キャラ強選手権じゃないんだよ!!
ふと、要は自分がいつの間にか病室で立ちすくんでいることに気づいた。
見回してすぐに分かった。
長い間寝たきりでいた、あの東京の病院だ。
でも、自分の姿を見れば高知での高校の制服を着ている、そのおかしな感覚に要は頭を傾げた。
だが、ベッドの方を見てハッと息を呑んだ。
そこには今にも死にそうな自分が床に伏しているではないか。
さらには、目を閉じて動かない自分の傍に父がいたのだ。
若かった頃じゃなくて、最近の要の記憶の中にある少し年の老いた父の姿。
父はずっと自分ではない娘の方を見ている。
「お父さん!」
要は思わず父の方へと駆け寄った。
ー どうして、そっちを見ているの?
ー 私はここにいるよ!
ー ほら、もう立ち上がれるんだよ!
そう、声をかけようとした時ー、父が急に要の方へと振り返り叫んだ。
「 来るな!来るんじゃない! 」
ー お父さん!?
「 やめろっっ!!!! 」
ー お父さん、どうして?私だよ、私が本当の要だよ!
「 この子は俺の子だ!!触るなぁっ!!」
ー お父さん!?ねえ、ちゃんと見て、わたし…
「 この、化け物めぇっ!!!! 」
眠る自分を庇うように父が要を見て叫んだ言葉は、要の心を壊すにはあまりにも簡単すぎた。
要は、意識が浮上する中で思った。
「ああ、私は父が望んでいなかった…あれほどに拒絶していた化け物になってしまったのだ」と。
要の視線の先、暗い足元は濡れていた。
それは、悲しみが冷たい雨を降らしていたからだった。
「いかん、泣いておる。」
「…ぇ?」
要の耳に聞きなれない誰かの声が聞こえた。
その声が言うように無意識に自分の目元に手をやれば、確かに濡れた感触が分かり、要は自分がなぜ泣いているか理解ができなかった。
なぜだろう、意識がぼぉっとする。
「おお、目が覚めたか?」
また声が聞こえた。
でも、その声のお陰でこんなに意識がふわふわするのは、自分が起き抜けだからなんだと気づけた。
なんで寝てたんだっけ?…そう思いながら要が声のした方向に目をやると、そこには大きな老人がいた。
ー 本当に大きな人…背も高いし、真っ白い髭ももふもふしてるし、なんか毎年どこかで見たことあるような…ああ…あれだ、サンタクロースだ。
ぼんやりした頭でそう思った要だったが、すぐに頭を振った。
「あの、あなたは誰…ですか?」
「森の熊さんじゃ。」
「え?」
「ハハハハハハ!おまえさんが言ったんじゃないか、クマか?とな。」
「ぇ、?………あ!」
クマ…?と要が頭を傾げた時、自分が李人や応たちと神の使いの話をしていた時に気を失ってしまったことを瞬時に思い出せた。
ー そういえば、皆んなはどこに?
「あの、皆んなはどこに?それで、あなたは…一体?」
「ワシは恩地と申す。んで皆は台所の方に。今うまい昼飯を作ってくれておる。」
「そう、ですか。」
恩地の言葉通り、台所の方から応や琉宝たちの賑やかな声が漏れていた。
要は寝かされていたソファの上で、李人と応がまた言い合いでもしながら料理しているのだろうと想像できた。
そういえば…なんか良い匂いがするなと、要が上半身を起こそうと僅かに腕を動かした時、すぐ目の前まで来ていた恩地に「起きるか?」と声をかけられた。
要が倒れる際に背中を支えてくれた時からうっすら気づいていたが、目の前に来た恩地は驚くほど大きかった。
背は2メートル近くありそうだし、そしてお腹も出ているので横幅もある。
こう言っては何だが多分、夜の山道で出会ったら本当にクマに間違うかもしれない。
大きな恩地の存在に要が緊張しているとは気づいていない彼は、ニコリと笑って「そうだ、お前さん。」と要の手を掴み起き上がるのを手伝ってくれた。
「はい?何でしょうか?」
「今日はな、野菜や魚もたんまり持ってきたんだが…わしはやっぱり肉が好きでな。お前さんは肉は好きかい?」
「はい…、好きです。」
「そうか!好きか!そら良かったお揃いだべ!なら、多めに焼いてもらわにゃならんの!ハハハハハハハハハハ!」
「?は、はい。」
恩地は心の底から嬉しいとでもいうように豪快に笑って、その大きな手で要の頭を撫でた。
要は初対面の老人に、自分の頭をわしゃわしゃと音をたてられるほど撫でられているのに、なぜか嫌悪感が生まれなかった。
ー すごい大きな声…でも何だか楽しい笑い方、豪快な人だな。
「良い肉の匂いがするべ?」
「え?は、はい。」
恩地の言葉通り、醤油の香ばしい香りが要の鼻をくすぐった。
