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戦国時代の電気屋さん  作者: 朝風清涼
第12章 その男【服部半蔵】

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歩みは止まらない

 たった一度しか技を出すことの出来ない条件が次第に(かえで)さんを追い込んでいく、連続で技を叩きこんでもOKならば、まだ彼女にも勝機の光があったかも知れない…それを封じ込んでしまうとは【服部半蔵】の策略にまんまと俺達は乗せられてしまったのだ…。


「やぁ~っつ!……ここのつ!…」


「てやっ!【雷鳴槍燕(らいめいそうえん)】!」


 我に返った(かえで)さんは急いで立ち上がり、【服部半蔵】が(じゅう)を数える前に【突き】の攻撃を出した!。


 ♪シュ、シュシュッッ!!

 ♪カンッッッ!カカンッ!


(今度も突きか!で、でも…)


 恐らく今の攻撃はカウントを阻止するための【三段突き】である事は、こんな俺でも見ていて分かった…それでも普通の剣客であったのなら、すでに身体に三か所の穴が開いていただろう…だが、それすらも【服部半蔵】は(さや)と刀を交互に使い軽く交わしたのだ。


「次で半分…五歩目だ……」


 ♪ザッ!


 一歩【服部半蔵】が前に進めば、(かえで)さんは一歩後退してしまう…次第に彼女の背中が俺達にじわじわと近付いて来る…残り五歩…俺が天下無敵だと信じていた大和飛燕流(やまとひえんりゅう)が完全にあの【服部半蔵(怪物)】に()されていた…。


「後ろを振り向いてみるがいい、(かえで)…【死】を感じ始めている貴様の(あるじ)と弟子の顔を…何とも哀れ……だが、案ずるな…痛さを感じぬ()もなく二人を殺してやる…」


「私は後ろを振り向きません!何故なら、希望のある未来は後ろにはありません…だから、私は…前だけを向き、(あるじ)と<かなめ>さんの未来を守ってみせます!」


「その程度の腕でか?いいだろう………ひと~つ!……ふた~つ!……みっつ!……」


「くっ!大和飛燕流(やまとひえんりゅう)石砕弾斬燕(せきさいだんざんえん)】」


 ♪ザシュッッ!バシュッ!!


 (かえで)さんは勢いよく刀の(さや)の先で左右真一文字に地面を削り、その衝撃で無数の砂利を【服部半蔵】に向け弾き飛ばした!。

 確か<かなめ>との試合の時も(かえで)さんはこう言っていた「命を賭けた戦いの敗北はすなわち【死】…そこから【(せい)】を掴むのであれば、自分の周りにある物も味方にする…それが出来なければ、ただ【死】を待つのみです…」と…。


(これならあの【服部半蔵】でもひるむはず……)


「ほぉ、そう来たか…」


 散弾銃の弾のように無数の砂利が自分に向けて飛んできたのを防ぐため【服部半蔵】が深編笠(ふかあみがさ)を被っている頭を下げた瞬間の隙を付いて(かえで)さんは俊足で斬り込んだ!。


(やった!!)


「くはっっ!!」


(えっ……)


 ひるんだ【服部半蔵】に向け、胴切りを狙った(かえで)さんの刀が途中で止まった…そして…そのまま彼女は左手で自分の腹部を押さえ、その場でお尻から崩れ落ちていく!。

 そんな彼女の正面には(さや)の握った左腕を真っ直ぐ前に伸ばしている【服部半蔵】が居た…。


「か、(かえで)さん!」


「一つ教えてやろう…己の未来にあるのは希望だけではなく、絶望も未来からやって来るのだ…しっかりその絶望を味わうがいい…立て!(かえで)!…次が六歩目だ…」


 決して【服部半蔵】の言葉は(かえで)さんにだけ向けられたわけじゃない…俺達全員に向けられた言葉なのだ…これまで生きてきた中でも【絶望】の文字は何度も口にした事があった…だが、本当の絶望の意味を全身で感じたのはこの時が初めてだった。


(この男の前では逃げる事も、金を積んで命乞いすら無駄だ…自分の目的以外は一切目もくれない…これほどの恐ろしい男がこの世に居るなんて…も、もうダメかも知れない…あの(かえで)さんすら相手になっていないのだから…)


 ずっと俺の着物を握っている<かなめ>が更に自分の身体を震わせながら密着させてくる、彼女も【服部半蔵】の恐怖を全身で感じていた…口には出さないが、すでに彼女も【死】を覚悟しているのかも知れない。


 ♪ザッ!


 まだ腹部を押さえながら(かえで)さんが立ち上がると、彼は冷静にまた一歩地面を踏んだ。


「…六歩目……ここまで来てまだ(さや)から(やいば)を出さぬとは…その甘さに呆れるわ…ひと~つ!……ふた~つ!……みっつ!……よっつ!……」


「はぁ~、はぁ~、はぁ~………」


 斬撃も通用しない、突き攻撃も通用しない、周りの環境を利用した攻撃すら交わされてしまう…正に八方塞がりの状態だが、それでも(かえで)さんは立ち上がった…何も出来ない俺と<かなめ>の為に…。


(今…俺と<かなめ>が出来る事は…(かえで)さんを応援するしか出来ない…)


「<かなめ>、声は出せそうか?」


「な、何とか…」


「じゃ、しっかりと俺達は(かえで)さんを応援しよう!」


「は、はい……ですの…」


 とは言ったものの、満身創痍の彼女にどんな声援をすればいいか言葉が見付からない…単に「頑張れ!」なんてこの状況ではお門違いにもほどがある、少しでも彼女の支えになるような言葉を伝えなくてはならないのに、つくづく俺は情けない…。


姉様(あねさま)!<かなめ>はどの様な結末になろうと、姉様(あねさま)をお恨みいたしません…それよりも、たった三日間でしたが、姉様(あねさま)はこんな<かなめ>を大切にしてくれました…それだけで<かなめ>の人生は幸せでした…なので、どうか…もうお引きになってくださいまし…<かなめ>は…これ以上姉様(あねさま)の傷付くお姿を見たくは……」


「馬鹿!それじゃ応援にならないだろ!」


「はぁ~、はぁ~…(あるじ)の言う通りです、どの世に弟子を見殺す師匠がいますか…それに、私はまだ負けてはいません…あと4回も攻撃が残っています!必ず(あるじ)と<かなめ>さんの命は守ります…しっかり見ていてください…」


姉様(あねさま)!」


 (かえで)さんはゆっくりと身体を低くさせ、左腕を前に伸ばして構えながら、真っすぐ水平にした右腕だけで愛刀を握り、怯えも戸惑いもなく【服部半蔵】に視線を向け、ついにあの言葉を発したのだ。


大和飛燕流(やまとひえんりゅう)、三の奥義<十二飛燕(じゅうにひえん)>」


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