↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
えすえむっ!  作者: 角竜
この街は、実験室じゃない
PR
55/97

調べに来たなら、勝手に試すな

担任が窓際の生徒を離れさせる間、僕は入口で待った。


体育館へ走れば何が起きたか分かる。そう思うたび、電話越しの三枝先輩の声を思い出す。


相手が僕たちを探しているなら、近づくこと自体が返事になるかもしれない。


――待つぞ。


(うん)


Sも急かさなかった。僕は廊下の壁へ片手をつけ、前へ出ようとする身体を止めた。


朝倉が鞄を抱えたまま僕を見る。


「こっちへ来る?」


「分からない。先輩が来るまで待つ」


「分かった」


彼女はそれ以上、入口へ近づかなかった。


少しして先輩が職員と現れた。槍を持っているが、能力は使っていない。


「教室は先生と警備が守る。二人は私と別の経路へ」


「装置のところへ?」


「逆。距離を取る」


先輩は僕の顔を確かめた。


「交代は?」


「まだ僕です。Sも、今はこのままでいいって」


本人の返事を確かめてから伝えた。廊下を進む間、先輩は僕を一人で先行させなかった。



破裂音の正体は、設備庫の扉が内側から押し開かれた音だった。


避難経路の途中で受け取った映像には、曲がった金属扉と、棚の陰にある黒い箱が映っていた。基板よりずっと大きい。運動用具の中に紛れていたという。


『校内へいつ持ち込まれたかは調べている。見つかった時刻が設置時刻とは限らない』


白峰主任の通信が入る。


箱の正面には、短い表示があった。


【FIELD CONTACT】


「あれが、接触……」


『今は返事をしない。現地の班に停止させる』


先輩は頷き、僕を壁の内側へ寄せた。技術班は別方向から防護板を運び込んでいる。


映像の文字が切り替わった。


【REQUEST:SWITCH】


Sが即答する。


――断る。


(僕も、そう思う)


「二人とも、応じません」


先輩は一度頷いただけだった。その返事を引っくり返すための説得は、誰からも来ない。


画面に、別の文が出た。


【ALTERNATIVE TEST】


次の瞬間、箱の側面が開いた。


「射出口!」


現場の職員の声に、先輩が僕を壁の陰へ押した。


小さな金属球が床を転がり、乾いた音とともに跳ねる。直接当たったわけではない。それでも床を伝わった衝撃が足から上がり、僕は膝をついた。


「っ……!」


痛みと一緒に、少量のMPが身体の奥へ溜まる。


先輩が肩を押さえ、僕の顔を覗き込んだ。


「歩ける?」


「はい。少し、MPが」


映像の中で、判定が出た。


【M RESPONSE:CONFIRMED】


僕の膝の痛みが、相手の正解欄へ変わった。


「……今、僕を試した」


「攻撃したの」


三枝先輩の声は低かった。


「観察と呼んでも、やったことは同じ」


現場へ停止指示が飛ぶ。別の職員が二枚目の防護板を運び、射出口と避難路の間へ立てた。


二発目は、その板に当たった。


大きな音に、僕の身体が勝手に跳ねる。Sを呼びかけて、言葉を止めた。


――大丈夫だ。今のは板だ。


(うん)


――誰かが受けてくれてんじゃねぇ。道具が止めてる。


映像には、まだ同じ文字が残っている。


【S RESPONSE:WAITING】


Sを出させたい。攻撃して、驚かせて、怖がらせれば、次の反応が得られると思っている。


――待ってろ。


Sが言った。


(いつまで?)


――永遠に。


僕は、痛む膝を庇って立った。先輩の腕を借り、装置から離れる。誰かに拒否を分かってもらうために、そこへ居残る必要はない。



箱を止めたのは、技術班だった。


射出口を塞ぎ、電源系統を外し、通信を遮る容器へ収めた。先輩はその間、僕たちと避難する生徒の経路を守っていた。


僕は保健室で膝を診てもらった。大きな怪我ではないと聞いて、ようやく肩の力が抜ける。


「力が増えたからって、痛くないことにはしないでね」


先生に言われ、僕は頷いた。


――聞いたか。


(君も何度も言ってる)


――何度でも言う。


保護者への引き渡しを待っていた朝倉が、入口から顔を覗かせた。


「入っていい?」


「うん」


彼女は僕の膝と、横に置かれた湿布の袋を見た。


「また試されたの?」


「交代してほしかったみたい」


「頼み方、最悪」


――ほんとな。


Sの返事を伝えると、朝倉は少しだけ笑った。それから、ベッドの端へ置いた僕の鞄を椅子へ移す。


「代わらなかったんだね」


「二人とも、嫌だったから」


朝倉は頷いた。


「でも、次に代わりたくなっても、今日の返事と違うって怒られなくていいと思うよ」


僕は顔を上げた。


「相手が決めることじゃないし」


さっきは代わりたくなかった。次もそうしなければ、負けになるのだろうか。


考え始めていたことを、先に言われた気がした。


――……覚えとく。


Sが小さく答えた。


その時、先輩から連絡が入った。回収した箱に残っていた結果の一部が、確認用の画面へ表示される。


【DUAL RESPONSE TEST:M ONLY】


【RESULT:INCOMPLETE/RETEST REQUIRED】


再試験が必要。


僕の膝には、まだ痛みがある。学校は授業を打ち切り、先生たちは帰宅の手配に走っている。その全部が、相手にとっては答えの足りなかった試験らしい。


Sが、低く言った。


――ふざけんな。


窓の外で、保護者を呼ぶ校内放送が流れた。


僕はもう画面を見ず、朝倉が渡してくれた鞄を受け取った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。