「昼飯はわしのリクエストだ!ハハハハハハハハハハ!」
「あの、恩地さん?」
「ん?なした?」
「恩地さんって、」
「恩じーーーーーーい!!!」
要の言葉を遮るよに入ってきたのは琉宝だった。
彼女は起き上がった要を見て「要ネーネーが起きてるさぁ!!!」と驚いていた。
「琉宝なした、そんな急いで?」
「お昼ご飯できましたよの報告さぁ!」
「おお!あの米ちゃんと、うるかしたか?」
「大丈夫!応ネーネーと一緒に炊いたよ!」
「ハハハハハハハ!もうこれで琉宝は立派な料理長だべ!!」
「琉宝が料理長!?」
「カッコイイべ?」
「でーじ、カッコイイ!!」
恩地と琉宝のやり取りは、まるで孫と祖父を見ているようだ。
いや、やっぱりサンクロースに出会った少女の図って感じに見える。
どちらにしても微笑ましくて、要は微笑みながら琉宝に声をかけた。
「琉宝ちゃん、すごいね、お料理できるんだね。」
「要ネーネー!大丈夫?気持ち悪くない?ご飯、食べられる?」
「…大丈夫。大丈夫だよ、ありがとう琉宝ちゃん。すごく良い匂いがしたからお腹空いてきたよ。」
「本当?良かったさぁ!!じゃあ、みんなの所に行こう!皆んなも心配してる!」
「うん。」
差し出された琉宝の小さな手を握って、要はゆっくりと腰を上げた。
「今日は、恩じいのリクエストで生姜焼きなんだよ!」
「ハハハハハハハハハハハハ!!肉!米!野菜もしっかり食べような!」
「恩地さん、本当にお肉好きなんですね。」
「オススメのラム肉も紹介できるべ!!!」
「ラム?羊、ですか?」
珍しいですねと言おうとした時、要の左手を握っている琉宝から「恩じいは北海道から来たんだよ!」と声が掛かった。
要は琉宝を見て、そして驚きの顔で恩地を見た。
「え!?恩地さんって北海道の方だったんですか?」
確かに、恩地の口調には訛りがあるとは思っていたが、要は初めて北海道出身の人を見たなと思いながら不躾にも恩地を凝視してしまった。
そんな要と目を合わせた恩地は、「そう言えば、」と言って言葉を続けた。
「お前さんの名前聞くの忘れてたなぁ!」
「あ!すみません!私、要と申します。」
「かなめ…四国の人神か!?」
「え、あ、…はい。」
要が控えめに頷くと、恩地は目を細めて感慨深い顔をしてこう言った。
「…そうか、李人が血眼になって探してた娘っ子がやっとのこさ見つかったか。」
「……。」
要は自分のことを誰かが話すたびに、李人の名前が出てくることが嬉しかった。
誰かが自分のことを、ちゃんと知っててくれていたこと、探してくれていたこと…
ここにくるまで不本意なことも沢山あったけれど、それでもあの日、李人が自分を見つけたくれたから、今自分はここにいるんだなと思えるようになってきた。
ー あの一人ぼっちの病室に、ついこの間までいたのに…
そう、要がそう感傷深く思っていると、急に元気を出した恩地が名案だとでも言うように更に声を上げた。
「なら、今日は盛大に祝わねばッ!!道産子の人神として盛大に要を祝うぞ!」
「それ最高さぁ!恩じい!天才!」
「ありがとうございます…、え?道産子の?」
あなた今なんて言ったの?と言う要の顔を見た琉宝は、ふふんと鼻を鳴らすと要達に向かって胸を張った。
「琉宝知ってるよ!道産子は、北海道生まれという意味さぁ!」
「よく知ってるな琉宝!なまら博識だべ!」
恩地に褒められた琉宝は、頭も撫でてもらってご満悦そうだった。
なのだが要は了承しかねますと主張した。
「いや!!そこではなくて!!」
「「…どこ??」」
琉宝と恩地がシンクロするようにあたりをキョロキョロと見回すので、要は恩地を見て息を呑んだ。
「恩地さん……今、人神って言いました?」
「おお!言った言った!!ハハハハハハハ!!!」
「要ネーネー、恩じいは北海道が守り地の人神さぁ!!」
「ええ!?」
ー そ、そんな…あっさりと!?
「しかも、うちのおばあより長生きで!御年200歳なんだよ!」
「…え、え、え、ええええええええ!?」
要の叫び声に琉宝だけでなく、ちょうど玄関の扉を開けたイズモの肩が揺れた。
しかしそんな事よりも、要は限界が来そうだった。
今、本当に心の底から人神というものを誰かにちゃんと説明して欲しいと強く思った。
ー な、何で人神って…こんなに情報過多な人ばっかなのよぉぉっ!!?
要の気も知らず、琉宝と恩地は「生姜焼きは最高」と言うオリジナルソングを歌っていた。




