43 とある3人による状況考察
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ヨハンはソファの上に膝を立てて座り、天井を仰いだ。
出入り口には体格のいい警備隊員が立っている。さらに外から鍵がかかっているらしく、実質密室に男と二人きりである事実にヨハンはげんなりとしていた。
部屋からは見事に電子機器が排除されている。ヨハンが機械に強いことを警戒しているのだろう。あるとすれば警備隊員が身に着けているものと、部屋を照らし出す照明、それを起動させる人感センサーだが、さすがに触りようがない。そもそも脱出などしようという気もない。覚悟を決めたのは、もう昔の事、――天文学を選んだときだ。
警備隊員は、ヨハンの知らない中年男性だ。正直気まずい。ちなみに「特殊」ではなく「ただの」警備隊員だ。
こうなってしまっては、二度と望遠鏡を覗けないかもしれない。
(管理維持部にでもぶち込まれるのかなぁ)
考えれば考えるほど、息苦しくなっていく。
それでも考えていなければ、別のことを考えてしまう。
つまり、
(セイファ)
――自分の行動が、友人を危険に晒した可能性を。それを避けるために、今までしてきたことを。
知らない警備隊員に見つめられていてはため息をつくのさえ躊躇われる。
何もできないもどかしさに身を焦がしてしばらくたったころ、気まずい静寂の中にノックが響いた。
警備隊員が誰何し、外で見張りをしていた別の警備隊員がなにかを答える。
間もなくドアが開いて入って来たのは、イーニアスとユニだった。
ユニは無邪気にヨハンに駆け寄って来たので、ヨハンも座りなおしてユニを抱き留める。非常に重いが、その温かさや柔らかさに不安が一瞬だけ霧散する。
イーニアスはヨハンが笑いかけると明らかにほっとした様子を見せた。先ほど図太い役者っぷりを見せてくれたが、基本的にこの幼馴染は精神的に強くない。
「よく許可が出たな」
「否と言える人がいると思う?」
「渋られただろ。本当は全力で否と言いたいんだよ」
「わかってる」
しかしイーニアスとユニである。サイバーテロの疑いまでかけられている男との面会を、局長が許しただろうか。
(あの人にまで話通してないよなぁ、当然)
ラウド・ハルゲン基地局長は、おそらく忙殺されている真っ最中だ。そしてイーニアスを御せるのは、この地においてハルゲン局長か、せいぜい直属の上司くらいだろう。
普段ならばたしなめる側に回るヨハンだが、今はイーニアスとユニの存在が非常にありがたいので、知らんふりを決め込んだ。
イーニアスはヨハンの隣に座ると、懐から端末を取り出した。
警備隊員が何か言いたげにしているが、言ってこない。部屋の外の警備隊員とこそこそ話し始めたから、どうするべきか迷っているのだろう。
見ず知らずのヨハン相手には厳しく出来たが、特権持ちのイーニアスには強く出られないのだ。
イーニアスは正面のテーブルに、画面が見えるように端末を置いた。そしてテレビを見るかのように悠然と腰掛ける。彼が何も触らなくても、端末の画面は目まぐるしく変わる。――脳からの操作指令を機械が受け取っているのだ。
一般では脳から機械という一方通行の技術ばかりが使われているが、重度のディジタル依存症のイーニアスは脳に受容機器を埋め込んでいるので、端末からの情報は頭に直接届く。わざわざ画面を見せているのは、受容機器のないヨハンのためだ。
「ヨハンがテロリストに売った技術って、どの程度?」
イーニアスは耳の痛いことを問うてくる。しかし意味のあることだ。
「基本的には、どこを狙えば確実に侵入できるかって部分だな。侵入後は、確実に研究所のセキュリティに確実にひっかかるようダミーを混ぜといたけど」
「うん。そうだよね」
さらに細かいことを聞かれ、ヨハンは順を追って話す。そのたびに、イーニアスの端末画面は話題に関連した場所を映し出す。
