表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/38

出雲デート(前編)



「まずは大社(おおやしろ)から参りましょうか。」



そう言ったイズモは家を出ると、途中小さな川を挟んだ道を通って大きな駐車場まで出てきた。

彼は車道が見える所まで出るとすぐに左に曲がって歩道をゆっくりと進んでいく。



「車が多いので、要さんはこちら側を歩いて下さい。」


「あ、ありがとうございます。」



車道側とは逆の歩道を歩きながら、要はまだ横を歩くイズモの手が気になっていた。



ーぐあぁぁッ、て、手汗かいてませんように!



自分達の横を人が通る度に、「勘違いしないで下さい、決してカップルではないんです!このイケメンと私は昨日会ったばかりの間柄であります!」と心の中で叫びを上げている事をイズモは気づいていないだろう。


モジモジする要とは打って変わって彼は颯爽としながらも要の歩幅を考慮しながら歩いているのが見て取れた。


彼の紳士な態度のおかげか、要はようやく周りをキョロキョロ見渡しながら歩いていった。



すぐ横を見上げると、自分たちの左側には要の身長より遥かに高い立派な生垣がずっと道沿いに、奥まで続いている。

どうやら生垣沿いにこの大社の入り口まで向かっているのだろう。


確かに、拝殿から逆流して入り口まで遡っていくよりは、参拝の手順とかにも失礼ではないし気分も違う。


ただ、実はここまでくるのに要は結構息が上がりそうになっていた。



ー う゛う…、イズモさんの言った通り私って運動不足だ…。



ようやく開けた場所についた時、要はもうイズモの繋いだ手など気にもならなかった。



「ふぅ…。つ、着いた!」



綺麗な石畳が広がる広場を見て、要はここが大社の入り口だと思った。


だって何段か階段を上がった先には大きな鳥居と一緒に、大きく大社の名前が書かれた巨大な石碑があるのだから、これはもう間違いない。



「イズモさん、ここが入り口ですか?」


「ここは、勢溜の大鳥居で二の鳥居になります。」



要たちの周りでは、この石碑と鳥居をバックに写真を撮っている観光客の姿が大勢見えた。



ー 立派な鳥居だけどニの鳥居…あれ?



「2の…ということは、イズモさん一の鳥居(いちのとりい)はどこに?」


「後ろですよ、要さん。ほら、奥にあるあちらです。」



要がイズモを見上げると、彼はスッと人差し指を南の方角にさし示したのだ。

そこにあったのは…



「な、何あれ!デッカい!!」


「ふふ、確かにここから見ても大きいのは伝わりますね。」



要は後ろを振り返って初めて、自分が今立っている場所がなだらかな丘の上にあるのだと気づいた。

要の目の先にあるのは、ゆっくりと下に下っていく広い車道だ。

そして車道の両脇に歩道があるのだが、車道との境に木々が植えられていて奥までハッキリとは見えない。


だが、そこから大きく突き出たものだけは嫌でも目についた。



要の正面奥にそびえ立っていたのは、20メートルを優に超えた巨大すぎる大鳥居。



ーなんて、白くて大きい鳥居なの!?すごい迫力!あと、人が…人が多すぎる!!



大鳥居の両脇に所狭しと並んだ多くの店が見える。

大勢の人が色んなお店に入っていくのを見た所、あのお店は全て土産物や飲食店関係なのだろう。

活気に満ちた声が所々から聞こえてくる。



それにしても、すごい人の数だ。



ーこんなに…沢山の人がいるなんて。しかも、皆んな同じこの大社に向かって進んでる!



溢れかえった人の流れが、まるで要の方に向かっている様にも見える。

巨大すぎる鳥居に、大勢の人、そして要の後ろに待ち構えるは…太古より昔の神を祀る大社だー。



「っ、ぁ…!」



要の周りを異様な空気が取り巻いていく。


『 人神、要さま。 』

『 どうか健やかにこの守地でお過ごしくださいませ 』

『 要様の存在が、……国民の命を握っているのです。 』



ー違う!わたし、…神様みたいに特別な力なんかない。

ー私はただの人間なのに!

