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The end of the sky  作者: みるく
本編
33/66

32

 アルベルト・ニッソ。

 それがイスヴィラ美術館爆破テロの実行犯の名前だ。

 イスヴィラ国立エアノストラ総合芸術大学を一年前に中退。その後の経歴は不明。捜索願は出されていない。

 出身を調べると、イスヴィラ市に隣接するルテ市であった。両親は現在もそこに住んでいる。

 通信端末の類はすべて解約されていたが、両親とはなんらかの方法で連絡をとっていたと思われる。

 セイファが知り合いのふりをしてアルベルト・ニッソの実家に連絡をしてみたが、両親は息子が大学を辞めていたことすら知らず、ひたすら驚いていた。

 いつ連絡を取ったかとたずねれば、「一週間前」だと言う。その時の連絡先を聞いて、セイファは通信を切った。息子さんは死んでいて、しかも先日の爆破テロの実行犯と目されていますと伝えるのは別の人間の役目である。

 セイファは、アルベルトが家族との連絡に使っていたアドレスをサラの端末に送ると、いつものように授業に向かった。

 サラは一人、図書館の個室で調査続行だ。

 大学まで出てくる必要はないが、ここの図書館は集中しやすい環境があるし、なにかあればすぐにセイファと合流できる。どちらから言い出すでもなく、いつの間にか決まっていた。

 アルベルト・ニッソの実家の通信履歴を、研究所の権限で取り寄せた。その記録と、アルベルトが家族との連絡に使っていたアドレスを照合する。


(やけに一方的じゃない?)


 家族からの連絡記録はいくらか残っているが、アルベルト・ニッソからの連絡はひとつもない。

 サラも、家族とはそれほど密に連絡しているとは言い難い。ここ半年で自分から連絡を取ったのは、イスヴィラ転勤を知らせたものくらいだ。近くに住んでいると、連絡の必要も無いのか。もしくは、二十歳前後の青年に、家族は鬱陶しいものなのか。


(いいえ、待って。セイファがさっき通話してたとき、家族に彼から連絡をしたと、そう言ったはず)


 セイファが通話を録音していたので、それを再生する。

 やはりそうだ。「一週間前かしら。あっちからかけてきたのよ。わたし、最近持病が悪化しましてね、それを心配してくれて・・・・・・」

 アルベルトの母の声には、うれしそうな響きがある。サラは居た堪れなくなって、再生を中断した。


(通信を受けとる端末は一緒、送る端末はいつも違う?)


 アルベルトに繋がるはずのアドレスを調べてみる。

 あの事件と同じ日に解約されていた。契約者は、サンドアレク・ルーニー。所属は、イスヴィラ国セラ市の私立学校教師。


(これは・・・・・・たぶん、違法契約ね)


 余分に契約して、誰かにその端末を譲渡する。その譲渡された端末で後ろ暗いことをする。テロでなくとも、犯罪ではよく使われる手口だ。

 このサンドアレク氏のやったことは、もちろんのこと刑罰の対象になるが、これ以上は警察の仕事。サラが欲しい情報は、この人を調べたところで出てこないことは目に見えている。

 再び、アルベルトの家族の通信記録を呼び出した。

 八日から六日前の通信記録をリスト化する。市役所や図書館、大手の企業といった、身元が明らかなアドレスを弾いた。

 個人のアドレスは、一つ一つ身分を確かめる。契約者の名前から、所属を調べ、この家族との関係を明らかにする。

 しかしながら、人と人とのつながりはわからないものだ。

 接点を検索にかければ、カルチャースクールから、職場、行きつけの店、小学校の同窓、居住区が同じ、などなど。検索しきれない接点もあるので、引っかからなかったからと言って怪しいというわけでもない。


(家族に連絡するとき、どうする?私なら、夜。夕食が終わった時間帯。イスヴィラは比較的夕食が遅いはずだから)


 午後七時から十時の記録をリストアップする。


(・・・?)


 一つ気になるアドレスがあった。

 隣国の、ナナイから。九時三十八分から、十時一分まで。発信元の名義は、イアイネ電気工事株式会社。


(外国の電気工事会社と、こんな時間に?向こうは深夜よね。ナナイ人が仕事するとは思えない)


 調べてみると、ナナイの片田舎の、小さな会社だった。時差は二時間。

 このアドレスと、ニッソ家の過去五年間の通信記録を照合するが、あったのはあの一件のみである。

 さらにこのイアイネ電気工事株式会社の顧客リストを取り寄せてみたが、顧客は企業ばかりのようで、個人の名前は見当たらない。そもそも国外との取引がほとんどない。


(・・・他のアドレスを拝借して通信している?出来ないことじゃないけど、それなりの設備と知識がいるわ)


 通信にも研究所は目を光らせている。シールド・システムに対するテロには、サイバー攻撃も含まれているからだ。ウィルス等へのセキュリティを充実させると共に、通信ネットワークの規制も強化している。

 不正アクセスは、美大生にはなかなか難しい芸当だろう。レナラストファンが集まったという小さなテロ組織であれば、他の人員も大きな差は無いと見ていい。


(やっぱり、大きな組織が背後にいるってことか・・・)


