エゼルとゼータとパンツの話
本編では出てきていない、マルティのラボチャイルドであるエゼルとゼータのお話。
サブタイのとおり、特に意味のない馬鹿な話です。
自身も暮す学生寮の廊下をゼータは歩いていた。
気分は重い。重いが、目指す部屋についてしまった。
ゼータは覚悟を決めてその部屋のドアをノックした。
「エゼル、いないのか?」
返答がない。訪ねる時間は告げていたはずなのにこの扱いである。ゼータは舌打ちした。
苛立ちまぎれにドアノブを回すと、驚いたことに回ってしまう。――ありえない。オートロック機能が壊れているのだ。
「エゼル!いるのか?」
ドアを開けた先に広がるのは、足の踏み場もない散らかり放題の部屋である。というか、ドアがちゃんと開かない。これだからこの部屋には来たくなかったのだ。
ゼータだって決して綺麗に片づけているわけではないが、使用済みと思しきパンツを内側のドアノブにかけたりはしない。
はたして、部屋の主は汚いベッドの上で眠っていた。
「エゼル!」
「・・・んー?なんでいるの?」
「本を返してもらうと言っただろうが!どこにある」
「ん・・・どこか」
ゼータは頭を抱えた。
この惨状のどこかにあっても、無事であるとは思えない。
部屋の主エゼル・トゥアーは、ゼータが物心つく前から付き合いのある幼馴染だ。
知能指数は決して低くないのだが、度を超えた片付けられない、空気が読めない男である。その場にそぐわない言動を繰り返すことから、「馬鹿」と罵倒されることもしょっちゅうだ。
ゼータの一番古い記憶は、不幸なことにこのエゼルに腹を立てているというものだ。なぜ腹を立てていたのかは覚えていないが。
「借り物を適当に扱うなと何度言わせるんだ!ちゃんとするというから貸してやったんだぞ!そんな約束も守れないのか!」
「なんだよ・・・べつに破ったりしてないぞ。ほんと、おまえ怒りっぽいよな。昔からだけど」
「ほんっとおまえは昔から片付けも出来ないし、他人の物でも平気で適当に扱うよな!あとレポートの提出期限、明日だろう。終わってるのか?」
「え!明日?!終わってない!」
「だと思った。とりあえず僕の本を返せ」
「うー、探すー」
「僕はこれから勉強しに図書館に行くけど、一緒に来るか?」
「うん、行く」
エゼルはベッドから飛び降りて、床に散らばったものをひっくり返し始めた。ゼータにはすべてゴミに見えるし、今にも業者に連絡してすべて捨ててしまいたい。だがこの中にゼータの本があるはずなのだ。ぐっと我慢する。
数分後、エゼルはゼータの本を発掘した。ブックカバーがなくなっていたが、中身は無事だった。もう怒る気力もなかった。
「そういえばエゼル、部屋の鍵壊れてるぞ」
「うん?あれ?いちいち開けるの面倒だから壊した!」
「・・・・・・」
「ニアスに頼んだらすぐに開錠のプログラム組んでくれたよ。管理室にはちゃんと鍵がしまったように表示されてるんだって。さっすがだよな」
ニアスことイーニアス・イーサムは、彼らの幼馴染の一人だ。若くして、人工知能研究の第一人者として名高い天才である。天才と呼ばれるだけあって、常人には理解できないエキセントリックな言動も多い。
そんな天才と、時に馬鹿とも称されるエゼルはなぜか気が合うらしく、昔からよく喋っていた。
「・・・・・・さすがというか、天才の頭脳をそんなことに使わせるな」
「えー、なんで。だってやってくれたんだもん。にしても、なんで三年も気づかなかったんだろ。損した気分」
「あのな、寮がいっくら平和だとはいえ、最低限の防犯はしろ。鍵はかけろ。貴重品を盗まれたりしたらどうするんだ。貴重品じゃなくても、盗られて困るもんがあるだろう」
「うーん・・・あるとは思うけど。まあ、今はいいじゃん。図書館行こう」
知能指数は低くないのだ。
発想が普通の人間とは少々異なっているだけなのだ。その発想は、常人からすると残念ながら「残念」なのだ。
ゼータはため息をつくのも面倒になった。
あまりイライラしても仕方がない。今は図書館に行くときだ。
部屋を出ようとしてドアノブに手を伸ばして、はっとする。
手は、パンツを掴んでいた。
たぶん使用済みの。
「・・・行く前に、このパンツだけは片付けろ」
「なんで?」
首をかしげる幼馴染の顔に、ゼータはパンツを投げつけた。