ー怖い、もし…ここにいる人達に、私が人神だと知れたらどうなるの!?



要は圧倒的な神という存在に呑み込まれそうになる。

息苦しさから、立って居られなくなった要はその場でしゃがみ込んでしまった。



「ハっァ、ハっァ、…」



大勢の人の信仰心と、己の人神という立場、長い歴史を背負う場所…

目に見えぬプレッシャーに腹の底を沈められていくような感覚。

要は目の前が暗くなりそうだった。



「…大丈夫です。ー こちらを見て下さい。ーね、要さん。」


「ッ!あ、イズモ…さん。」



要は、耳元で聞こえた男性の声にハッとなる。

震えながら声の方を見上げると、そこには自分の事を静かに見つめるイズモの姿があった。


彼の目には凪の様に穏やかな深緑の温かさが宿っていた。



ーそうだ、彼もまた人神であるのだ。



そう思った時、要はようやく視界が開け素直に息が吸えた。



「イズモさん、」



要がイズモの眼をじっと覗きこむと、彼は要と繋いだ手をぎゅっと握りしめてくれた。

この時、彼にはきっと要の思いが悲しいほど伝わっていたのだろう。


じんわりとイズモの掌の温かさが要の冷え切った掌に伝わってくる。


イズモはそっと空いた手で要の肩に触れると「大勢の人に驚いてしまいますよね」と少しでも彼女の心を和ませる様に声をかけてくれた。


しゃがみ込む2人の事など気にする様子もなく、周りの参拝者達は各々に順路を進んでいる。

今だけはこの騒々しい空気に助かった。


イズモは要の目を見ながら「今から、僕たちは観光するだけです。」と言うとニコリと微笑みを作る。

目の奥にまだ恐怖の色を残した彼女に、そう言って優しく言い聞かせているのだ。



「…はい…、」



要がまた周りを小さく見渡すと、自分達と同い年位の女子の集まりが楽しそうにスマホ片手に笑いながら鳥居を潜って行くのが見えた。



ー大丈夫。大丈夫、イズモさんの言う通り、これはただの観光。皆んなも私の事なんて誰も知らない。



そう自分に言い聞かせると、要は目を閉じて呼吸を整えた。



「もう…大丈夫です。すみません、あの、急に。」



要が立ち上がるのを手伝いながらイズモは「いえいえ。今日は歩きますから辛い時はいつでも言って下さい。」と言う。

イズモの優しさに要はまた、なんだか心が苦しくなったが、その気持ちを放り払う様に小さく笑った。



「はい…、」



眉を下げて笑う要にイズモは少しだけ物言いたげな表情だったが、さっと一の鳥居の方へと視界を移すと、仕切り直す様に声をあげた。



「この目の前の松並木の参道…、あの奥の一の鳥居である宇迦橋の大鳥居まで広がる通りまでを神門通りと呼んでいます。ここにはお土産やスイーツを楽しめるカフェや出雲そばのお店などがたくさん並んでいるんですよ。」


