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えすえむっ!  作者: 角竜
この街は、実験室じゃない
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つながってるからって、誰かが上じゃない

会館の異常が止まっても、すぐには全員を帰せなかった。


道路の確認と保護者への連絡が続いている。僕たちは係の人が安全を確かめた控室へ移り、身体の状態を診てもらった。


「ここまでの被害は、追加された制御部から設備を動かしたものだ」


復旧した連絡端末で、白峰主任が説明する。


「人間関係を調べるという言葉も、今のところは、誰を危険にすれば誰が動くかという話だ。頭の中のつながりを、直接操ったと確認されたわけではない」


僕は少し息を吐いた。だから安全なのではない。ただ、どこに手を届かせれば止められるのかが違う。


主任は、技術班が整理した経路を示した。


「通常の通信は何度も迂回する。でも、起動前の同期確認が通る物理的な経路は限られている。外周の四つを、各班が調べている」


「中心は移るのに?」


「担当は替われても、敷設された線の通り道まで瞬時に替えられるわけじゃない」


学校、駅、病院、商業施設。まだ印には確認中と書かれていた。


僕が地図を見ていると、先輩の別端末が鳴った。


「西側の点検へ。ここは警備員がつく」


「分かりました」


朝倉が、廊下へ向かう先輩を見送った。


その直後、連絡端末から音が消えた。



会館の一部だけが、通信から取り残された。


電話が途切れ、壁の案内板が点滅する。廊下では、警備員が人を集めていた。会館の外と、別の棟の通信は生きているという。


全面的に管理局へ侵入されたわけではない。ここに残っていた機器が、近くの設備と連絡線を妨害しているらしい。


壁の表示が切り替わった。


【COMMAND NODE:SEPARATE】


重い扉が閉まり、先輩の声が向こうへ遮られる。


「三枝先輩!」


僕が声を上げると、警備員が肩へ手を置いた。


「こちらの避難口へ。先輩にも別の出口があります」


誰かが指揮を執らなければ、何もできない。機械はそう考えているらしい。


僕は壁の図を見た。さっき説明された道が残っている。


「西側じゃなく、裏の階段ですよね」


「そう。一緒に確認して」


僕は頷いた。命令する人がいなくなったから自由だ、と騒ぐ場面でもない。すでに教わっていたことを使い、今いる人へ聞けばいい。


表示板に、次の文字が出る。


【NEW COMMAND SEARCHING】


「次のボスを探してる」


朝倉が言った。


――忙しい奴だな。


(そんなの、今決めなくていいのに)


僕たちは案内板ではなく、警備員が開けた扉へ向かった。



途中で、朝倉の前の防煙扉が閉じた。


続いて後ろも閉まり、透明な窓の向こうへ取り残される。


【ANCHOR:SEPARATE】


「朝倉!」


「見えてる。怪我してない!」


声が届いた。僕は扉へ体当たりしかけ、窓へ両手をついて止まった。


朝倉はすでに内側の表示を読んでいる。


「非常解放、ある。引いてから押すって」


「こっちも確認する!」


警備員が金具を見た。倉田は手を伸ばしかけたが、すぐ下ろす。


「能力はもう当てにしないでくれ。押す方ならやる」


「十分です」


警備員の返事に、倉田が一瞬だけ顔を上げた。


向こうで朝倉がレバーを引き、こちらで二人が扉の重さを受ける。僕は開き始めた隙間へ止め具を入れた。


扉が軋み、朝倉が横向きに抜けてくる。


「今度は鞄もある」


震える声でそう言ったので、僕は笑っていいのか迷った。


「うん。よかった」


守られる人という欄へ入れられても、本人には読める文字がある。動かせる手も、他の人へ呼びかける声もある。


機械の表示は、そのことを少し遅れて記録した。


【ANCHOR:REJOINED】


僕たちは更新を待たずに歩き出した。



裏の連絡通路で、台車に載った金属棚が動いた。


後付けされた駆動器が、棚ごと進路へ押し出してくる。警備員が先頭の人を下がらせた。僕も避けたが、壁に当たって跳ね返った棚の角が肩を打った。


「っ……!」


痛みとともにMPが溜まる。背中を丸めた僕へ、倉田が手を貸した。


「動くか」


「うん。肩、打っただけ」


――だけで済ませんな。


(あとで診てもらう。今は動ける)