一通り話すと、イーニアスは頷いた。
「うん、わかった。相手の手札は大したことない」
ヨハンにとってはそれなりの手札に思える知識も、イーニアスにかかれば並以下の扱いだ。
「ニアス。――あっちの組織で、一度だけ、喋った相手がいるんだ。呑み込みが早かったから、おそらくは専門性の高い教育を受けてる。性格を把握できるほど長く話したわけでもないが、お前と似たタイプだと思った。ラスト・ブルーより前のことを、懐かしげに語っていたから、年齢は俺たちより上だ。ただ、声にそれほど年齢を感じなかったから三十前後、いってても三十代半ばってところだと思う。心当たりはないか?」
「うーん、・・・ない」
業界で有名な人間が、実はテロリストということも充分にあり得たから問うたが、そういえばイーニアスは他人にあまり興味を抱けない人種だった。
ふとイーニアスが首を傾げた。間をあけず、テーブルに置いてあった端末の画面が切り替わって懐かしい顔が映る。
『ニアス!セイファが行方不明・・・ってうわっ、ヨハン!何やってんの!研究所に捕まったの?!』
メイリーフである。大きなアンバーの瞳をさらに大きくし、ぱちぱちと瞬いている。
「久しぶりだな。お察しの通りさ」
『あーあ、ついに捕まったかぁ。ウルダンのお膝元だもんね、仕方ないか』
「いつまでも続くもんとは思ってなかったよ。それより」
『ああ、うん。セイファどうしたの?』
「以前の君と同じ状況みたい。自力で脱出はできないと思うけど」
イーニアスが答えた。
メイリーフはテロ組織に捕まりながらも自力脱出しているのだ。しかしそれほど要領よく動けるのはメイリーフくらいなので、セイファにまで同じことは期待できない。
『うっわダサっ!もー、本気ぃ?意味わかんない、気をつけろって言った矢先に何やってんだよ』
ひとしきり文句を言って、さらにメイリーフは母語で文句を言っている。メイリーフにとっての母語はイジェ語の方言だ。多少イジェ語を齧ったくらいでは理解不能の、罵り言葉の見本市である。
『でも、動き早すぎのような気がしないでもないな。イジェとイスヴィラじゃあ、幅きかせてる組織違ったよねぇ?』
「たぶん」
世の中のことに興味のないイーニアスは返答が適当なので、ヨハンが引き継いだ。
「犯人と目されてるのは〈ガラテア〉だよ。西世界では二番手、イスヴィラにおいては一番活発だな。メイリーが捕まったのは、〈創世の蒼〉だったな?」
『うん。この二つって仲良しじゃなかったよねぇ?』
テロ組織同士の横のつながりは薄いとされている。行き来が容易になったとはいえ、中央世界と西世界では距離がありすぎて、統一できないのだ。
「ああ。だから俺たちの存在があちらにばれたのは、別ルートじゃないかって話になってる。――というか、俺に機密流出させた疑いをかけられてるんだ」
『ヨハンがぁ?なあにやらかしたのさぁ?』
ヨハンはざっと今回のことを話す。
話すほどにメイリーフの表情がこわばっていく。
この状況は、あまり予測していなかった。無意識のうちに考えるのを避けていた。友人に見限られる可能性を、この時になってリアルに感じた。それでも話すしかない。
『・・・つまり、セイファとテロリストが、ニアミスしたってことがある?』
「ああ」
セイファが天文台に泊まりに来たときだ。あの時は姿を見られている可能性がある。
「そのあと、天文台が荒らされた。家探しでもしたんだろうが、あそこにあるのは観測データだけだ。となれば、あとはセイファの顔がばれたことで辿り着かれた、って線だが、研究所に関係があることはばれても、マルティバースにまで辿り着いたと考えるのは無理がある。それに、可能性は潰したつもりだった」
『潰した?』
「その辺はつっこむな。本当に潰せたかどうか、今となってはわからないしな」
問いかけるような視線が、左右と正面から投げかけられる。
