表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
橘とアルチェアリ  作者: 御社こはく
一章:ルディアノ編
PR
11/12

1-5 始まりの協力者




谷底に軽快な音が響いた。


ユーリはバランスを崩し、思い切り地面に尻餅をつく。


「真正面から突っ込んでくるとか、馬ッッ鹿じゃないの!!??」


胸を大きく上下させながら、エバは憤っていた。

尻餅をついたままぽかんとしていたユーリは、あわてて言い返す。


「俺は早くお前を助けようと___」


「だからって他にいくらでも方法はあったじゃない!私がここから移送される時狙うとか、本部(ホーム)から人借りてくるとかっ!!」


「アッ、タシカニ」


「…こんな身を削るような戦い方、もうやめてって言ったわよね」


言葉尻が滲む。服の裾を握る力が強くなる。


「この人がいなかったら、兄さん、死んじゃってたかもしれないのにッ!!」


澄んだ翠緑の瞳から、大粒の涙が溢れる。

泣きじゃくる姿は幼子のそれだった。


「悪かった、悪かったから。もう泣くな」


ユーリは困ったように、妹の頭を優しく撫でる。

今までのどの表情とも違う、兄の顔。


自分には縁遠いような、しかしなぜだか、ユーリの気持ちがわかるような気もしながら、リデオはその精霊種(エルフ)の兄妹を見つめていた。






「こいつ混血(ハーフ)なんだとよ」


谷から離れ、ルディアノ中部へと移動する道すがら、ユーリが唐突に口を開く。


混血(ハーフ)…?」


「…おい」


リデオはユーリを睨む。ユーリは降参するように両手を上げた。

エバは困惑したようにリデオの方を見る。


最初は目をあわせようとしなかったリデオも、エバの視線に耐えかねたのか、浅くため息をついた。周りに人がいないことを確認したうえでフードをとる。


「……!道理で…」


「?」


「ずっとフード被ってるし、感じたことない雰囲気だから、てっきり魔族(デイリス)かと…」


「デイリス…?」


言葉尻の疑問に気付くことなく、エバは身につけていた首飾りを外し、兄に渡した。


「もう!()()()()をほいほい手放さないでよ!」


「悪かったって」


ユーリは笑いながら首飾りを受け取った。

不思議そうにこちらを見つめるリデオに対しニカッと笑う。


「ま、込み入った話は座ってしよーぜ」


それから間もなくたどり着いた小さな村。その端にある小屋を、宿の代わりとして村長から借り受ける。

木箱の上にエバが座った。その隣に、ユーリが腰を下ろす。

向かいの壁に、リデオはもたれかかった。


「改めて自己紹介させてくれ、リデオ。俺はユーリ、ユーリクレイ。雷の一族の”族長”だ」


「私はエバ、エバクレイ。同じく雷の一族で、この馬鹿の妹です」


馬鹿かぁ…とユーリは大げさに肩を落とす。


「族長…」


リデオは神妙な面持ちでユーリの言ったことを繰り返した。

その反応に、エバが同調する。


「びっくりよね。兄さん、明らかに軽薄そうだもの」


「おいコラ。ま、一族っつっても今は俺とエバの2人だけだけどな。…で、お前は?正直色々気になりすぎるんだが」


ユーリはその瞳を輝かせながら、身を乗り出した。

エバもそれとなく好奇心をにじませている。


リデオは若干気まずそうに視線をそらした。

そのまま僅かに口を開く。


「………実は、記憶がほとんど無い。だから話せる素性も無い」


すまないという声は、僅かながら沈んでいる。

そんなリデオの様子を見て、ユーリが口を開いた。


「...オーレンに来る前は、なにしてたんだ?」


「海岸に漂着していた所を、ドランという男に助けられた。それで、オーレンにいる情報屋を頼れと言われて、来た」


「ドランさんが…」


エバはしみじみとその名を口にする。


「…知り合いなのか?」


ユーリが変わりに答える。


「昔俺達が|ルディアーナ大陸とアグニア大陸の間の内海《アグルバニア海》で溺れてた所を助けてくれたんだよ。北東に左遷されたって聞いてたけど、元気そうでよかった」


ドランの身に何が起こったか、おそらく情報屋であるユーリは、リデオよりわかっている。

だからリデオはそれ以上なにも言わなかった。


「で、兄さんを訪ねて、兄さんがそのまま対価として協力させたってことね」


エバのユーリに対する物言いには、若干トゲがあった。

自分を危険な目にあわせたことではなく、自らの命を軽視する兄の行動に、エバの機嫌はまだ直っていない。


なら次はこちらが協力する番ね、というエバの言葉。

リデオは静かに言葉を紡ぐ。


「…自分には、思い出さなくてはいけないことがある。取り戻さなきゃいけない人がいる。何もわからないけれど、それだけはきっと確かだ」


そして、祈るような気持ちで言った。


「とてつもない長旅になる。危険にさらされる事もあるかもしれない。だけど、どうか手を貸してほしい」



重たい沈黙が落ちる。

ユーリはゆっくりと口を開いた。





「……断る」


「…!」


「ちょっと兄さんッ!」


エバは思わず立ち上がった。

部屋の空気が張り詰める。



_____しかしその緊張を破ったのもまた、ユーリだった。

その口角がふっと上がる。


「ただ手を貸すだけで済むかよ。お前にはもう返しきれない恩がある。全面的に協力させてくれ、相棒」


「__助かる......ッ」


リデオの中で、1つ道が開けた気がした。

何も見えない旅路の先が、確かに繋がった気がした。


「紛らわしい言い方しないでよ、もう…。えと、リデオ、だっけ」


リデオは頷く。エバは床に膝をつき、両手を組んで目を閉じる。


〘私もあなた様に助けられた身。この恩お返しできるとあらば、喜んで同行いたしましょう〙


音楽的な響きを帯びた文言は、普通の発音とは明らかに違っていた。

頭の中に直接伝えられるようなこの発音、直感で古エルフ語だと気付く。

以前に聞いたことがあったのかもしれない、とリデオは思った。


文言を言い終えたエバは、ジトッとした目でリデオを見る。


「でも、いきなり私のこと抱えて屋根から飛び降りたこと、未だに許してないから」


「え、お前そんなことしたの……?」


「してな__」


「したわよ!!内蔵出ちゃうかと思ったんだからね!」


ユーリが笑い声を上げる。

怒るエバを、リデオは困ったように見あげている。




そんな3人を外から見つめる人影があった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