「すごく賑わってますね…人がいっぱい。」



要の言葉通り神門通りは人で溢れていた。

店から出て来た客は皆んな楽しそうに買い物袋をさげているし、苺を串刺しにした物を嬉しそうに頬張る子供達の姿が目につく。


イズモはそれらを見慣れた様子で眺めていた。



「今日は、まだ平日なので少ない方です。」


「これで!?」


高知の日曜市くらい人がいますよと心の中でツッコむ要に、イズモは平然と言ってのけた。



「これで驚いてはいけません。だって修学旅行やら観光シーズンになると、もっとすごいですから。」


「うわぁ…」



そうか、修学旅行か。

そんなものもありましたね。

要は何処か他人事の様に遠い眼をした。



「まあ、どこの神社も参拝客で賑わうのは良い事です。」


「そうかもですが…」



人混みが苦手な要は、大混雑する街並みを想像して「うっ…」となる。

今日が平日で良かったと思いながら、また神門通りを見ているとイズモから声をかけられた。



「お昼ご飯には早すぎるので、まずは周りの皆さんと一緒に参拝に参りましょうか。」


「はい。あの、よろしくお願いします…。」



着いた早々に迷惑かけてしまったので、要は思わず頭を下げた。

イズモはそんな彼女を見て握った手に力が入る。



「ふふふ、そう気張らずに。では参りましょう。」



イズモの声と共に、二人は早速二の鳥居…勢溜の大鳥居を潜った。

綺麗に補正された参道は、要の立つ所から緩やかな下り坂となっている。

要は周りの人を気をつけながらも、正面の奥ばかり見ていた。

それはもちろん、拝殿が目的だったのだが…



「え?あれ、拝殿が見えない!」



見えるのは只々奥へと広がる参道と、両脇に生えた松をはじめとする木々だけだった。

どんなに奥を覗き込んでも、拝殿のかけらも見えやしない。

それでも首を伸ばして奮闘する要に、イズモは「ここからでは難しいですね。」と苦笑いする。



「まだ拝殿までには三の鳥居、四の鳥居とありますから600メートル以上は歩きます。」


「うわぁ…道理でここから見えないわけですね。」


「ここは境内の広さだけでも18万平方メートルあると言われてますし、とにかく広いんですよ。」


「18万…ヘイホウ…メートル?」



数字を聞いても、まだ理解が出来ない要は「兎に角広い事だけは分かりました…」とだけ言って頷く。

イズモは「多分、分かってませんね。」と思いながら、歩みを進めた。

なだらかな下り道を要はイズモに手を引かれ歩いた。



「下り参道の途中に、祓社がありますのでそこへ先に参りましょうね。」


「あ、穢れを清めるんでしたっけ?」



要の言葉に、イズモは驚いた顔をした。



「…その通りです。要さん、詳しいのですね。」



要から島根には初めて来たと聞いていたイズモは、不思議そうに彼女の方を見る。


祓社の前には数人の列が出来ていたので、彼女達は最後尾に並ぶと、要は頬をかく様な仕草をして申し訳なさそうに口を開いた。



「あの、テレビの受け入りでして…へへ。」


「テレビ?」


「私、子供の頃に東京に引っ越してからずっと入院してたんです。」


「…そうなんですね。」



イズモは要の入院の事を李人から少しだけ耳にしていたので、驚く事はなかった。

だから、静かに頷き返事をかえせた。



「父は、私のことが…気になってたんでしょうね。私をずっと個室の病室に入れていました。」


「…。」



気になって…と言う要の言葉に、イズモはすぐ彼女の父が要の体調を心配して個室を用意したのではないとわかった。


きっと、要が普通の人と違う事が周囲の人間にバレる事を恐れていたからなのだろう。


イズモから見れば、それは隔離…いや、幽閉の様に見えた。

が、要はなんでも無い様に言う。



「でも、うちは別に裕福な家ではなかったから、入院費用はすごい額になってたんだと思います。」


「……。」


「母もパートを掛け持ちしながら妹の世話もしてました。父も夜遅くまで働いていたんだと思います。忙しい中でも会いに来てくれていた時は二人とも顔色が悪い時もあったから…。」


