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橘とアルチェアリ  作者: 御社こはく
一章:ルディアノ編
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9/12

1-3 奇妙なバディ・銀髪の少女






「ほらよ」


馭者が馭者台に戻った後、2人は再び馬車に乗った。


そこでユーリは、リデオに服を渡した。

その服は、街で遭遇した盗賊団のものだった。


「街を出る前に剥いてきた。俺が締めたやつだから、血はついてねーだろ」


ほんの少しだけ、リデオの目が丸くなる。


「いつの間に…?」


企業秘密、とユーリはニヤついた。




「それじゃ、改めて作戦を説明するぜ」



相手組織の名はオルガ盗賊団。

100人前後、ごろつきから傭兵崩れ等で構成されている中堅組織。根城は、この先の谷の頭にある。


ユーリが入口で陽動し、その隙にリデオが妹を助け出す、というものだった。


「奴らの目的は俺を殺すことだからな。これ内部の地図」                             


そう言って、ユーリはリデオに畳んだ布を渡す。

薄汚れた朱色の布に、炭で描いた図面。アジトの構造は案外単純そうに見えた。

図面に視線を落としたまま、リデオは言った。


「服といい地図といい、随分と手際が良いな」


「だろ?いやー地図の情報手に入れるのは流石に苦労したわ」


「だが作戦には反対だ」


「わあ、率直(ストレート)


「賊の中には手練れもいる。1人で100人相手は流石に不可能だ」


手練れの賊2人を相手に無傷だったユーリを、決して弱いとは思わない。

しかし剣戟において、個が圧倒的多数に勝るのは不可能に近い。


なぜだかリデオは、その事を身にしみて分かっていた。


しかしユーリはわけもなく言った。


「いやー?案外なんとかなるかもよ?俺精霊種(エルフ)だし」


「……?」


記憶が無いからか、そもそも知らないのか、リデオにはその言葉の意味がいまいち理解できなかった。


「だがまぁ、妹は早めに連れ出してくれると助かるぜ」


持久戦を見越しての言葉だろう。

リデオの反論虚しく、どうやらユーリに作戦を変える気はないようだった。



「ああ、あとこれ」


ユーリは身につけていた首飾りを外し、リデオに渡した。


今まで服の下に隠れていたそれは、様々な色の石の紐に、黄金に輝く美しい石がついた、豪奢なものだった。


「妹に、エバに渡してくれ」




「つきましたぜ、金狐の旦那」


オーレンからおよそ2時間(ベル)。ようやく幌馬車が停まった。


ユーリは馭者に金貨を渡し、幌馬車から降りる。

リデオもそれに続いた。



そのまま橙色の岩壁に沿って歩くと、谷底に出る。

巨石で2人の身は隠されてはいるものの、すぐ奥には賊のアジトが見えた。


「じゃ、作戦通りに」


フードを取り、目立った金髪があらわになるユーリ。

盗賊に身を扮し、フードや口当てで可能な限り顔を隠すリデオ。


「早々に死ぬなよ、情報屋」


「舐めんな、混血」


双方別々の方向に走り出す。

今ここに、作戦の火蓋が切って落とされた。







ユーリはゆっくりと、アジトの目の前に姿を現す。直ぐに見張りが気づき、角笛が谷底に響いた。


大勢の賊がわらわらと出てきては、ユーリに襲いかかる。


その勢いに乗じて、リデオはアジトに潜り込んだ。

響き続ける角笛の音、すれ違う武装した賊の姿に、自然と足が早まる。




———その時だった。

あたりに轟音が響き渡ったのは。



鼓膜をつんざくような音に、一瞬目の前が真っ暗になる。


窓から外を見てみれば、無数の雷が落ちていた。

雷はそのまま渦を巻いて、盗賊たちを襲う。



中心には、ユーリがいた。



俺エルフだし、という言葉がリデオの中で反芻する。


今は雷の落ちるような天候ではない。

あの男が起こしたものであるのは、明白であった。


盗賊たちの動揺や恐れが、見て取れる。

この機を逃す手はない。


地図を頼りにアジトを進む。

最奥にある岩壁を抉った部屋の扉を、リデオは思い切り開けた。


幸いにも、見張りは出払っていた。


中には鎖に繋がれた少女が一人。盗賊姿のリデオを捉えると、キッと睨む。


薄暗い室内の照明に、銀髪が輝く。

歳は僅かに下だろうか。その瞳は兄より淡い翠緑色、陶器のように白い肌。

そして何より、人間(ノーマン)ではあり得ないような、長い耳を持っていた。


リデオは道中のユーリの言葉を思い出す。


『妹の名前はエバ、銀髪で耳が長い。妹がいたらその首飾りを渡して、’

