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えすえむっ!  作者: 角竜
僕は僕、俺は俺
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先輩は、失敗した

「どうやったら、ずっと二人でいられるんですか」


僕が最初に聞いたのは、それだった。


久世さんは笑わなかった。


「一回、失敗したよ」


「え?」


河川敷の橋の下。


三枝先輩と朝倉は少し離れた場所で待っている。


久世さんはM側へ戻っていた。


「最初は役割をきっちり分けたんだ。日常は僕。戦闘や危険な場面はS」


合理的に聞こえる。


「学校は?」


「僕。喧嘩はS。管理局みたいな組織の人間と会うのは僕。逃げる時はS」


「細かい」


「最初はそれで上手くいったからね」


向こうのSが途中で口を挟む。


「俺は授業出なくて済むし、こいつは殴られなくて済む。最高だと思った」


――授業出なくていいのは羨ましい。


(そこ?)


久世さんのSが僕の中の声を知るはずもないのに、なぜかこちらを見た。


「今、“授業出なくていいの羨ましい”って思ったろ」


Sが表へ出そうな勢いで反応する。


――何で分かんだよ!


僕は笑った。


同じ種類の面倒くさい人は、考えることも似ているらしい。


僕たちも、昔は似たような分け方をしていた。


「でも、段々」


久世さんが自分の手を見る。


「怖い時も、怒りたい時も、嫌だって言いたい時も、僕はSへ逃げるようになった」


胸が刺された。


「僕から怒りが消えたと思ってた。でも違う」


人格が切り替わる。


向こうのS。


「俺に押し付けてただけだ」


低い声。


「そしたら今度は、俺が勘違いした」


「何を?」


「こいつが出なきゃ傷つかねぇ。俺が全部やればいいって」


僕の中のSが静かになる。


「Mを三か月、表へ出さなかった」


僕は息を呑んだ。


見える。聞こえる。考えられる。


でも身体を一切使えない。


それが三か月。


「守るために?」


「そう思ってた」


久世さんのSは自嘲する。


「朝倉圭吾さんが、毎日俺ら二人に話しかけた」


M側へ戻る。


「僕には“怒っていい”って。Sには――」


またS側。


「“守るってのは、相手の代わりに生きることじゃない”ってな」


その言葉が、胸へ落ちた。


「戻るまで一年近くかかった」


「一年……」


「お前らは早い方だよ」


久世さんのSが僕を見る。


「もう“助けて”って言えてる」


そして、僕の中へ向けるように言った。


「お前。こいつ守りてぇんだろ」


――当たり前だ。


「なら、全部奪うな」


Sが黙る。


向こうのSは少し声を落とした。


「守るって言葉、便利なんだよ。相手のためって言えば、自分が主導権握る理由になる」


僕の胸が痛んだ。


「俺は本気でMのためだと思ってた。だから余計、間違ってるって気づかなかった」


――……。


「お前も気をつけろ。湊を守ることと、湊の代わりに決めることは違う」


久世さんのSは、僕の名前を自然に呼んだ。


僕のSは、しばらく何も言わなかった。


やがて。


――分かってる。


小さい声だった。


久世さんへ戻る。


「真白君も。Sを便利な避難場所にしない」


「……はい」


「頼るのはいい。任せるのもいい。でも、怖いもの全部を相手へ渡して、自分は何も感じないふりをしない」


久世さんは河原の石を一つ拾った。


「例えば、これ飛んできたらどうする?」


「避けます」


「昔のお前なら?」


――受けてMPにしてた。


Sが即答した。


(否定できない)


「じゃあS側は?」


――殴った奴ぶっ飛ばす。


「今は?」


少し間。


――必要なら一発。逃げられるなら逃げる。


「それでいい」


久世さんが石を捨てる。


「能力の相性より先に、二人の癖を知っとけ。Mだから受ける、Sだから殴る。そういう役割に自分から閉じこもると、研究所が付けたラベルと同じになる」


僕は息を呑んだ。


能力者が社会へ公表されてから、外でも同じことが起きている。


Sだから危険。Mだから受け身。


僕たちは、自分の中でまで同じ決めつけをしてはいけない。


第二巻で、僕は少しずつ「任せる」ことを覚えた。


でも、任せることと逃げることは違う。


僕たちは、まだその境目を覚えている途中だ。


「先輩が失敗してくれたから」


僕が言う。


久世さんが変な顔をする。


「言い方」


「ご、ごめんなさい。そうじゃなくて」


――最悪の慰め方だな。


「僕たちは同じ失敗を避けられるかもしれないって意味です!」


久世さんは少し黙って、笑った。


「なら、失敗した甲斐があったかな」


その時。


三枝先輩の端末が鳴った。


画面を見た先輩の表情が変わる。


「SM-07の身柄確保命令」


久世さんのSが表へ出る。


「理由は?」


「旧SM計画の機密情報を保持しているため」


命令者。


【能力研究主任 白峰透】


僕の中で、Sが低く呟いた。


――あいつ。


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