だがヨハンはそれ以上語るつもりがない。
これまでの行動を振り返り、そしてこれからのことを考えると、自然と重々しい空気が吐き出される。
『あのさ、まだ明らかにはなってないけど、裏切り者がこっちにいるっぽいんだよねぇ』
重々しさを振り払うように、画面の向こうのメイリーフがあっけらかんと言う。イーニアスは不安そうに眉を下げた。
「こっち、って、カダロイ基地に?」
『そ。研究員の裏切り者。つまり、レナラストファン』
それは穏やかではない情報だ。ここウルダン基地の管轄でも裏切が囁かれるが、定かではない。ところがメイリーフの口調では、すでに犯人候補の名前が挙がっているようである。
「じゃあ、もしかしてメイが拉致されたのって・・・」
『ああ、うん。うちが逃げ出して、カダロイを頼るまでが想定されてたのかもね。行方不明連中にまで連絡を取る可能性が出てくるでしょ。そろったところで全員殺せば、どこかのタイミングでシステムは自動的に強制終了、って計画だったのかも?・・・わざと逃がされてたのかな?ああ、なんだろう、無性に腹立ってきた。ぶっ潰してやろ・・・――まあ、とにかく、いろいろと理由を並べまくって、こっちの局長ってば、うちをカダロイに置いときたくないみたい』
「そっか、だから警護付きでこっちに来るわけか」
『そう。ぶっちゃけ本部もシュシンも怪しいからねー。ってなると、ウルダンが無難じゃん』
「こっちも怪しいところがあるけどね」
『でもテトだけでしょ?テトとウルダンが離れてるのが幸いだよね』
メイリーフはまったく危機感を覚えていないようだが、これはつい考え込んでしまうヨハンへの配慮だ。
『とにかく、ヨハンも考え過ぎはやめなよ。研究所内の裏切り者が、あちこちのテロリストに情報をばらまいた可能性があるんだ』
「ああ、そうだな」
実際、その可能性が高いだろう。セイファとメイリーフの事件がまったくの別件と言うのは、時間差からみても難しい仮定だ。それにテロ組織の横のつながりが出来たと疑うより、研究所内部の裏切り者たちがつながっていると考えた方が、無理がない。
『確か、そっちの美術館テロ、ほぼ同時にうちの拉致事件、それから少し間をおいてサイバーテロ、・・・で、セイファが拉致された?――そっちのテロリストたちはヨハンから買った知識でサイバーテロをしたわけだよね。じゃあ、マルティとうちらのことを知ったのはいつだろ?』
言いながら、メイリーフは既に答えを出しているようだった。イーニアスとヨハンも気づいている。
マルティバース・システムの惰弱性は致命的だ。それを狙う前にサイバーテロなどしてわざわざウルダンの警戒レベルを上げるなどという行為は、知っていたならやるはずがない。
また、セイファの存在を知ったとしてもすぐに拉致する必要性はない。ゆっくりと準備を整え、サイバーテロのほとぼりが冷めた頃に実行すればいいのだ。
「セイファは、たまたまテロリストと鉢合わせて、その時に何らかの理由でアクセス権を持つ一人だとばれて、拉致された?」
「計画は綿密に練られていない、か」
イーニアスが呟く。
「それで、次の一手は?」
『殺す、かなぁ』
メイリーフは即答した。
ぞっとする単語に、ヨハンとイーニアスは何も言えなくなる。
『セイファのアクセス権を使ってサイバーテロっていうのは、研究所が警戒レベルを上げてる今、ちょっと現実的じゃないよ。それにセイファの身柄となれば研究所が本気出すでしょ?時間が経てばたつほど見つかる可能性は高くなるよね。テロリストたちはずっと爆弾を抱え続けるような真似嫌うと思う。そんなことするくらいなら、さっさと殺す』
メイリーフの言葉は容赦がない。
『いや、殺すにしても、一応テロリストらしく殺す瞬間をちゃんと記録してネットワーク上にアップするかな?セイファは研究員って年齢じゃないから、世界中にマルティのことがバレるだろうね。芋づる式にうちらの顔と名前も出るだろうし・・・なかなか嫌な展開だね。――相手がこれを狙ってるとすれば、舞台を整えるまでに多少の時間はある。救出が絶望的ってわけじゃない』