ユーリクレイが来た’と伝えてくれ』


『それは雷の証(クレイストーン)。大事なモンだから失くすなよ?』


不可思議な力で賊を圧倒していたものの、その力がいつまで保つかは定かではない。


リデオはユーリの実妹、エバの前まで進むと、きつく縛られていた口紐を小型ナイフで切った。首飾りを取り出し、エバに見せる。


「なんで助け…どうしてそれを!」


「ユーリクレイという男に雇われた。味方だ。」


そう言うとリデオは、後ろ手に乱雑に巻かれていた鎖の、壁との固定部分を断ち切った。

両手が自由になったエバに首飾りを渡す。


「走れるか」


「え、ええ」


突然の助っ人の登場、解放という展開の速さに、少女はやや戸惑っていた。

しかし、大切な事を思い出す。


「ねぇ、この騒ぎ、兄さんが起こしたんでしょう?兄は、いま戦っているの?」


リデオは無言で頷いた。

ふいに少女の顔が強張る。リデオの服を掴み、切実に訴えた。


「お願い。私を兄さんのもとに連れて行って」


リデオは頷いた。

戦いの場に少女を連れて行く事には反対だった。

しかし早く戻って戦力になるべきであることは明白で、少女もまた、あの力を使える可能性があった。


エバを連れていれば、偽装も意味を成さなくなる。リデオは背の鞘から剣を抜いた。

扉に手をかけながら、言う。


「この先、人を斬るかもしれない。嫌なら目をつぶってほしい」


二人の間に、一瞬沈黙が降りる。


「…え?」


「え」


「あ、いや」


大丈夫デス、とエバは気まずそうに目を逸らした。

言えるわけがない。

表情のない冷淡そうな男の子の、意外な気遣いに驚いた、などと。


2人は部屋を出て、一直線の廊下を走る。

人質の脱走に気付いた追手が、早くも後ろから迫っていた。


リデオは咄嗟に、エバを連れ屋根裏に隠れた。

外では多くの足音が聞こえる。


「ちきしょうッ!!どこに隠れやがったあのガキッ!!」


「あの鎖断ち切るたァ、あれが異能ってやつか?」


「うるせぇ!今はそんなことどうでもいい。あのガキは人質としての用が済んだら、貴族に売り飛ばす手筈になってんだ!逃がしたとなりゃ俺等殺されちまう」


隣で、エバが身を固くした。服の裾を握る力が強まる。


「案外屋根裏にでも隠れてんじゃねぇの?」


「!!」


盗賊の言葉に、エバの顔がさらに強張る。

もう、おしまいだと思った。



その時だった。リデオが唐突に屋根裏の窓を蹴破ったのは。


「え、ちょ、何して」


「あぁ?なんだ今の音」


盗賊たちの足音が近づく。

しかしリデオは表情を変えない。窓の外から屋根に登り、登ってこいとばかりにエバに手を差し出す。

迫る足音、エバに選択の余地は無かった。


板張りの屋根の上、渓風がエバの銀髪を煽る。


「あれ…!」


エバの指差す方向には、谷底に倒れる無数の盗賊達。

そして空を裂く稲妻が見えた。しかしリデオが最初に見たときよりもだいぶ弱まっている。


すぐにいかなければ、間に合わない。

しかし室内に戻ろうものなら、袋の鼠だ。


「……すまない」


「え?わっ、ちょっと!」


リデオはエバを抱えあげると、屋根の縁ギリギリに立つ。


「え、まって嘘でしょ嘘よねって、きゃあぁぁぁああああああああああ!!!!」


そして屋根から飛び降りた。

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