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えすえむっ!  作者: 角竜
この街は、実験室じゃない
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見つけたからって、止めたことにはならない

翌日、学校は点検の済んだ別棟だけを使うことになった。


移動先の教室では、窓の位置も黒板との距離も違う。椅子へ座るたび、ほんの少しよその学校に来たような気がした。


――前見ろ。


(見てるよ)


――教科書、逆さだぞ。


慌てて確かめる。逆さではなかった。


(嘘じゃん!)


――やっと戻ってきたな。


その手口には、できれば慣れたくない。


昼休み、朝倉がパンを持って隣へ来た。


「ずっと壁見てる」


「何か入ってないかなって」


「見えるの?」


「見えない」


「じゃあ、とりあえず食べよう」


それも正しい。僕は包装を開けた。昨日は一個も知らなかったのに、一個見つけただけで、校舎の全部が怪しく見える。


「でもさ」


朝倉が続ける。


「見つけた人が、置いた人みたいに言われるのは変だよね」


窓の外で、調査員が脚立を運んでいた。


朝倉も、朝から廊下で交わされていた噂を聞いたのだろう。管理局が来てから学校がおかしい。能力者がいるから設備を調べられる。


原因と、後からやってきた人の区別は、見ているだけだと思ったより難しい。


◇


放課後、僕は三枝先輩と最寄り駅の事務室へ入った。


学校で届いた通知の確認に協力し、そのまま帰る予定だった。僕たちの端末はケースへ収められ、代わりに技術班の受信機が机へ置かれている。


「僕が持って歩くんじゃないんですね」


「その必要があるかを、先に調べた」


先輩は普通のことのように答えた。


「要求を受けるだけなら、この機械でもできる」


――じゃあ帰ろうぜ。


(確認が終わったらね)


検査の質問へ答えている間に、ホームの端から反応が見つかった。非常通報設備の管理箱だという。


駅員が周囲を立入禁止にし、代わりの連絡方法を案内する。僕たちは離れた事務室で、作業員のカメラ映像を見た。


箱の奥には、昨日と似た基板があった。


「また……」


息を吐いた途端、作業員の手が止まる。


『抜かないで』


遠隔で見ている白峰主任が言った。


『正規の設備に挟み込まれている。そのまま外すと、非常通報も一緒に止まる』


駅員の顔が曇った。


「安全設備を使って、何をしてるんですか」


『調べています。まず、そちらの本来の機能を残す』


技術班は別のケーブルを用意した。敵の機器を壊せば終わり、ではない。その向こうで、誰かが助けを呼ぶためのボタンを使っている。


Sも何も言わず、作業を見ていた。


◇


事務室の外へ出た時、少し離れた場所からスマホを向けられた。


中学生くらいの男の子だった。三枝先輩の腕章と、僕の制服を交互に見ている。


「清陵の人?」


「そうですけど」


「昨日、学校で警報が鳴ったって。本当?」


少年の画面には、短い投稿の画像があった。能力者向けの秘密通知。政府がまた何か隠している。事情を知っている人が読めば違うと分かるのに、全くの嘘とも言い切れない文章だった。


「学校からの通知ではなかったので、調べてもらっています」


「じゃあ誰から?」


「そこは、僕も知りません」


少年はスマホを下げなかった。


「能力者なのに?」


足が止まった。


能力者なら、怖くない。能力者なら、仕組みも犯人も知っている。たぶんこの人は、僕を傷つけようとして聞いたわけじゃない。


「僕だって、知らない方が多いです」


「怖くないの?」


「怖いです」


今度は、すぐに答えられた。


「だから、調べてくれる人の話を聞いてます。それと、顔を撮るのはやめてください」


少年の手が少し下がった。


「……ニュースになるようなことかと思って」


「そうかもしれない。でも、僕の顔が必要かは別でしょう」


三枝先輩が隣へ来た。駅の安全について分かっている範囲を説明し、問い合わせ先を駅員へつなぐ。僕が全部説明できなくても、会話は終わりにならなかった。


少年はスマホをしまい、掲示板の方へ歩いていった。


――言えたな。


(うん)


――噛んだけど。


(そこは黙ってて)


◇


作業が終わりかけた時、回収用の画面に番号が出た。


【NODE 014】


続いて、別の番号が並ぶ。


【NODE 015:ONLINE】


【NODE 016:ONLINE】


「これは、台数ですか」


『中継点を区別する番号らしい。ただし、番号一つにつき機械が一台とは限らない』


主任の説明のあと、経路を示す線が画面を横切った。駅の基板から、どこかの装置へ。その先から、さらに別の場所へ。


技術班が一つの接続を外す。


線は消えなかった。別の番号を経由して、つながり直した。


【SYNC ROUTE:REBUILD】


「迂回したのね」


三枝先輩が言う。


見つけたものから止める。その方法が無意味ではなくても、一本ずつ追っている間に、向こうは別の道を作ってしまう。


Sが舌打ちした。


――面倒くせぇ。でも、こいつらは道を知ってんだろ。


(え?)


――迷子なら、つなぎ直せねぇじゃん。


僕は主任を呼んだ。


「装置が知ってる経路、こっちも読めませんか」


『それを記録している。ただ、番号だけでは住所にならない。現場の図面と突き合わせる必要がある』


技術班の人が駅の設備図を広げた。画面の線の一部が、古い配管の通り道と重なっている。


無線だけではない。有線の経路も混ざっているらしい。


壁の中の物を一つずつ探すしかない、と思っていた。今は、探す方向を少しだけ絞れるかもしれない。


僕が身を乗り出した時、画面の端へ別の表示が浮かんだ。


【NODE 001:MASTER】


胸の奥で、Sの気配が固くなる。


さっきまで通り道に見えていた線が、急に誰かの手のように見えた。


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