 大きなテロ組織は、爆弾や情報だけでなく、こんな技術まで提供していたことになる。見返りは、マークされていない人材だろうとセイファは言う。

 指名手配されたテロリストが実行するよりも、警備の目を誤魔化せる。彼らが仮にテロに失敗して捕まっても、背後の組織は証拠を残さず雲隠れだ。

 ため息をついた。

 気分が悪い話だ。

 仕事が無いのはつらかったが、いざ仕事と向かい合うと、この手の憂鬱とも対峙しなければならない。

 特殊警備隊員の離職率は研究所内トップ。その理由が分かった気がする。

 端末から目を離し、伸びをする。保温タンブラーに入れられた黒豆茶を一口飲む。

 ヨハンの天文台で譲ってもらった黒豆茶用シロップが入っていて、優しい味だ。

 もう一つため息。

 大きなテロ組織が背後にいるという仮説が正しければ、次のテロが起きる可能性が高い。この分析結果が出てさえ、研究所は「二人に任せる」とした。イェ・ナラ研究員によれば「いつものこと」であり、ハルゲン局長の采配は「神業にも等しい綱渡り」なのだそうだ。

 人員不足とは聞いていたが、新人のサラと部外者のセイファだけで調査に当たらせるほどとは、予想外だ。実は所内でベテランが動いているのではないだろうか。――というか、そうであって欲しい。でなければ今までシステムが無事だったのは、ただの奇跡だ。

 端末に向き直り、再びデータを呼び出す。

 サンドアレク氏名義の端末の通信記録は、見事に受信のみ。用心深いことだ。こういった知恵も、大きなテロ組織からもたらされたのだろう。


(受信したなら、位置情報も記録されているはず)


 確認してみると、リアルタイム通信――いわゆる通話以外は、手動受信設定になっていた。通話を受けた場所を調べてみたが、そもそも統計が取れるほどの数がない。地図と照合しても取り立てて怪しい場所も見つからない。市内を隅から隅まで熟知している人間にアドヴァイスを求めるべきだろう。

 今ここの設備を考えると、同じ手法での調査は手詰まりだ。

 アプローチを変えなければ。

 時計を見ると、もう夕方が近かった。

 閉館まではもう少しあるが、切りも良いので今日調べたことを手早くまとめた。

 セイファの端末にデータを送信する。これはセイファがチェックした後に、研究所へと転送される。

 そういえば、とふと思う。

 セイファはシステムに関して教育を受けているらしいが、では、ガーディアンとしてはどうなのだろう。

 彼は何を疑うべきか、何を調べるべきか、ちゃんと知っている。

 ラボ・チャイルドのときに教育を受けていたのなら、もっと基礎的な、システムの根幹部分に関するものになりそうだが、そうではないのか。

 セイファの地雷に触れそうで、聞くのもためらわれる。

 端末を操作して、捜査情報には厳重にロックをかけ、荷物をまとめて、図書館を後にした。

 建物を出たところで、通信が入った。応答すれば、相手はセイファである。送ったものを読み終わったようだ。


『お疲れ様です』

「そちらも、お疲れ様です」

『合流しようかと思っていたのですが、ピアに呼びつけられました。今日はもう終わりにしましょう』

「そうですか・・・。また食料の配達でしたら、お手伝いしますけど」

『いえ、違うみたいです。というか、何の用なのか僕も知りません。来いと言われただけで。ですから、僕一人で行ってきます』

「了解です」

『では、また明日会いましょう。何かあったら連絡を。真夜中でも構いません』

「はい。お疲れ様でした」

『ええ。じゃあ』


 歩きながらふと考える。

 セイファとピアの関係は、なんなのだろうか。

 セイファとレナラストは、おそらく友人。そしてピアはレナラストの父親。――友人の父親というだけでは、普通付き合いなどしないと思われる。

 そういえば、イェ・ナラ研究員とその家族とも付き合いが深いようだった。これもまた、セイファとスーが年の離れた友人関係にあることが元々の縁だろう。

 ラボ・チャイルドであることに、なにか理由があるのだろうか。

 ぐだぐだと考えていたら、背後から誰かが走ってくる気配と、声。


「サラー!」


 立ち止まり、振り返ると、ナターリアが追いついてきた。

 相変わらず奇抜なファッションだ。色使いが独特すぎて、常人には着こなせない。しかし、似合っていた。この色鮮やかなファッションまで含めて「ナターリア」なのだ。


「ナターリア、どうかしましたか?」


 と普通に応えてしまって、はっとした。

 そういえば、セイファには重ねて「ナターリアには近づくな」と言われているのだ。


「用は無いけど、見かけたから。サラ、さっき気づかずに俺の前通り過ぎて行ったんだよ」

「ええっ!」


 きっと、通話の最中だ。思い返せば、図書館の出入り口で、学生の集団とすれ違った気がする。


「お友達と一緒だったのでは?」


 ナターリアの背後を見ると、こちらを見ている学生集団がいる。女性が三人、男性一人。


「んー、まあ、いいんだよ。話は終わってたし」


 適当に切り上げてその場を離れようと思っていたのに、ナターリアはにこりと笑って上手くサラを引き止める。

 セイファが警戒する理由も分からなくはない。ナターリアの行動と真意は読みづらいのだ。


「あのさ・・・・・・、この前の、サラはもう平気?」

「・・・・・・ええ。大丈夫です。ナターリアも、大丈夫ですか?」

「うん。俺は、サラほど酷いもの見てないし」

「そうですか」

「ねえ、これから一緒にごはんに行こうよ」

「はい?」

「安くておいしいとこ!あ、社会人だともうちょっとランク高いところのほうがいいのかな」

「私、今日は、」


 ペースに乗せられる前に断らなければ。そう思ったのだが。


「ね、サラ。お願い。あんなことあった後だしさ、気分転換しよ。愚痴ってほどじゃないけど、喋りたいし。付き合って」

「・・・・・・」


 きっとサラが断り下手なのではない。

 ナターリアがおねだり上手なのだ。


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