「妹も会いに来てくれる時はあったけれど、ほんとんどの時間を私は一人で過ごすことになったので、せめてもの時間潰しにと両親が病室にテレビをつけてくれてました。」



幼い子供が、ひとりぼっちの病室で寂しさを紛らわす様にテレビをつける姿が、2人の中に映り込む。



「…それで何かと世間の事にも詳しいんですね。」


「…恥ずかしいです、ニワカって言うんですよね…こう言うのって、ハハハ。」



空笑いする少女の姿に、イズモは首を振る。



「何も…恥ずかしくないですよ、要さん。興味を持ってくれて嬉しいです。きっかけがテレビであろうと人の好奇心を動かすことができるなら、それは素晴らしいことです。」



まっすぐ、力強いイズモの言葉に要は驚いた。

彼からもっと何か言われると思っていたから、余計に気持ちがホッとしたのだ。




「…あ、ありがとうございます。あの、本当は嬉しかったんです。ここに来れて。」


「それは僕にも嬉しい言葉です。」



漸く自分達の順番がきて、イズモは手を合わせそっと目を閉じた。

要も彼に習い同じように手をあわせる。



要達の後ろにはまた長い列が出来ていたので、早々に石段をおりて参道の奥に進むことにした。


すると、すぐ右手に開けた場所が見えてきた。



「あ、池がある!」


「浄の池ですね。休憩できる所もありますから、興味があるなら行って観ますか?」



イズモの言った通り、池の奥には屋根付きの休憩所が見えた。

が、その手前からも池が見える様に整備されていたので、要はそちらを指差す。



「じゃあ、あの…近くまで。」



参道から一歩奥にあるこの池には、まだ人が少なかったので要は嬉しそうに歩みを進めた。

池の淵に立って気づいたことだが、それほどにこの池は深くはないようだ。

浅いお陰で、水面近くを何匹もの美しい鯉達が優雅に泳いでるのがハッキリと見える。

要はそれを子供の様に喜んだ。



「わぁ!イズモさん、鯉がいますよ!」


「そんなに深い池ではないので、鯉が綺麗に見れますね。」


「はい!…あの、また後でここに来てもいいですか?」



要は一月はここに滞在する予定だったので、できればまた後でゆっくり池を眺めたかったのだ。

イズモは要の願いにすぐにニコリと頷いた。



「もちろん、好きなだけ見てください。」



鯉に満足した要達は、また参道に戻るとすぐに小さな橋を渡った。

イズモは丁寧に「これが祓橋です。」と案内する。

その橋を渡り終えると、視界いっぱいに広がったものがあった。

それは…



「うわ、木がいっぱい。」


「松の参道ですよ。」



要の前にあるのは隅々まで手入れされた松の林道だった。

縦に4列、ずっと奥まで松の木々が整列するようにずらりと並んでいた。

イズモの言った通り松の道が出来上がっている。


要が辺りを見渡すと、左右に分かれて参道があり、自分達の後ろからやってきた参拝客達は流れるように右脇の参道の奥へと進んでいく。


左の参道には逆にこちらの方へと向かってきている人達ばかりなので、きっと参拝が終わった人の流れなのだろう。



「道が二つ?あれ、でも柵があるけど真ん中にも道がありますよ。あれも参道なんですかね?」


「これは神様の通り道になりますので、参拝客の方は両脇の道を通りましょう。」



ー 神様の通り道…ああ、だからこの真ん中の道には鳥居があるんだ…。



イズモに誘導されて、要は右側の参道を通りながら三の鳥居を横目に奥の方へと進んでいった。

広さや、人の多さも気になったが、やはりこの参道の緑多い敷地に要は驚きが隠せなかった。



「うわ!イズモさん、あそこにすごい草原がありますよ!」


「ふハ!っ、そ、草原!」



ちょうど要の右側に緑の生い茂る広場が見えたので、思いのままにイズモに声をかけてみると、彼の肩が震えているので要はちょっとムッとなる。



ー 草原って言ってもいいじゃない!だってこんなに広いんだし!



要の目の前では原っぱの上をキャラキャラと声を上げて楽しそうに走り回る親子の姿が目に見えていた。

奥にもまだ森と言えそうなほど大きな木々が生えていて、天気も良い今日は風も通りぬけて清々しい雰囲気があった。



「良いな…気持ちよさそう。」


「ワンちゃんみたいな発言ですが、ここは神苑になりますね。」


「しん、苑?」


「はい。こちらは東神苑です。そして道を挟んであちら側の参道の脇にある西神苑にも多くの木と一緒に桜も植えられてます。なので春になったら、とても綺麗で素晴らしいですよ。」