セイファをわざわざ拉致するという危険を冒したのだから、ただでは殺さない。それがメイリーフの言い分だ。
ヨハンとイーニアスは険しい表情になっていくが、相変わらずメイリーフはけろりとしている。
『セイファとテロリストが出会ったのは偶然。それでも拉致するってことは、近くに安全なアジトがあって、逃亡ルートにもあてがあったんだよ。出会った時点で殺されなかったのは幸運だと思おう。居場所特定は早い方がいいね。確か、イスヴィラとの協定だとイスヴィラ市以外では特殊警備隊を動かせなかったよね?』
イーニアスは唸った。研究所とイスヴィラの間に結ばれた協定云々を知らなかったために発せられた音だろうとヨハンは見当をつけている。
『悶々と待つしかなさそうだね』
「そうだな・・・・・・、いや」
『どうかした?』
ヨハンはしばし考える。
「・・・メイリーがさっき言った、セイファを脅してマルティにアクセスさせるってやつだけど」
『え?現実的じゃないよ?』
「いや。――低くない可能性だと思ったんだ」
『その理由は?』
「一度喋ったことのあるテロリストの一人に、コンピューターに関する高度な専門教育を受けていると思しきやつがいた。――イスヴィラ市内で、通話をしたんだ。だから直接会ってはいない。でもあいつは、・・・イスヴィラ市かその周辺に暮らしているようだった」
直接的なことは何も聞いていない。だからヨハンの勘違いかもしれない。
それでも懸命に記憶をたどり、何か見落としていないかを探る。
『なるほどね。サイバーテロも意外と近くからなのかも。確かに研究所に対して攻撃できるだけのハードは都市部じゃないと維持が難しいよ。電力消費半端ないから、田舎じゃ目立つだろうし、木を隠すなら森だよね』
ヨハンが思いつかなかった可能性をメイリーフが挙げる。
『どのみち殺すにしても、条件と道具がそろってるなら一度くらい試したくなる。いや、セイファを拉致した以上、どのみちそのアジトがばれるのは時間の問題だ。ハードを一つ失う前にちょっとくらいやっとかないと、損だ思うのが人間だよね。――うん、ヨハンの言うことは一理ある。うちは二兎を追うのは確率が下がるから嫌いだけど、ニアスみたいなのがいればやるだろうね。同類っぽかった?』
「ニアスほど酷くないけど、同類だろうな。組織の中であいつにどの程度の決定権があるかは知らないけど」
『ニアス。今から間もなくセイファがマルティにアクセスする可能性があるとして、それを防ぐ手立ては?』
ラウドの執務室から出る前、彼はイーニアスにセキュリティを固めるよう言ったが、もしかしたらあの一瞬のうちにこれを想定していたのかもしれない。
「難しい」
イーニアスの表情は厳しい。ユニがそっと移動して、イーニアスに寄り添った。
「局長に言われた時は、長期的な話だと思ってたけど、すぐにだとちょっと・・・マルティとセイファは親和性が高いんだ。少なくともマルティはセイファの思考パターンをかなり読める。それがどう転ぶか・・・」
『ああ、そうだねぇ』
「アクセスしているのがセイファだと分かった時点で、セキュリティを緩めかねない。というか、マルティバース・システムは、アクセス権がある者に対して攻撃しないどころか、他のコンピューターを騙して招き入れるよう出来てる」
イーニアスの説明をヨハンはすぐに受け入れられずに固まった。先に理解したメイリーフが大きな目を細め、眉間にしわを寄せる。
『・・・ねえ、最後の部分って初耳。正直そこまでやばいプログラムにしてほしくなかった』
「ニアス、それは惰弱性どころの騒ぎじゃないぞ。お前本気でテロリストになる気か?」
ヨハンとメイリーフは、大潮のごとく引いていた。
