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The end of the sky  作者: みるく
本編ではない諸々
63/66

inferiority complex-3

前回からの続き。

本編後、スウロ視点。



 時差ボケによるものであろうか、スウロは随分と明るくなるまで眠りこけていた。

 時計を見れば十一時。回らない頭で、朝食を食べ逃したな、と思った。

 慣れない枕とベッドで眠ったせいか、首が少々痛む。痛む首の筋をゆっくりと傾けて伸ばしながら、スウロはドアの向こうの騒がしい声を聞いていた。あの声でスウロは目覚めたのだ。

 寝巻のまま部屋を出て居間へ向かう。


「いたたたたっ!痛い!痛いってば!」

「仕方ないだろ」

「なんでもっと優しくできないの!」

「ならなんで僕にやらせるんだ」


 スライド式のドアを開けると、メイリーフとセイファがいた。

 もっと正確に描写すると、セイファはソファの上で胡坐をかいていた。テレビのある方ではなく、横を向いている。その方向にはメイリーフがいて、セイファに背を向けて座っていた。


「髪用の香油を毎晩つけろって言ってるだろ。なんでたったそれだけのことができないんだ。できないんなら、髪を伸ばすな」

「うちは長い髪が好きなの。手入れは確かにあんまりしてないけど、痛んだら毛先切ればいいんだから」

「いいわけないだろ。毛先しか痛まないわけじゃないんだ。現に絡まりまくってるじゃないか」

「だーかーらーっ、梳かすのを優しくしてって言ってんの!」


 なぜかメイリーフの髪を、セイファが梳かしていた。


「・・・・・・・・・何やってんの」

「あ。スウロおはよう」

「おはよ、時差ボケで寝坊?」

「・・・・・・おまえらは何やってんだ」


 セイファとメイリーフはきょとんとスウロを見つめ返した。見てわからないのか、と。


「何って、セイファに髪やってもらってんの」

「ああ、うん。確かにそう見えるけど、そういう質問はしてない」

「はあ?意味わかんない。寝起きで頭死んでんじゃない?ご飯食べてきなよ」


 メイリーフの言葉は容赦ない。


「スウロ、台所に黒豆茶とビスケットがあるよ。昼は外に食べに出ようって言ってるんだけど、それまで何も胃に入れないのはよくないし」

「・・・・・・うん」


 朝から妙に疲れた気分で、スウロは台所に向かった。

 綺麗に片づけられたテーブルの上にはお茶が入ったポットと、ビスケットが盛られた菓子器がある。

 ビスケットを齧りながらお茶をカップに注ぎ、ため息をついた。

 その間にも、居間からは楽しげな声が聞こえてくる。


「ほら、これでいいだろ。そっちのピンとって」

「んー。ねえ、これ途中でほつれたりしない?」

「大丈夫だと思うけど。心配ならスプレーで固めとくか?ごわごわするぞ?」

「あ、やだ。洗うの大変になるじゃん」

「どうせ今日は一緒にいるんだし、ほつれたら直してやるって」

「わかった。――ねえスウロ!見て見て!」


 居間から台所へ、メイリーフが飛び込んでくる。

 いつも背中に流している髪を、あの短時間にどうやったのか複雑に結い上げていた。メイリーフは小柄で童顔なのだが、髪型のおかげで少しばかり大人びて見える。


「おー・・・セイファすげぇ・・・」

「ほんとにねー。ていうかどこで覚えたの?昔はこんなのしてなかったよね?」


 学習室時代、セイファが髪を梳いていた相手はレナ――のちに世間を騒がせる芸術家、レナラストだ。レナは器用だったが、自分の見た目には無頓着だった。それを潔癖なセイファが我慢できず、ほつれた髪を整えていたのだ。

 時折メイリーフがついでに結ってくれとせがんだが、その時のセイファはただ留めるか、三つ編みにする程度の技術しかなかった。


「ああ、モデルの見た目整えるのも自分たちでするからね。スタイリストに色々習ったんだ」

「モデル?ああ、服の方?」


 スウロはすぐに合点がいった。セイファは小遣い稼ぎに、学生たちで構成されるデザイン会社に籍を置いている。その中での売り上げのメインは服なのだと言う。

 スウロは特に世話になっていないが、三学年上の幼馴染レティーシャは、よく作ってもらっていた。また、ユニバースの持つ服の二割はセイファの作品だ。


「セイファ、服なんて作ってたの?」


 メイリーフは知らなかったらしく、目を真ん丸にして驚いている。


「ああ、バイトで。ユニが昨日着けてたエプロンは僕の作品だよ」

「その割にミシンとかないけど」

「会社が持ってる共同アトリエの工業用ミシンを使うんだよ。ほとんどがコンピューター制御だから、僕がやるのはデザインだけ。今はお休みしてるけど、やろうと思えば通信だけでできるよ」

「へー。うちにもなんか作ってよ。ファッション性は二の次でいいから、動きやすくて汚れにくいのがいい」

「そんなものは普通の店で買って」

「なにさ、ケチ!」

「工業服デザイナーにそう言うならともかく、僕は普通のトレンディファッションを扱ってるんだ」

「自分の幅を広げてやろうとか言う向上心はないわけー?相変わらず小さいねー?」

「たかろうってその魂胆、卑しいよね?」


 なにやら喧嘩が始まってしまった。十年以上前から繰り返されたことなのでさすがに慣れているが、スウロは目を覆い、ため息をつく。

 妙な疎外感がある。

 喧嘩をしている最中なのだから、巻き込まれなくて幸い、と思えばいいのに、一抹の寂しさを覚えるのだ。


「・・・適当なところで済ませてくれ」


 スウロは席を立ち、居間へ移動する。黒豆茶は静かに飲みたいし、遅くなってしまったがテレビでニュースをチェックしたいのだ。


「えー、なにさー。スウロはそう思わない?」

「・・・・・・」

「メイリー、スウロにまで絡むな」


 居間のソファに座ったスウロの左右に、メイリーフとセイファが座る。


(あれ?)


 昔は喧嘩している二人を傍で見ているだけだった。

 二人はスウロに見向きもしなかった。


「ね、スウロもなんか作ってもらえばいいじゃん。いつも服、地味だよ」

「勝手に決めるな!・・・と言いたいとこだけど、なんか作ろうか?スウロって、固めのデザインのジャケット似合うと思うんだよね」

「あー似合そう!うちはね、パーカーが欲しい!」

「ちゃっかり何言ってんだ」


 うるさくてテレビの音声が聞こえてこない。

 スウロはちょっとばかり疲れた気分でテレビ画面を見つめる。


(ああ、でも、悪くないな)


 お茶の香りが鼻孔に広がり、幸せな気分になる。





今後また増えるかもしれませんが、ここで一度完結としたいと思います。

本編後までお付き合いいただきありがとうございました。



1/28追記  増えました。次のページもお楽しみいただければ幸いです。

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