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えすえむっ!  作者: 角竜
昔の『はい』で、今を決めるな
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嫌だと言ったからって、味方とは限らない

「回収できた」


三枝先輩の連絡を読んで、止めていた箸を置いた。翌日の昼休みだった。


正規の設備は別の経路で動かし、不審な中継点だけを分離できたという。回収した機器は、支部へ運ばれているところだった。


(壊れてないって)


――読める。


(よかったね)


――中身見てから言え。


向かいの朝倉が、僕の弁当を指した。


「その卵焼き、ずっと持ち上げたままだったよ」


「気になってた機械が、無事に回収されたって」


「危ない機械なんでしょう?」


「うん」


「じゃあ、無事でよかったより、ちゃんと調べられてよかった、なのかな」


Sが小さく鼻を鳴らす。


――こいつ、たまに面倒くせぇくらい正確だな。


僕は卵焼きを食べた。機械が誰かを助けようとしていた、と決めたくなっていたことは、二人には黙っていた。



支部へ着いても、実物には近づかなかった。


会議室へ届いたのは、隔離区画で撮った写真と、取り出した記録の複製だけ。外への通信も、設備を動かす接続も外した状態で調べているという。


机には三角形の小さな注意札があった。患者名を含む画面は共有しない、と書かれている。今日の記録に名前があるかどうかも、まだ分からないらしい。


「お久しぶりです」


牧野さんが資料を持って入ってきた。Sの正式な登録で、二人へ別々に話を聞いてくれた人だ。


「湊さん。Sさんも、この説明を聞くことでいいですか」


(聞く?)


――そのために来たんだろ。


「はい。聞くそうです」


「途中で変わっても構いません」


Sは黙った。僕が嫌かと聞くと、少し遅れて、嫌じゃねぇよ、と返ってきた。


白峰主任が写真を開いた。箱の中には新しい基板と、色の褪せた部品が重なっていた。配線も、同じ太さではない。


「外側の通信部分は比較的新しい。停止条件を判断していた処理は、別の機器から移した領域に残っていた」


「継ぎ足しですか」


「その形跡がある。由来は、部品の記録も合わせて追う」


画面では、同意の確認を待つ行が、ほかの処理とは違う色で囲まれていた。


「人を守る機械だったんでしょうか」


僕が尋ねると、牧野さんはその一行ではなく、手前の空欄を指した。


「何をもって確認済みにするか、そこが欠けています」


署名か、職員の操作か、別の機器から届く信号か。本人の返事をきちんと確かめる仕組みかどうかは、まだ分からなかった。


「実験に必要な条件が揃わないから止めただけ、ということもある」


主任が言う。


「止まった結果が望ましかったことと、その仕組みが全部望ましいことは、分けておこう」


僕は頷いた。Sは悪態をつかなかった。その代わり、内側から短く訊く。


――じゃあ、その空欄へ何が入るはずだった。


僕が声にすると、技術班の人が奥の記録を開いた。



【EXTERNAL CARE】


施設外の支援につながるらしい文字。その下に、対象側からの確認を必要とする処理があった。


僕は、朝倉家で見た生活の記録を思い出した。食事、登校、夜泣き。研究の成功率ではなく、誰かがその日をどう過ごしたかを書いた紙。


「久世さんたちの……?」


「施設外へ移された先行例がいることは分かっている。でも、この部品が久世君の物だった証拠はない」


主任が答えた。


画面の端に、処理の呼び出し名が現れる。


【CARE-07】


七番。


今度こそ何かがつながったと思った。その気持ちが顔に出たらしく、牧野さんが表示を指で隠さないまま言う。


「同じ数字は、調べる手掛かりにはなります。ただ、名前の代わりにはできません」


「はい」


――知ってるかどうかくらい、聞けねぇのか。


Sの問いを伝えると、三枝先輩が頷いた。


「まず、こういう記録が見つかったと知らせる。話したいことがあるなら聞く。知らないことを思い出させるために呼び出す、ではない」


僕たちが知りたいと思うことと、久世さんたちが話したいことは、必ずしも重ならない。


会議が終わる前に、牧野さんはもう一度、欠けた欄を見た。


「ここを勝手に埋めないところからですね」


誰も答えを書き込まないまま、画面は保存された。



廊下で給水機の紙コップを取ろうとすると、二つ重なって出てきた。


――二人分だな。


(使う口は一つ)


――分かってる。戻すなよ、触ったんだから。


水を入れた方を片手で持ち、余った方をどうしようかと考えていた時、会議室から技術班の人が先輩を呼んだ。


別地域の受信班が、新しい通信を拾ったらしい。回収した機械が外へ接続し直したのではない。相手が、返事のなくなった中継点を探していた。


先輩の端末に、受信時刻の付いた文字が並ぶ。


【DISSENT NODE:MISSING】


続いて、代替の機器を必要とする表示が出た。


「回収したから、気づかれたんですか」


「返事が途切れたことは分かる。どこへ運んだかまで知られた証拠はない」


先輩は確認を終えると、端末を技術班へ返した。


【CANDIDATE SEARCH:START】


候補の検索が始まる。


人なのか、別の機械なのか。探す条件が読めないうちは、そこまで決められない。


Sは、さっきまでとは違う声で言った。


――反対した奴が消えたら、直さなくて済むんだな。


僕は水を飲めなかった。


あの黄色い丸が、また同じ場所へ戻れるような気がしていた。止まった理由を相手へ説明すれば、四つでやり直せるのかもしれない、と。


画面の検索は、すでに空いた席を埋めようとしている。


余った紙コップの縁が、指の中で少し曲がった。僕は力を緩めて、それを捨てる前に、もう一度見た。


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