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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第12章 その男【服部半蔵】

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憤怒の目

(何だ?右上の背中辺りが滅茶苦茶痛い…いや、まるで焼けるような痛みが全身を駆け巡っているようだ…そうか…俺…<かなめ>を(かば)って…)


「だ、大丈夫か?……か…<かなめ>…」


「じゅ………【淳一】?……い、いやぁーーーーーー!!」


 絶叫する<かなめ>の目線は俺の顔じゃなく、どうやら背中に向けているようだ…そんな彼女が今見ている光景は俺にも想像出来る、間違いなく【服部半蔵】の刀が俺の背中を突き刺しているのだ!。


「あ……(あるじ)…………う、嘘…ですよね?…」


(や、やべぇ…泣きたくなるほど痛い!誰か麻酔薬持っていないか?)


 令和の時代では刃物に刺されただけでもニュースネタだ、でもここは戦国時代…法律なんてあるわけ無いし、こんな事は日常茶飯事の出来事…全く、マジとんでもない時代だ…。


(やっぱり俺…歴史の神に見捨てられたのか?これほど歴史を変えてしまったのだから…ぐっ!神の怒りに触れて当然か…ごめんな、浩一…お前を瞳ちゃんの居る令和に帰してあげられなくなって…藤吉郎様、あなたと出会えた事で、ここまで生き延びる事が出来ました……あなたには感謝してもしきれません…(なか)様や小一郎様、おねちゃんを大切にしてあげてください…そして、必ず天下を取ってくださいね…竹中様、俺の(ほう)が先に逝ってしまいますが、どうかお元気で…)


「【淳一】!しっかりして!こ、こんな能無しの<かなめ>を(かば)うなんて…あなたは大馬鹿ですわ!ぐすっ、大馬鹿野郎ですわ!」


 大粒の涙が<かなめ>の頬を伝い流れ落ちる…口と性格は最低最悪だが、俺の為に泣いてくれる美少女が居ただけで満足だ…(かえで)さんには申し訳ないけど…<かなめ>の胸に抱きしめられる感触も悪くはない…俺だって男だ、最後くらいは格好をつけたい。


「<かなめ>、何が何でも生きろよ…はぁ~、はぁ~…きっと(かえで)さんが助けてくれるから…ぐっ!絶対に、(かえで)さんを信じろ!…はぁ~、はぁ~…」


「ほう、弱いなりに武士(もののふ)としての意地を見せたか…それは褒めてやるが、すでにこの余興はわしの勝ちだ…貴様も<かなめ>も共に死ぬ運命は変わらぬ…」


 ♪ズブッ…ズブッ!


「ぐっ、ぐあぁーーー!!」


「【淳一】!!」


(あるじ)ーーーー!!」


 慈悲の心を持たず冷酷に【服部半蔵】は自分の愛刀を更に俺の身体に押し込んでいく!。

 滅茶苦茶痛い中でも、身体に刺さった冷たい刀の動きは容赦なく俺の全身に伝わる!。

 これほどの激痛を感じたのは生まれて初めてだ。


(だ、ダメだ…も、もう意識が痛みで飛びそうだ…これが…死ぬって事か…)


「ふん、意識を失うつもりだろうが…それは認めぬ!しっかりと貴様が苦しむ顔を(かえで)に見せよ…」


 ♪グチュ、グチュ…


 傷口の中で少しずつ【服部半蔵】は刀の刃を前後に揺らし、俺が意識を飛ばさない程度に激痛与えてくる、マジで地獄の責め苦を受けているとはこの事だ!。


「ぐ、ぐぁーーーーっっ!!」


「は、服部様!も、もうお止めください!早くこの<かなめ>の首をお斬りになり【淳一】を助けてください!」


「言われなくてもそうしてやる…この男が苦悶の表情のまま息絶えた(あと)にな……」


「そ、そんな…」


 何だか着物の背中部分がベットリとしていく…きっと傷口から噴き出す俺の血がそうさせているのだ…その不快な感触は、発汗のベタつきとは比べれものにならないほど気持ちが悪い。

 そんな意識を失う事すら許されない俺の脳裏には、これまで(かえで)さんと過ごした日々が走馬灯のように流れていた。


(そういえば、松風の背に乗り可愛らしく歌を口ずさんでいたな…団子屋ではわざと夫婦のふりをして笑っていたっけ…焼き餅を焼いてすねた顔も…メイド姿も…可愛かったな……もう…そんな(かえで)さんの顔を見る事も無くなるわけか…)


 俺の頭に浮かんだのは剣豪モードの【橘楓(たちばなかえで)】ではなく、ごく普通の可愛い女の子【(かえで)】さんだった…このとんでもない時代に落とされた俺に、彼女は小さな花のような淡い恋を与えてくれた…それだけもう十分だ…。


(も、もう一度だけ…(かえで)さんの笑顔を見たかったな…)


<オンベイシラ・マンダヤソワカ……オンベイシラ・マンダヤソワカ………………オンベイシラ・マンダヤソワカ……オンベイシラ・マンダヤソワカ………>


「ほう、毘沙門天の真言(しんごん)か……感じる、感じるぞ!貴様の業火の様な怒りを!ふふ、ようやく鬼神(きじん)の剣客に戻ったか…(かえで)!」


「オンベイシラ・マンダヤソワカ……よくも、よくも、よくも、よくも!私の大切な人を傷付けたな!もはや【服部半蔵】は我が師匠にあらず!」


「忘れたか?お前はわしの身体に一つも触れる事は出来なかったのだぞ…」


 ♪クシュッッ!


「ぐあっっ!!」


 俺の背中から(やいば)の感触が消えた、そして静かに【服部半蔵】は後ろを振り向き(かえで)さんを睨み付ける。

 俺は【服部半蔵】の背中の向こうに、やや顔を(うつむ)かせ怒りに震えている(かえで)さんの姿を見た、常に戦いの中でも冷静沈着なサイボーグだった彼女が、これほど感情を剥き出しにした姿は初めて見た。


「それは我が愛刀【虎斬燕(こざんえん)】を抜いていなかった為!【服部半蔵】今度は貴様が念仏を唱える時が来た…」


「ついに(あるじ)との約束を破り抜刀する気になったか、大和飛燕流(やまとひえんりゅう)伝承者、橘楓(たちばなかえで)!」


「愛しき人を傷付けられ黙っているは剣士にあらず!いえ、おなごにあらず!これで【淳一】(さま)に嫌われようと、後悔はしない…覚悟しろ、【服部半蔵】…」


 両手で愛刀を水平にした(かえで)さんは、俺との約束を破る覚悟でゆっくりと鞘から(やいば)を抜き始める、そんな彼女の瞳は怒りを抑えられない猛虎のような恐ろしい目をしていた!。


「いい目をしておる…それでこそ貴様を殺す価値があるというもの…来るがいい、(かえで)…」


「……天が泣き……地が泣き……(たみ)もこの時代に泣いている……そんな哀れな世を断ち切るは…我が(やいば)……大和飛燕流(やまとひえんりゅう)のみ……今、私の閻魔帳に…【服部半蔵】の名が載った……」


(か、(かえで)さんは自分の命を捨てるつもりで【服部半蔵】を殺すつもりだ!)


「ダ、ダメだ…(かえで)さん!ぐっ、や、止めるんだ!」



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