棚の向こう、管理室の扉が半開きになっていた。中には黒い箱と、天井へ伸びた何本もの配線が見える。


【DUAL:CORE】


まだ僕たちを中心に置きたいらしい。


箱の横で射出口が動く。僕は全員を壁際へ寄せ、先輩へ連絡が戻らないか確かめた。


――湊。俺が前を見る。


(代わる?)


――お前、肩庇うたび目ぇ閉じてる。次の球が見えねぇ。


言い返せなかった。


Sなら痛くなくなるわけではない。それでも、動くものを見て射線を読むのはSの方がうまい。


警備員へ事情を伝え、安全な陰で身体を渡す。Sは肩を大きく回そうとせず、片手で壁を確かめて立った。


「SPはねぇ。湊のMPも使えねぇ。走らせるなら普通の速さだぞ」


倉田が頷く。


「俺も、力仕事は人並み」


「十分だ」


Sは管理室の足元を見た。黒い箱から伸びた給電線が、廊下の保守用電源へ引き込まれている。


警備員が近くの遮断盤を確認する。


「ここなら、保守用の系統だけを切れます。避難灯は別です」


ただ、その前を押し出された棚が塞いでいた。


「倉田、車輪が引っかかってる。左だけ浮かせろ」


「一人じゃ無理だ!」


「一人でやれって言ってねぇ!」


Sと警備員が反対側へ手をかける。僕は内側から、床の段差を伝えた。箱の射出口が動くたび、Sが声を出し、全員で壁へ寄る。


二度目の隙に、棚がずれた。


「入れる!」


一番近くにいた朝倉が、警備員の確認したレバーへ手を伸ばした。


下がる。


室内の機器が唸り、射出口が止まった。表示だけは内部電源で残っている。Sは近づかず、職員が通路を抜けるのを待った。


能力で一気に解決したわけではない。全員が息を切らし、掌を汚し、数十センチの道を開けた。


その道を通って、向こうから三枝先輩が来た。


「怪我は」


「ある。肩。先に、全員出そうぜ」


先輩が頷いた。僕たちはようやく、装置のある廊下から離れられた。



回収班が機器を外してから、受信記録の確認が始まった。


【NETWORK MODEL:UNRESOLVED】


誰か一人を分ければ、全員が動けなくなる。目の前で試されたその方法は、少なくとも今回、うまくいかなかった。


けれど、続く記録は別の結果を示した。


外で動いていた測定点の報告が、妨害中も溜まっていた。再び取り出せるようになると、集計は一気に進んだ。


七十二。八十六。九十四。


【MAPPING COMPLETE/100%】


Sが画面へ身を寄せる。


「止めたんじゃねぇのか」


『止めたのは、ここで人を動かす試験だ。区域全体の測定は、別の機器でも続いていた』


白峰主任の声が返った。


『ただ、今回の箱には起動条件の記録が残っている。四つの同期経路も確認できた』


Sは拳を握り、開いた。怒っても、今は壊す物を探さない。


画面へ、新しい項目が出る。


【DISTRIBUTED AWAKENING SIGNAL:STANDBY】


広く行き渡らせるための、覚醒信号。


予告された起動時刻までは、まだ数時間ある。


三枝先輩が端末を取った。


「四地点の班へ。ここからは、測らせる前に止める」


Sは黙って肩を押さえた。僕も内側から、その痛みを確かめる。


まだ動けるかどうかだけでは決めない。どうすれば戻ってこられるかも、今度の作戦には入れなければならなかった。


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