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えすえむっ!  作者: 角竜
二人のまま、強くなりたい
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同じものを守るなら、上下はいらない

「水族館」


僕が校外学習の第一希望を書きかけると、Sも同じ場所を挙げた。


(珍しく合ったね)


――魚ぐらい見るだろ。


「同じなら、ここへ二人とも水族館って書けばいいんだって」


朝倉が用紙を指した。学校に提出するのは一枚で、Sの希望を確かめたことと、違う希望があればその内容を添える欄がある。


一つの身体だからバスの席は一席。それでも、行きたい場所を聞かれる側まで一人に減るわけではなかった。


「投票じゃないしね。人数だけじゃ決まらないって」


「バスとか予約もあるもんね」


――二票入れるつもりだったのによ。


(こっそり増やさないで)


僕は水族館と書いたあと、Sにも本当にいいかを聞いた。


――いい。あの、頭の上まで水になってるとこ。


(水中トンネル?)


――あれ、一回歩きてぇ。


僕は大きな水槽の前で座って見ていたかった。同じ場所を選んでも、そこで何をするつもりかまでは知らなかったらしい。


「何か、決まった?」


朝倉に聞かれ、僕は頷いた。


「Sも楽しみにしてる」


彼女は自分の紙へ目を戻した。僕は確認した印を付け、提出まで机の隅へ置く。今すぐ誰かの採点に渡したい返事ではなかった。



その日の支部では、先に現在の調査経路が示された。


学校、駅前、集会所で回収した観測機器から、同じ試験の結果を転送する道が少しずつ分かってきた。複数の中継点が複製を持ち、一つを外せば残る経路へ送り直す。


「通信を中継する場所と、人へ作用する出力部分は別です」


技術班の人が図を分けた。


「撮るだけの機器もある。駐輪場のように設備を動かす物もある。全部が同じ働きをするわけではありません」


「写真の箱を取っただけで、向こうの試験が全部止まるわけじゃない」


「そう。だから、別に残る出力側も探している」


白峰主任はそこで説明を区切り、古い資料を開いた。


「同じ二系統を記録した試験群で、前後の並びがもう少し戻った」


欠けた対象名はそのままだった。まずは、同じ対象を守るという条件が与えられた試験。研究側はMとSの要求を、どちらも防護の方向と分類している。


【TARGET:SAME】


【CONTROL CONFLICT:NOT DETECTED】


複数の運動要求があるのに、衝突は検出されていない。


「何を守る試験だったんですか」


「対象の詳しい情報は欠けている。本人たちが自分から守りたいと言ったかも分からない。今読めたのは、試験で与えた条件と、機械側の観測だ」


僕は頷いた。守るという文字を見ただけで、その人たちの気持ちまで僕たちと同じにしたくなっていた。


それでも、衝突しなかったという行は残った。


次に研究側の評価が出る。主を選べず、優先差が不足。試験は失敗。


Sが少し黙った。


――喧嘩しなかったから、比べられなかったってか。


僕が伝えると、主任は評価の下にある試験指示を開いた。


今度は、二系統へ違う運動要求を与えて反応を区別する。以前読んだ、止まれと進めの組につながる記録だった。


僕は紙の順番を確かめた。


「ぶつかったから、主を決めるしかなかったんじゃない」


三枝先輩がこちらを見る。


「衝突しなかった試験のあとにも、わざわざ争わせる条件を出してる」


「その並びは確認できた」


主任が答えた。


何かの失敗を避けるために、一方を優先した。それだけでは説明できない記録だった。二つが同じ方向を向いていても、どちらが上か分からないなら、研究側は先へ進めなかったらしい。



「同じことをしようとしている間なら、二つの反応があっても大丈夫だった可能性はありますか」


自分の声が、少し速くなった。


主任はすぐ否定しなかった。


「可能性はある。ただ、二つの能力が正常に発動したかは、この記録だけではまだ分からない。出力側の測定を別に読んでいる」


「本人の負担も、でしょうか」


「そう。それも抜けている」


空いている欄を見て、僕は口を閉じた。


二つの力が使えたら、もう少し間に合った場面があったかもしれない。そんなことを、考えずにはいられなかった。でも、誰かが苦しかったかもしれない記録を、自分たちへの期待だけで喜びたくもない。


――顔に出てるぞ。


(ちょっと、試せたらって思った)


――俺も思った。


意外で、僕は返事を忘れた。


――だから今やるなよ。お前のその顔、ろくなことになんねぇ。


(君も同じじゃない)


――だから言ってんだろ。


僕は少し笑い、椅子へ座り直した。


「今日は記録の続きだけにします。僕たちが同じことを思えば使えるって、決まったわけじゃないから」


三枝先輩が頷いた。


「それでいい」


先に言われる前に止まれたことより、Sも期待したと話してくれたことの方が嬉しかった。



現在の網は、共通の対象を探す処理へ移っていた。


別々の危険で反応を引き出そうとして失敗したあと、同じものへ二系統を向かわせる条件を探している。ただし、その下にはまだ、優先差を必要とする項目があった。


【COMMON TARGET:SEARCH】


「同じものを助けても、どっちが先だったか比べるんですね」


「そういう使い方を疑っている。何を対象に選べるのかは、現場で確かめる」


主任は机のもう一方へ戻った。解析の進んだ記録には、観測値を実際の出力へ合わせるための調整要求が含まれていた。どの機器へ渡すのか、その経路を追っているという。


「僕たちがここで話してる間も、探してるんですか」


「こちらも探している」


先輩が答え、現場班から来た写真を示した。一般の設備と共用している中継点の候補が一つ見つかった。止める前に、通常の通信を別経路へ移せるか確認しているところだった。


僕は写真の前に置かれた作業員の手袋を見た。画面の線だけではなく、そこへ実際に手を伸ばしている人がいる。


帰る時、Sへ水族館のことを聞きかけて、やめた。同じ返事か何度も確かめなくても、朝に何と言ったかは覚えている。


(トンネル、通れたらいいね)


――先に行き先決まってからだろ。


(そうだけど)


――……通るなら、一周で終わらせんなよ。


僕は笑った。そういう希望なら、僕も一緒に考えられた。


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