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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第12章 その男【服部半蔵】

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燕の反撃

 俺が一番望んでいなかった事態になってしまった…(かえで)さんは殺される寸前の俺の姿を目の当たりにし、怒りのあまり以前のような冷酷な剣客に戻ってしまったのだ…いや、冷酷な剣客ではなく怒りの業火に包まれた魔人と言うべきだろうか…。


「オンベイシラ・マンダヤソワカ……オンベイシラ・マンダヤソワカ……オンベイシラ・マンダヤソワカ……」


 もはや彼女の耳に俺の言葉は響かない…自ら唱える真言に合わせ鞘の中からゆっくりと露わになっていく(やいば)は太陽の光に反射し眩しい輝きを放っていた…俺は背中の痛みに耐えながら何とか彼女を止める方法を考えてはみたが、初めて経験した麻酔なしの痛みが勝り、かなり思考能力が低下していた。


(くそ…何も言葉が浮かばない…)


「ほう…まだこれほどの闘気を隠し持っておったか…だが、出すのが遅かったな…見ろ、(かえで)!この血を流している無様(ぶざま)な男の姿を!これも全て貴様の甘さが導いた結果だ…」


「だからこそ!貴様を地獄に堕とし私の甘さと決別する!これ以上、貴様に誰も傷付けさせはしない!」


「面白い、面白いぞ!ならば、このわしを地獄に堕としてみよ、橘楓(たちばなかえで)!」


 ついに(さや)から(やいば)の全体が眩しい光と共に現れた、彼女の左手に握られている(さや)には令和の時代で浩一から貰った【くまちゃん】のアクセサリーが悲しそうに揺れている。


「【服部半蔵】今から私がそこに行く!念仏でも唱えておくがいい!」


「ならばわしも貴様の所へ戻ってやろう!それまで大和飛燕流(やまとひえんりゅう)がここで終わる事に対し先祖へ詫びを入れておくがいい!」


 どちらも真剣を手にした者同士が歩み寄っていく、それもただの剣客ではなく互いに超一流の【暗殺者】である、いずれにしてもこの戦いは流血の決着となる事は俺や<かなめ>も覚悟していた…。

 それが分かっているからか、考えたくもないのに流血して倒れる(かえで)さんの姿が頭に浮かんでしまう…。


(何を考えているんだ、俺達が信じてあげなくてどうする!)


 だが、そんな最悪な結果を想像したのは俺だけじゃなく<かなめ>もそうだった…彼女も口にすら出さないが、何度か顔を左右に振り、キュッと唇を噛んでいたのだ。


「オンベイシラ・マンダヤソワカ……オンベイシラ・マンダヤソワカ……オンベイシラ・マンダヤソワカ……」


(か、(かえで)さん…)


 今の(かえで)さんはこれまで俺の知っている彼女の目ではない、完全に獲物を前にした殺人マシーンのような冷酷非情とも言える眼光を放っている。

 正直、あの恐ろしい目で睨まれたら誰もが【死】を覚悟するだろう…【服部半蔵】以外は…。


「いい目になりおったな…それでこそ殺し甲斐があるというもの…だが安心しろ、貴様が死んだらすぐにその二人も貴様の待つ涅槃に送ってやる…」


(あ、あんな恐ろしい姿になった(かえで)さんを見ても(ひる)むこと無く、まだ彼女を挑発してくるとは…この男…マジでヤバ過ぎる…)


「オンベイシラ・マンダヤソワカ……オンベイシラ・マンダヤソワカッッ!!……」


 ♪ザッ!


(いきなり低空飛び!【低飛燕(ていひえん)】か!)


「また同じ技か……んっ?…」


 (かえで)さんは低空からまた【服部半蔵】に斬りかかると見せかけ、その手前でジャンプをするタイミングに合わせて下段から上段に向け鋭く刀を振った!。

 そんな彼女の姿は華麗に低位空からいきなり上昇する(つばめ)のようだった!。


「まだ分からぬか、貴様の剣戟などこの【二十四(にじゅうし)曼荼羅陣(まんだらじん)】には通用せぬと!」


「ぬぉぉぉぉぉーーーーー!!」


 完全に怒りで自我を捨てたかのように、(かえで)さんは前後左右から【服部半蔵】に向け、誰が見ても(すでにあの姿は我武者羅である)と思われほど乱雑に刀を振り続けた…その様子を見ていた俺にはもう彼女自身は万策尽きたのだとしか思えなかった。


(か……(かえで)……さん…)


(あわ)れなり!橘楓(たちばなかえで)!」


 ♪シュッッ!!


「くっ!」


 僅かだが(かえで)さんの着物の左袖が切れ、その切口から露わとなった左腕からはジワリと血が流れた。


(かえで)さん!」


姉様(あねさま)!」


「ふっ、ふっ、ふ…腕を斬られる寸前に我が剣の動きを見切ったか…それは褒めてやる…が…もはや貴様には何も手段が残っておらぬ…どうだ?(おのれ)の不甲斐無さを味わう気分は?では、そろそろ幕引きといたすか…(かえで)、貴様に選ばしてやる!先にこの二人の首が飛ぶのを見てから死ぬか、それが嫌なら最初に自分が死を受け止め、あの二人を(あと)から三途の川で待つ貴様を追わすか…好きな方を選べ!」


「はぁ~、はぁ~、はぁ~……」


(も、もはやここまでか…浩一…最後まで情けない俺で…本当にすまない…お前を令和の時代に帰せなくて、ごめん…絶対に…この時代で生き延びて藤吉郎様と共に天下を取ってくれ…)


 不思議な気分だった…今も叫びたいほど背中の傷が痛くてたまらないのに、心は清らかな泉の水面のように穏やかな気持ちだった…それは、自分が確実な【死】を受け入れたからなのか、それとも恐怖で精神状態がHIGHになってしまったのか…その答えを見つける時間はもう無いだろう。


姉様(あねさま)…<かなめ>はもう覚悟は出来ております…だって、またあの世で姉様(あねさま)と共に過ごせるのですから…今度は、ずっと…ずっと一緒でございます…」


(かえで)さん、俺も覚悟は出来ているよ…藤吉郎様やみんなには申し訳ないと思うけど、君と人生を終えるなら、何も悔いはない…」


「ほう、どちらも【死】を受け入れた顔をしておる…その顔…この【服部半蔵】の寿命が尽きるまで覚えておいてやろう…で、(かえで)?どちらを選ぶ?」


 究極の選択が突き付けられている、俺は(かえで)さんが【服部半蔵】に斬られ地面に倒れる姿を見たくはない、逆に(かえで)さんも俺達が首を刎ねられる瞬間なんて見たくないはずだ!。


(くっ、(かえで)さん…)


「…どちらも選ばぬ!【服部半蔵】…(おのれ)(ころも)を見てみるがいい…」


「なんだと?」



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