第十二章『存在しない死体』
その記録を見つけたのは、偶然だった。
データの整理中。
一覧の中に、一つだけ異質なものがあった。
日付あり。
場所あり。
状態あり。
死因あり。
だが。
写真が、ない。
「……おかしいだろ」
呟く。
この町の記録は、すべて写真付きだ。
それがルールになっている。
だが、これだけが違う。
「椎名」
呼ぶ。
「これ、何だ」
彼女は画面を見るなり、ほんのわずかに動きを止めた。
「……それは」
珍しく、言葉が遅れる。
「存在しない死体です」
「は?」
「記録だけが存在しています」
意味がわからない。
「誰も見ていないのに、記録だけある?」
「はい」
スクロールする。
観測者の欄。
そこに書かれていた名前で、指が止まった。
相沢 恒一
「……俺?」
声が、うまく出ない。
「俺は……こんなの、見てない」
「はい」
椎名は、静かに頷く。
「ですが、“見たことになっています”」
頭が、追いつかない。
見ていない。
記憶にない。
なのに。
記録だけが存在する。
「……どういうことだ」
椎名は、ゆっくりと答える。
「観測は、必ずしも“意識的”とは限りません」
一拍。
「あなたは、すでにどこかで――」
「やめろ」
思わず遮る。
それ以上、聞きたくなかった。
だが、視線は画面から離れない。
そこには、確かに書かれている。
“自分が観測した未来”。
思い出せない未来が、すでに存在している。