「へえ。それは見てみたいです。」



ー 神社に桜…なんて素敵な所だろう…きっと春にはまたそれを見たい参拝の方が来るだろうな。


要がそんな風に思いながら一呼吸ついた時だった。

イズモの「高知にもお花見スポットはありますか?」と言う質問に要は分かりやすく固まってしまったのだ。



「…どうでしょう、ちょっと、分からないです。」



自分が高知に連れて来られたのは夏だから知らないと言えば良いのに、要にはどうしてもその質問が、守地である高知のことを知らない自分が責められているように捉えてしまい気持ちが苦しくなるのだった。



高知を忘れたい思いと、忘れてはいけないと思う自分、いや…忘れられない自分がいる。

要は自分の気持ちが分からなくなってしまった。

黙ってしまった要にイズモは、そっと口添えするように声をかけてみる。



「ぜひ、…春になったら高知の桜を教えてくださいね。」


「…わかりました。」



ー 春…まで高知にいるのかな、私は。…多分…いなきゃいけないんだろうけど…

ー 戻らないと…いけない…よね。



要はそんなことを思いながら、参道を奥に進んで行く。

その歩みは、先ほどに比べどこか重たげだ。

要はイズモがジッと自分の方を見ていることに気づかないいまま最後の鳥居まで進んでいった。



最後の四の鳥居ー、銅の鳥居の前にある手水舎で手を濯いでいた時からすでに見えていたのだが、ようやく要の前に目的の拝殿がお出ましとなったのだ。



「わあ、大きいですね!奥にも沢山の建物が見えます!」



拝殿にも大きなしめ縄が見えるが、さらに拝殿奥に見える観察楼の造りも立派で要の視界は忙しいことになった。

さらに参拝客の方も勿論ごった返していたので、この時ばかりは要もイズモの手をぎゅっと握り返していた。


イズモは慣れたように人混みをかわす様にスタスタと歩いていくと、着いたのは拝殿奥にある檜皮葺が特徴的な水垣だった。

そこにも大勢の人の列ができてはいたが、要は最後尾に並ぶと「この奥に御本殿があるんですよ」と言うイズモの話に耳を傾けた。



「まずはこの八足門でお参リして拝殿に行き、ぐるりと御本殿を回りましょうか。」



御本殿の周りを回る?と分かりやすく顔に書いた要にイズモは笑いながら頷いた。



「この水垣を沿ってぐるりと一周できるんです。…後ろから見る御本殿も風情があって僕は好きなんですよ。」


「え!?後ろとか見えるんですか!?」



ー 御本殿の後ろ…今まで気にしたことなかった…何があるんだろう?



