怒りの奥義
「む、これは……」
完全勝利を確信していた【服部半蔵】だったが、楓さんの言葉通り自分の衣に視線を送ると、左右の袖が数か所切断されている事に気が付いた。
「二十四曼荼羅陣…これは全方位防御の形に見えるが、前方から後方に防御を切り替える一瞬、隙が出来る!私は何度も攻撃を繰り返しそれを見切った!」
「ふははは♪見切っただけではどうにもならぬわ!精々この衣の生地を切るのが貴様の限界…わしに致命傷を与える事などあり得ぬ!」
あの二十四曼荼羅陣を楓さんに見切られたのだが、まだ【服部半蔵】からは「それがどうした?」と軽い言葉を彼女に出しそうなほど余裕の態度を見せていた。
それはまだ彼が別の奥義を隠し持っている事を意味しているように俺は感じた。
「ならば、その限界の先を見せてやろう…覚悟せよ…【服部半蔵】……はぁぁぁぁ~~~!」
楓さんはずっと左手で握っていた鞘を地面に落すと、まるで弓を射るような形で上段突きの構えをした!。
だが、これまで彼女の【突き攻撃】はことごとく【服部半蔵】に交わされ、どう考えても一発逆転の技とは思えない…なのに、この場面でも彼女は【突き攻撃】の構えに入ったのだ。
「ふっ、怒りで頭がどうかしたようだな…愚かなり橘楓!【突き攻撃】は一点の急所を狙う剣技、剣先の動きで容易に見切る事が出来るのは貴様も分かっておろう…」
「果たしてそれはどうかな?貴様の目の前に立っているのは毘沙門天の化身となった大和飛燕流伝承者である、それを身をもって知るがいい!」
「言うたな、橘楓…ならば、こちらも奥義を見せてやろう…はぁぁぁぁ~~~…【伊賀九頭竜斬】…楓、先に三途の川でこやつらが来るのを待っておれ!」
(まずい!先に【服部半蔵】が仕掛けた!)
さすが鍛錬に鍛錬を重ねた伊賀の忍びである、あの楓さんに負けず劣らずかなりの高速で彼女へ斬り込んだ!。
その剣先の速さは正に九頭の竜が鎌首を上げて同時に襲い掛かってくるようだった。
「はぁぁぁぁ~~~………二十四曼荼羅陣!」
♪カンッッッ、カカッッン!カキーーン!
「むっ、貴様!わしの二十四曼荼羅陣で【伊賀九頭竜斬】を!」
あまりの速さに俺も<かなめ>も何が起こったのか自分の目を疑った…確かに【服部半蔵】は凄まじい連撃を楓さんに浴びせた…だが、彼女は怒りの表情のままその全てを愛刀で弾き返してしまったのだ。
「【服部半蔵】何故、大和飛燕流が一子相伝なのか教えてやろう…それは始祖より命を賭けた苦行の成果と不屈の精神の全てを一人の子に遺伝させるためだ…例え私のようにおなごであったとしてもだ…その歴代の伝承者より受け継いだ秘奥義【同化鏡】は相手の動きを見切った後、己の技として使う事が出来る…」
「ふ…やはり貴様は、怒りに任せ刃を抜かなくては虎になれぬ未熟者か…まぁいい、それでこそ殺し甲斐があるってものよ…」
「死ぬのは貴様だ…【服部半蔵】…はぁぁぁぁ~~~!」
楓さんは目線を【服部半蔵】から外さぬまま、静かに自分の身体だけを正面向きから横向きに変え、手にしていた愛刀の刃を空の方向に立たせ、刀の【反り】部分を自分の鼻の位置と水平になるまで上げ構える。
「ほう【霞の構え】か…まだ分からぬか、楓…突き攻撃ではわしに通じぬと…」
「それは己の身をもって知るがいい!…うぉぉぉーーー!!」
今度は楓さんが【服部半蔵】に向かって飛び込んだ!。
その速さはこれまで見た速さと格段に違い、正に瞬きの如くである。。
♪カキーーーン!!
「やはり突きと見せかけて袈裟斬りに切り替えたか…甘すぎるわ、楓!」
またしても【服部半蔵】は軽々と楓さんの攻撃をかわしたのだが、何故か楓さんは驚くことも無く不気味にニヤリと笑みを浮かべたのだ!。
「ふっ、掛ったな!【服部半蔵】…大和飛燕流最終奥義【羅漢百飛燕】!うぉぉぉぉーーーー!!」
「むっ!」
♪バシュ!バシュシュシュシュシュシュシューーー!!
♪カンッ!カカカカカカカーーーー!!
楓さんの攻撃を受け流し身体のバランスを崩した隙を付いて、彼女は無数の突きを【服部半蔵】へ発動させた!。
初めに幾度も突きのインパクトを与えておき、一瞬袈裟斬りを見せてからの連続突きに切り替えた事で、さすがの【服部半蔵】でもこの時ばかりは防御するのが精一杯となった!。
「うぉぉぉぉっっーーーー!!」
♪バシュシュシュシュシュシュシューーー!!
(な、なんだ!か、楓さんの刀を持つ腕が…何本にも見える!それに、あの【服部半蔵】が…ぼ、防戦一方になっている!)
「す、凄い…姉様…」
「でゃぁぁぁぁーーー!!」
「くっ、楓…こ、こしゃくな…」
♪バシュ!バシュシュシュシュシュシュシューーー!!
♪カンッ!カッ、カカカカカカーーーー!!
(ん?)
楓さんの乱撃で【服部半蔵】の衣の生地が至る所で破れ始め、徐々に彼の両腕から血しぶきが飛び始めていく!彼自身も反撃の機会を窺ってはいるものの、その圧倒的な剣戟の速さに防戦するのがやっとのようだ!。
「ぬおっ、こ、この様な奥義を隠していたとは……か、楓!き、貴様ーー!…」
♪ドサッ!
ついに【服部半蔵】が深く傷ついた自分の右腕を左手で庇いながら、彼は崩れるように左足の膝を地面に着いたのだ!。
(か、勝った…のか?)
「これで99撃目……次が最後の百だ!【服部半蔵】…貴様の命、もらい受ける!」
「ふ、好きにせい……」
刀を振るう右腕が傷付いたのだ…もはや、まともに楓さんの攻撃も受ける事が出来ないと悟ったのか、彼は静かに握っていた愛刀を地面に置いた。
「さらば!我が恩師【服部半蔵】!」
楓さんは恩師から視線を逸らす事無く、ゆっくりと【突きの構え】に入った…。
(か、楓さん…せ、殺生は…ダ、ダメだ…)
ここは絶対に楓さんを止めなくてはいけない…そう思っていても、背中の傷の痛みが邪魔をして大声を出すことが出来ない…ここは<かなめ>の出番だと期待したが、初めて本気になった楓さんの殺人剣を見たからか、彼女も身体が恐怖で硬直し声を出せない状態だった。
(くそ、どうすれば…)
<やめてーーー!楓ーーーー!!>
「…はっ、お、お絹!」
<止めるんだ!楓ーーーー!!>
「きゅ、久兵衛?…」




