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えすえむっ!  作者: 角竜
この街は、実験室じゃない
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返事をしなかったのに、返事が来た

「今の、聞こえたんですか」


僕の問いに、技術班の人がすぐ首を振った。


「音声は送っていません。通信も停止したままです」


点滅した画面には、保存された受信文の続きが表示されていた。


【PRIMARY:NOT FOUND】


【CONTROL STRUCTURE:INVALID】


「僕の返事じゃなくて……」


「相手が先に送っていた結果だね」


白峰主任の説明に、胸を押さえた。声を聞かれたわけではない。ただ、その偶然を気味悪く感じたことまで、消せるわけでもなかった。


「どの記録からそう判定したかは、まだ分からない。以前の観測を引き継いだ処理かもしれない」


相手は、僕たちが今日ここで話したことを全部知っているわけではない。それでも、前から持っている何かに、僕たちを当てはめようとしている。


――規定に合わねぇなら、規定の方を直せよ。


(それ、送っちゃ駄目かな)


――駄目に決まってんだろ。


(君が言ったんだけど)


僕の顔を見ていた三枝先輩が言った。


「返事はしない」


「まだ何も頼んでません」


「頼みそうだった」


紗月さんまで頷くので、僕は黙るしかなかった。


停止前に届いた一まとまりの文には、さらに続きがあった。


【OBSERVATION TARGET:DUAL】


【NEXT CONTACT:FIELD】


画面を見た三枝先輩が、すぐ別の連絡端末を取った。


「学校と自宅周辺の警戒を上げて。接触予告の可能性がある」


「外で会おう、ってことですか」


「その意味で備える。場所も時刻も、向こうは書いていないけれど」


Sの気配が低く沈んだ。


――誘いに答えてねぇのに、押しかけてくんのか。


拒否しても、拒否を次の試験条件にされる。


名前を自分で決めた時には、空欄を残してもらえた。目の前の画面には、その空欄がない。



翌朝、清陵高校では使える区域がさらに減っていた。


昇降口に警備の人が立ち、設備の点検が終わっていない通路は閉鎖されている。僕たちの登下校にも付き添いがつくことになった。


朝倉は貼り紙を見てから、僕へ顔を向けた。


「今日は、図書室に行けないね」


「ごめん」


「真白君が鍵かけたわけじゃないでしょう」


――ほらな。


(君も言おうとしてた?)


――言わせんな。


朝倉は鞄からプリントを出した。


「課題は教室でもできるし。昨日の続きを見せて」


「昨日は、途中から管理局で……」


「終わってない?」


「はい」


――三問目も空欄だ。


(ばらさないで)


僕は椅子へ座った。怖い時に課題をやるなんて、と思っていたけれど、三問目で詰まっている間だけは、壁の中の装置を考えずに済んだ。


朝倉が窓を見ず、僕の紙を覗く。


「何か、返事が来たの?」


「知らない相手から。二人のどっちが主かって」


詳しい記録は伝えられない。それでも、その問いが嫌だったことは話せた。


「変なの」


朝倉はあっさり言った。


「今しゃべってるのが真白君だからって、Sが下になるわけじゃないのに」


――気が合うな。


(伝える?)


――別に。


もう顔に出ていたらしい。朝倉は小さく笑い、課題の空欄へ指を戻した。


「まずこっちに返事して」


相手によっては、答えたいのに答えが分からない質問もある。



昼休み、購買から戻ると、教室の前に別のクラスの男子がいた。


「駅にいたの、お前?」


差し出されたスマホには、事務室を出る僕と三枝先輩の動画が映っている。遠くから撮られたもので、顔は鮮明ではない。それでも、同じ学校なら分かる程度には写っていた。


「駅、また止まるのかよ。昨日、うちの妹が迎え待ってたんだけど」


倉田が席から顔を上げた。


「真白が止めたんじゃねぇだろ」


「それは分かってる。でも、何してんのか説明しないじゃん」


僕は男子の顔を見た。怒っている。その中に、心配も混じっているように見えた。


「設備に不審な物が見つかりました。今、確認しています」


「その確認って、いつ終わるんだよ」


答えられなかった。


全部終わったと言えたら、僕も安心できる。でも、言いたいからという理由で言ってはいけない。


「分かりません。だけど、駅を使う人へ何を伝えればいいかは、僕からも聞きます」


男子はしばらく僕を睨んでいた。それから、動画を閉じる。


「……妹、怖がってんだよ」


「うん」


僕が言えたのは、それだけだった。


その時、校内放送が鳴った。


『現在、体育館側の設備で異常信号を確認しています。生徒は教室で待機し、窓際から離れてください』


教室の空気が変わる。僕の手の中で、管理局から貸与された連絡端末が震えた。


【新規信号源/体育館側】


三枝先輩へ連絡する。まだ何もしていないのに、走り出したいほど足が落ち着かなかった。


『単独で接触しないで。今そちらへ向かってる』


「はい」


返事をして、教室の入口で止まる。


端末に追加の受信記録が届いた。


【TARGET FOUND:DUAL】


三枝先輩の声が、電話の向こうで低くなった。


『そこにいて』


直後、体育館の方から大きな破裂音が響いた。


僕は端末を握り直した。教室には、妹を心配していた男子も、倉田も、朝倉もいる。


今度こそ、僕だけが飛び出せば済む話ではなかった。


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