目の前で順番に参拝する人たちの流れを目にしながら要がそんな風に思っていると、イズモは「ここには多くの神様がおいでなんですよ。」と言い言葉を続けた。



「この御本殿の両脇にも、後ろにも、参拝する場所が沢山ありますからね。」


「…お賽銭が沢山必要ですね。」


「ふふふ…要さん、神様に聞かれたら大変ですよ。」



気づけば、八足門の姿がもう目の前に来ていた。

この奥にあるのは、大国主大神様がおわす御本殿だ。

格子の隙間からでもわかるその建造物の大きさに、要は背筋がピンっと伸びる思いだった。



「ひえ!すみません、すみません!」



そして要が最前列にまで来た時、イズモがそっと彼女の手を離すと、要の目を真っ直ぐに見つめてきた。

彼の瞳がキラキラと光の屈折で輝く結晶の様だと、要は思った。


中国の地を守り地とする彼から要への言葉は耳にスッと入ってくる。



「では要さん。どうぞ祈ってくださいね…ここは縁結びで有名な場所ですから。」


「でも私、まだ好きな人いませんし…。」


「要さん、縁は誰にもあるものです。恋愛だけではなく、要さんがこれから出会うであろう沢山の方との良縁を願えばいいんですよ。」


「これから出会う…。」


「では、参りましょう。」



イズモの言葉で要はまた一歩前に出て、その(こうべ)を垂れた。


2礼、4拍手、


要はスッと息を吸う。

目の前の神という存在。

後ろには参拝を募る多くの人たち。


なんの因果か、要は今ここに立っている。

不思議でならないことだらけで、要は自分の考えも何もまとまってはいなかったが、それでも、縋る様に祈ったことはー…



ー…神様。大国主大神様…どうか、もし、もし願いが叶うのであればー…



深い一礼をして頭を上げると、すでに拝み終わったイズモが脇の方で待ってくれていた。

要は後ろの人に気をつけてイズモの方に近づけば、彼はニコリと笑いかけてくる。



「熱心に祈られていましたね?」


「え?そ、そうですか?」


「願いを聞いても?」


「な、内緒です!」


「ふふ、それは残念です。」



そう言いながらもどこか嬉しそうなイズモは、また要の手を引いて先ほど言った通りに御本殿の周りを一周したのだった。


イズモ曰く、御本殿は24mあるらしく後ろ姿(正確には横向きなのだそうだ)は壮大で、両脇にある社も含めて歴史の流れを感じるものだった。


要は御本殿に向かって祈る兎の石像を見て、同じように祈ってしまうほどに感銘を受けていた。


ー可愛い!やっぱり因幡の白兎と関係あるのかな?兎の石像がいっぱいある。

ー そういえば手水舎の近くにあった小鳥のオブジェも可愛かった。

ー大人だけじゃなくて、女子や子供にも人気になるのがわかる場所だな。



嬉しそうに頬をゆるます要にイズモは「西神苑はまた後で行きましょう。」と言って四の鳥居から西に歩みを進めていった。

そして辿り着いたのは、要が初めてイズモと対面した場所である、神楽殿だった。



「何回見ても、大きいですね…」



いつ見ても、このしめ縄の大きさには息を呑んでしまう。

特にしめ縄の真下にくれば、これがどうして人力で作られるのか不思議なくらい精巧な作りのだとわかる。


綺麗に編まれたしめ縄に、切り揃えられた房の底の美しいこと…。

要は口をあんぐりと開けてまじまじと見ていた。


そこでの参拝が終わっても、まだしめ縄の下から動こうとしない要に、イズモは目の端に映った光景を指さして声を上げた。



「あ!ほら要さん、あそこに花嫁さんがいますよ。」


「わぁ、綺麗!ここで結婚式できるって凄い豪華ですね。」


「ここで眠った要さんの方が貴重ですよ。」


「だから恐れ多いって叫んだじゃないですか!」



なんて所に寝かしつけたんだ!全く!っと心の中で叫んでいる要にイズモは悪びれることなく「ふふ…要さんのその表情面白くて好きです。」と要の頭を撫でた。


勿論、要にはもう通用しない。

彼女は頭を高速で振ると、口を大きく開けて言ってのけたのだ。



「それ絶対褒めてないやつ!!!」



要の反撃などもろともせずに、イズモはケタケタと楽しそうに笑う。

きっと彼には子猫の威嚇のように見えているのだろう。



「さあ、拝殿に戻ったら今度は逆側の参道を通って、最初の鳥居まで戻りましょう。」


「無視!?行きますけど!着いて行きますけども!」



目を釣り上げたままの要はまた東へと戻るためにズンズンと足を進める。

喜怒哀楽が激しい子供のような要に、イズモは振り向きながらこう言った。



「それだけ叫んだら、お腹も空く頃では?」


「そ、そんな叫んだけで」



『ぐぐうぅぅぅ〜!!』



ここで、お腹がなるのがお約束である。

イズモは「ひー」っと笑いながら「ちょうど昼時です。お昼に致しましょう!」と上機嫌で歩みを進めた。



要は顔を真っ赤にしながら「燃費が悪く申し訳ありません…。」と呟いて大社を後にしたのだった。






すみませんが、更新予定を変更します。

次の更新予定は5月29日です。

読んでくださる方、本当にごめんなさい。次回のお話はちょっと難産なのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