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えすえむっ!  作者: 角竜
僕は僕、俺は俺
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32/98

先輩のSとM

翌日、学校の図書室で当時の地図とノートを照合した。


朝倉圭吾さんの日記には、住所そのものは書かれていない。


でも生活の痕跡はあった。


『駅まで十五分』


『橋の下で練習』


『電車がうるさい』


『帰りに商店街のたい焼き』


朝倉が地図を指で追う。


「これ、今の商店街と同じじゃない?」


三枝先輩が古い住宅地図を重ねる。


「可能性が高い」


――探偵ごっこかよ。


(ちょっと楽しい?)


――別に。


絶対ちょっと楽しい声だった。


放課後、候補地へ向かった。


鉄橋を電車が通るたび、大きな音が河川敷へ響いた。


橋脚の裏に、古い傷が残っている。


【M|S】


その下。


【07】


「ここだ」


僕が触れようとすると、背後から声がした。


「そこ、勝手に触らないでくれる?」


振り向く。


二十代前半くらいの男。


パーカー姿で、手にはコンビニ袋。


どう見ても普通の人だった。


三枝先輩が僕の前へ出る。


「名前を」


男は缶コーヒーを一本取り出す。


「久世直人」


一口飲んで、橋脚を見る。


「昔は07って呼ばれてた」


胸が鳴った。


三枝先輩はすぐには武器を下ろさなかった。


「本人確認を」


「相変わらず管理局は面倒だな」


久世さんは財布から古い免許証を出した。


現在の名前。久世直人。


年齢、二十一歳。


SM-07の最終記録にある年齢とも一致する。


「朝倉圭吾さんを知ってる?」


朝倉が聞く。


久世さんの顔が初めて大きく変わった。


「……圭吾さんの親族?」


「大姪です」


しばらく沈黙。


「そうか」


その一言だけ、すごく優しかった。


僕たちを信用したというより、朝倉圭吾という名前が扉を開けたのだと思う。


Sも黙る。


「あなたがSM-07?」


「その呼び方、嫌いだけどね」


僕たちと同じ自然発生の例ではない。


旧SM計画で、M型の子供へ極端な心理負荷と人工覚醒処置を重ね、防衛人格側にもS型能力を定着させようとした実験。


その生存者。


「聞きたいことが――」


「その前に」


久世さんが僕を見る。


正確には、僕の中を見るように。


「そっちのS、いる?」


――いるけど。


「うちのSが会いたいって」


次の瞬間。


久世さんの目つきが変わった。


姿勢。


呼吸。


雰囲気。


人格交代。


でも、僕たちよりずっと静かで自然だった。


「よぉ」


口調まで変わる。


「後輩」


――誰が後輩だ!


Sが勢いよく前へ出ようとする。


(待って)


――一言だけ!


僕は笑いそうになった。


「出る?」


――出る。


「一回だけだからね」


人格交代。


Sが表へ出た。


「俺の方が強ぇ」


第一声がそれだった。


(S!)


「何だよ。挨拶だろ」


(どこの世界の挨拶!?)


久世さんのSが数秒ぽかんとして、それから腹を抱えて笑った。


「ははっ! 同じだ!」


「何がだ!」


「俺も昔、別のS型相手に最初それ言った」


(S、先輩だよ)


「うるせぇ!」


向こうのSは笑いながら缶コーヒーを置く。


「まあ、能力の強さは置いといて」


「置くな」


「生き方くらいは教えてやるよ、後輩」


Sがまた怒鳴る。


「その前に一個だけ」


向こうのSが僕たちを見る。


「お前ら、自分が特別だと思ってるか?」


僕は答えに迷った。


Sは鼻で笑う。


「こいつは思ってねぇ。俺は思ってる」


(何その答え)


「正解」


久世さんのSが笑った。


「07は作られた。お前らは今のところ、同じ処置を受けた証拠がない。だから“俺らと同じだから、お前らもこうなる”とは思うな」


その言葉に、少し肩の力が抜けた。


「でも」


笑顔が消える。


「二人で一つの身体を使う時、間違えやすいことは同じだ」


それが次の授業らしい。


でも。


その言葉だけは、僕たち二人とも聞き逃さなかった。


僕たちより長く。


一つの身体で。


二人として生きてきた人が、目の前にいる。


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