自分たちがそれほどまでの爆弾に仕立て上げられていたことに、戦慄さえ覚える。
しかしイーニアスはヨハンたちの言葉を聞き流してしまう。
「正直、当時の私のプログラムが未熟すぎて、マルティがどう反応するか予測がつかないんだ」
「俺は未だにお前の行動の予測がつかないよ」
投げるように言う。メイリーフも画面の向こうで頷いている。
「そのうえに、マルティが今完全じゃないってところが問題なんだ。――マルティをマルティとたらしめるには、その辺のアンドロイド数体分くらいのリソースがいるんだよね。でもそのほぼすべてを、現在はシールド・システムの維持に使ってる。セイファがマルティを揺り起しても、マルティの人格がどの程度再現されるのかは不明なんだ。こんなことになるなら一度試しておけばよかった」
「頭が痛くなるようなことをこれ以上言わないでくれ」
「仮に、マルティが現在普通のアンドロイド程度の判断能力があると仮定してみると、」
『ニアス・・・ヨハンの言うことくらい聞いて』
嘆くヨハンとメイリーフをよそに、イーニアスは考察を続ける。
「一応ね、マルティにとっての優先順位って、私たちみんな平等なんだ。でもどれか一つを選ばなければならない時は、マルティが好きな物を選ぶよう設定している。好きなものって言うのは、自分と類似が多いもの。人間が似た人に親近感を抱くのと同じだよね。さらにその度合いが一緒なら、さいころを振る。この法則でいくと、マルティがいざという時選び取るのは、セイファってことになるんだよね。つまり、侵入された時点で、こっちが負ける可能性が高いと言わざるを得ない」
うーん、とイーニアスが唸る。
『ねえそれって最低限の判断能力がある場合の仮定だよね。マルティバース・システム切って、マルティを完全に起こすとどうなんの?』
「こら、メイリー。こいつにテロに匹敵する行為を仮定させるな、本気でやりかねないんだから」
幸いにも考え込んでいたイーニアスは、メイリーフの質問を聞いていなかったようで、先の考察を続けた。
「そもそもね、私が仮にセイファのアクセスに気づいたとして、それで止めたとしてだよ。それじゃあセイファの命は保障されないんだよね」
『むしろそこで命運尽きるじゃん。生かされても、世界の方が終わってるし』
メイリーフが疲れたようにため息をつく。ヨハンは頭を抱えた。
ところが天才と呼ばれる男はへらへらと笑っている。
その表情に、ヨハンははっとした。
「私は別に、セイファとマルティが無事ならいいんだ。セイファが死ぬくらいなら、こんな面倒なシステム終わればいいよ。このタイミングで判明してるなら、私が手を出してマルティバース・システムをシールド・システム本体から切り離すことも可能だ。つまりマルティも助けられる」
とんでもないことを言うそれは、ふわふわと定まらない声だ。
同室内にいた見張りの警備員が、イーニアスの様子に明らかにおびえている。
メイリーフまでも頭を抱え、唸る。
『それ、仮にも研究員が言うことじゃない・・・・・・っていうかヨハン!全力で止めて!そいつキレてる!追いつめられてる!』
「わかってる。ていうか、俺がキレたいわ」
『うちもだよ!』
メイリーフが叫ぶ。いつもの余裕ぶりが嘘のように、焦燥がにじんでいた。一線を越えてしまったイーニアスにつられたようだ。
ヨハンもそれに引きずられそうになり、ふと気づく。
(ああ、同じだ。マルティの時と)
彼らが生み出したもの。こどもであり、友であったもの。
唐突に失われ、取り戻そうと頭を寄せて考え、どうすればいいのか声を嗄らして議論した。
この状況は、あの時と似ている。
そして彼らは、その先にある喪失感を知っている。
だから不安に揺れ、暗い思考へと落ちていく。
「問題は、セイファの居場所だな。そこに特殊警備隊を送らないと話にならない。こればっかりは、研究所頼みだな」




