行く足音が我々に聞こえていた。。


(ここで<かなめ>の後ろ姿を見ていいのは同じ女性の(かえで)さんだけ…もし、俺が<かなめ>の座っていた地面に目を向けたりなんてしたら……想像するだけでその(あと)が恐ろしい…)


「おほん、ならば先にわしは久兵衛と共に岡崎城へ戻ると致す…(かえで)…わしからの(めい)…けして忘れるでないぞ……」


「はい、師匠…」


「さらばだ!(かえで)、【(たつみ)】…」


 全て(かえで)さんの指導の為だったとはいえ、俺はこれまで歩んだ人生の中で、本当の【死】を覚悟するような恐怖を経験した!。

 こんな時代だ、いつ自分の命が消えるか分からない…そんな俺自身も【服部半蔵】から自分の命の尊さと、日々を悔いなく生きる為の意味を教わった気がしていた…。


(何はともあれ、俺はまだ生きている…これほど生きている事が本気で嬉しいと思えたのは初めてだ…さぁ、これで美濃へ帰れる!が、この先の事を考えるとまた不安になるな…)



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