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第4話 読書と誕生日

 私がこの世界に来てから、二年半が経った。

 その間に私は読み書きをマスターした。最近は本を読んでいることが多い。

 

 ちなみにこの世界では三十日で一月ひとつき、十二ヶ月で一年になる。三六〇日で一年だ。


「んっ、うぅー……ふわぁ〜」


 まだ寝ていたいと主張する体を起こすために伸びをする。ついでにあくびを一つ。

 寝ぼけまなこを擦りながら起き上がる。

 カーテンを開けると眩しい日差しが差し込んでくる。


「おはよー」


 おはようって言うと目が覚めるから一人でも言うようにしてる。

 誰かに見られても、挨拶だと思われるだけだから気にすることもない。


 かわいいなー。

 六歳の誕生日にもらった鏡に映る自分を見て思った。

 くりくりとしたあおの瞳に、さらさらの金髪。

 見事な金髪碧眼美幼女だ。


「かわいい。これが私……?」

 

 二年半経ってもまだ日本の女子高生の感覚が抜けない。

 前世では容姿には恵まれていなかった。告白されたことも無かった。

 友達がいうには、『いつも暗い顔してるから告白されないだけで笑えばモテるよ』とのことだが、笑っただけでモテるなら教室でバカ笑いしてる男子に彼女がいないのはおかしい。


 なぜか『そういうことじゃないよ……』と呆れる友達の顔が頭に浮かんだ。

 あの子はモテるからわからないんだ……まあモテたい訳ではなかったけど。


 部屋を出て、ダイニングへ向かう。

 まだ七時くらいだけど私以外はみんな揃っていた。

 早起きだねー。

 

「おはよー」

「「「「おはよう」」」」

「おはよっ!!」

 

 ミナは朝から元気いっぱいだ。

 元気な姉を見てほっこりしてると、みんながこっちを見てくる。

 どした?


「な、なに?」

「いや、ルシアちゃんはまた忘れてるんだろうなー、って」

「どゆこと?」


 私が聞き返すとみんなが顔を見合わせてニンマリ笑う。

 むぅ。私だけ除け者な気がして面白く無い。

 

「じゃあ、言うか」

「「「「「ルシア、誕生日おめでとう!!!」」」」」


 ああー!


 そういえば去年も似たことがあった。

 この世界はいつも春みたいにポカポカしてるから、今が何月だか忘れてしまうのだ。

 単純にずっと書庫で本を読んでるからかも知れないけど。


「えっと、すっかり忘れてたけど、みんなありがとう」

「誕生日プレゼントは後で渡すからとりあえず食べよう」

「あ、待っててくれたんだね」


 いつもは私が起きる頃にはみんな半分くらい食べ終わってるのに、今日は誰も手を付けて無いから変だと思った。

 テーブルに並んでいるのは、フレンチトーストとスクランブルエッグ。

 私は朝からお米が食べたいけど、普通は出ても一日一回のところを、私のわがままで毎日二食は米料理にしてもらっているので文句は言えない。


 まあ、これもおいしいけど。 

 我が家の料理人は腕がいいので、何が出てきてもおいしいのだ。


「それにしても、ルシアがちゃんと大きくなってて本当によかった」

「ルシア寝込んでた時のブラッドは世界の終わりみたいに元気がなかったものね」


 私の誕生日はいつもあの時の話になる。

 ちゃんと大きくなっててよかった、ってのは誰に対しても言ってるけど。


「ついにルシアも八歳。社交界デビューか」

「早いわねー。これでうちの子は皆社交界デビューね」

「ルシアにも良い友達ができるといいな」

「できるわよ。ルシアちゃんはこんなに可愛いんだから」


 友達ねえ。でも、貴族ってマナーとか厳しそう。

 きっと私が変なことしたら、『マナーがなっておりませんわよ! おーほっほ!』って、言ってくるんだよ。こんな五歳児は嫌だ。


「ちゃんと話せるかが心配なんだけど」

「大丈夫! ルシアならできるよ!!!」


 不安になる私を励ましてくれるミナ。

 まあ、社交界と言ってもこの年齢だと結婚相手を探すって訳じゃ無くて、これから同じ国の貴族として関わるであろう人に会っておくというのが目的だ。


 なので、ケイシーは初参加の時に一人の女の子とずっと話して友達になり、今でもその子に会うために社交界に出てるようなものらしい。

 

 だから私が不安がっていると「気軽に行って友達作って帰ってくるだけよ」と言って笑っている。コミュ障の私がそんな簡単に友達作れないって。

 

「次の夏のパーティーは二週間後だからな」


 と言い残してお父さんはダイニングから出ていく。

 行きたくないなー。

 


 ********

 

「ルシアー! ちょっとこっち来てー!!」


 書庫で本の世界に入り浸っていたら、お母さんに呼び出される。


「はーい!!」


 返事をしながら栞を挟んで声の方へ向かう。

 二階の書庫から一階に降りてお母さんが呼んでる声に向かって歩く。


 お母さんは私の部屋の前にいた。他のみんなも揃ってる。

 それで私はわかった。誕生日プレゼントだ。 

  

「ルシア。見てみろ」

「ルシアなら絶対喜ぶぞ」


 お父さんと兄さんに言われて部屋を覗いてみる。

 

「わあぁー!」


 いつもと変わらない自室に一つだけある見慣れないもの。

 それは私がずっと欲しがっていた物、そう、本棚。

 部屋にある本棚は絵本で埋まっていて、私はいつも書庫と自室を往復していた。


 絵本を捨てるか、売るか、少なくとも退けることはできた。

 それをしなかったのは私にとってあれがルシアちゃんの遺品に等しい物だったから。

 そんな理由で私は短い足で頑張って階段を上り降りしていたのだが、これからは読む予定の本をここに置いておける。


「ありがとう。みんな」

「うんうん、ルシアちゃんが喜んでくれると、みんなで考えた甲斐があったよ」

「すぐ決まったけどね」

「分かりやすくて楽だったけどな」


 あー、わかる。プレゼント選ぶの難しいよね。

 気に入られるかなー、とかもう実は持ってるんじゃ? みたいに考えちゃって不安になるよね。

 何が欲しいか分かりやすいのは確かに楽かもしれない。


「ルシアはいつも何読んでるの?」

「色々。旅の日記みたいなのとか、伝記とか、とにかく家にあるのは大体読んだ」

「すごいね。なんで読んでるの?」

「なんでかな〜。面白いからでもあるし、いつか役に立つかも……みたいな」


 ミナは好奇心旺盛だから本読むの好きになると思うんだけど。

 本人は体動かす方が好きらしいから、将来はスポーツ選手にでもなるんだろうか。

 ちなみにこの世界にも野球やサッカーみたいなスポーツがある。

 

「ルシアは夢とかあるのか?」

「たしかにルシアちゃんがこれやりたい! って言ってるの見たことないかも」


 げっ!


「ん、ん〜と、まだ無い……かな」

「そっか〜。やりたいことできたら言ってくれよな」

「あはは……ありがと、兄さん」


 ダンジョンに行きたいなんて言ったら反対されるだろうし。

 どうするか考えとかないとなあ。

 


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