支配するのは、どっちだ
その夜、僕は夢を見た。
暗い部屋。
僕とSしかいない。
でも、Sの姿は遠い。
――湊。
「何?」
――代われ。
「なんで?」
――お前じゃ守れねぇ。
Sが近づいてくる。
僕の首へ手を伸ばす。
――俺が全部やる。
指に力が入る。
――だから、お前は消えろ。
目が覚めた。
息が荒い。
汗で服が張り付いている。
(S)
――……いる。
(夢見た)
――俺も。
同じ夢。
偶然じゃない。
夢の中のSは、僕を守るために僕を消そうとしていた。
それが一番怖かった。
悪意じゃない。
優しさに近いものが、支配へ変わる。
久世さんが話した失敗と同じだ。
(S)
――何だ。
(もし僕が“もう出たくない”って言ったら?)
長い沈黙。
――理由聞く。
(それでも嫌だって言ったら?)
――じゃあ出なくていい。
(ずっと?)
――それ決めんのもお前だろ。
胸が少し軽くなった。
(君が出たくない時も同じだからね)
――俺はそんな日ねぇ。
(あるかもしれないでしょ)
――ねぇ。
こういうところは頑固だった。
スマホが鳴った。
三枝先輩。
『久世直人が消えた』
◇
解放戦線の一時避難拠点。
監視映像には、深夜三時過ぎの久世さんが映っていた。
S側だ。
止めようとした職員を振り切り、外へ出ている。
去り際、カメラへ向かって口が動く。
読唇解析。
【俺がMを守る】
続いて。
【Mはもう出なくていい】
「違う」
僕は反射的に言った。
――あいつじゃねぇ。
Sも同じだった。
一度、同じ失敗をした人だ。
だからこそ僕たちへ教えた。
全部奪うな、と。
「旧計画の支配試験」
白峰主任が通信越しに言う。
『接続を弱めた後、片方へ主導権固定を誘導する。07が過去に経験した実験と同じなら、古い条件反射を再起動された可能性がある』
追跡先は、旧SM計画の第二実験棟。
三枝先輩は僕を見る。
「真白君は残って」
「行きます」
「あなたも接続が弱ってる」
「だからです」
僕は怖い。
Sも怖い。
でも、久世さんたちは僕たちに失敗を話してくれた。
「僕たちなら、M側に“助けて”って言えます」
――S側には“勝手に決めんな”って言える。
三枝先輩は長く息を吐いた。
「私から離れないで」
「はい」
◇
第二実験棟の奥で、久世さんは待っていた。
S側。
「後輩」
僕の中のSが答える。
――Mはどこだ。
久世さんのSは胸を軽く叩く。
「いるよ。でも出さない」
「どうして」
「こいつは傷つきすぎた」
床を踏む。
「だから俺が全部やる」
攻撃が来る。
僕は避ける。
能力を使わなくても、避けられる攻撃は避ける。
――代われ。
(まだ)
「久世さん!」
「呼ぶな!」
拳が壁を砕く。
能力を使っているのか、純粋な身体強化なのか分からない。
三枝先輩が介入しようとする。
でも僕は手を上げた。
「少しだけ、話させてください」
「三十秒」
短い。
でも十分だ。
――無茶すんなよ。
(しない。危なくなったら代わって)
――最初からそう言え。
久世さんのSが踏み込む。
僕は避ける。
二発目も避ける。
三発目だけ、逃げ道がない。
腕で受ける。
MP。
「呼ぶな!」
「聞こえてますよね!」
身体が一瞬止まる。
僕は続ける。
「助けてって言ってください!」
「黙れ!」
拳。
避けきれない。
腕で受ける。
MP。
でも二発目は受けない。
Momentumを床へ流し、相手の体勢を崩す。
「僕たちは、勝手に我慢するの禁止なんです!」
自分にも言っている。
久世さんのSが怒鳴る。
「こいつは俺が守る!」
その口から。
違う声が漏れた。
「……助けて」
S側の目が大きく開く。
「M?」
「僕も、生きたい」
長い沈黙。
久世さんのSが拳を下ろした。
顔が歪む。
「……最初から言えよ」
――それ、俺も言ったな。
(うん)
次の瞬間、施設全体に警報が響いた。
【DOMINANCE TEST FAILED】
【TARGET CHANGE】
【SM-01】
頭へ激痛。
膝が落ちる。
視界に二つの表示が浮かんだ。
【PRIMARY:M】
【PRIMARY:S】
そして。
【SELECT ONE】
どちらが残るのか。
どちらが、もう一人を支配するのか。
誰かが僕たちに選ばせようとしていた。




