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えすえむっ!  作者: 角竜
僕は僕、俺は俺
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31/120

開けてはいけない箱

箱を管理局へ運ぶ準備をしていた時、一階で窓が割れた。


三枝先輩が即座に槍を構える。


「朝倉さん、私の後ろ」


「何が――」


家が揺れた。


階段を上がってくる足音。


三人。


顔を隠した男たちだった。


「箱を回収しろ」


目的は僕じゃない。


黒い箱だ。


先頭の男の腕にS型反応。


「Slice」


刃そのものが飛ぶわけではない。


腕を振るたび、空気に細い切断面が走る。


廊下の壁紙が音もなく裂けた。


――見えにくい。真正面行くな。


(分かってる)


第二巻までなら、僕は朝倉の前へ立って全部受けようとしたかもしれない。


今は、まず位置を変える。


僕は朝倉の腕を引いて壁際へ下がった。


空気が横へ裂けた。


三枝先輩の防壁が斬撃を受け止める。


別の男。


M型。


「Magnet」


箱が強く引かれ、床を滑った。


僕は箱へ手を伸ばす。


――前出んな!


Sの声。


斬撃が来る。


避ける。


次は間に合わない。


僕は腕で防いだ。


浅い傷。


痛みと衝撃がMPへ変わる。


――一発だけだぞ!


(分かってる!)


Momentum。


溜まった力を床へ流し、Magnetの男の足元を跳ね上げる。


集中が途切れ、箱への吸引が弱まった。


「S!」


――代われ!


一回目。


人格交代。


Sが表へ出る。


箱ではなく、近くの古い棚を蹴り壊した。


損害。


SP。


「人ん家で暴れてんじゃねぇ!」


(君も壊してる!)


「後で弁償する!」


Speed。


加速。


Sは箱より先へ回り込み、蹴り飛ばされたケースを三枝先輩側へ押し返した。


敵のSliceが追う。


Sは身体を捻って避ける。斬撃が背後の手すりを切断した。


「遅ぇ!」


Sは落ちた金属片を蹴って敵の武器へぶつける。


直接相手を殴らなくても、道具へ損害を与えればSPは入る。


追加されたSPを速度へ変え、二人目の正面から消えた。


――殴らねぇの?


僕が聞く。


「必要ねぇ」


Sは背後へ回り、Magnetの男が箱へ向けていた腕だけを蹴り払った。


必要な一発。


それ以上は追わない。


「三枝!」


「命令しないで」


槍でケースを受ける。


「でも正解」


――ムカつく!


三人目が朝倉へ手を伸ばす。


Sは攻撃しない。


速度を使って間へ入り、朝倉を抱えて射線から外した。


そのままSPを使い切る。


三枝先輩の槍が床を打った。


「Measure」


透明な領域が三人を囲う。


「出力制限」


敵の能力光が消えた。


戦闘終了。


――家、ボロボロだぞ。


(朝倉に怒られるね)


「真白君」


朝倉が真顔だった。


「棚」


「……弁償します」


――俺が壊した。


(身体は僕のでもあるよ)


「二人で弁償して」


聞こえてないはずなのに、なぜか正解を言われた。


「……さっきのがS?」


「うん」


「戦う時、あんな感じなんだ」


「ごめん。怖かった?」


朝倉は少し考える。


「能力は怖い」


僕の胸が縮む。


でも、続きがあった。


「Sが怖いって意味じゃないよ」


――聞こえてる。


(よかったね)


――別に。


「それより」


朝倉が僕の腕を見る。


「真白君、また受けたでしょ」


「一発だけ」


「一発ならいいって話じゃない」


――ほら怒られた。


(君も同じこと言ってたじゃん)


三枝先輩が救急キットを出しながら短く言う。


「二人とも正しい」


「どっちの二人ですか」


「朝倉さんとS」


僕だけ負けた。


◇


拘束した三人は何も話さなかった。


箱の中身は無事。


ノートをもう一度調べると、本文中に散らされた地名が手掛かりになった。


『今日も河原で走る。S側は競争になると機嫌がいい。M側はすぐ休みたがる。』


『橋の下なら交代の練習ができる。電車の音がうるさいのが難点。』


当時の住所。


河川敷。


橋。


鉄道。


重なる場所が一つだけあった。


清陵高校から二駅。


近い。


「行く?」


朝倉が聞く。


「今日は行かない」


三枝先輩が答えた。


「え?」


「襲撃直後。まず安全確保」


――まとも。


(失礼だよ)


翌日。


僕たちは、河川敷へ向かった。


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