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えすえむっ!  作者: 角竜
僕は僕、俺は俺
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30/95

秘密にするのは、誰のため

朝倉圭吾。


美月のおじいさんの兄。


職業は研究者ではなく、児童心理カウンセラーだったらしい。


朝倉はその日のうちに祖父へ電話をした。


僕と三枝先輩は少し離れて待つ。


家族の話まで管理局が直接聞くのは違う、と先輩自身が言ったからだ。


十分ほどして戻ってきた朝倉は、少し複雑そうな顔をしていた。


「圭吾さん、昔“子供を預かる仕事”してたって」


「研究所で?」


「そこまでは知らないみたい。家族にも詳しく話さなかったって」


そして、もう一つ。


「亡くなる前に荷物をいくつかおじいちゃんへ預けたらしい」


――箱だな。


(多分)


僕たちは、ようやく黒い箱へ繋がった。


「会ったことは?」


「ない。私が生まれる前に家族とほとんど連絡取らなくなったって」


三枝先輩へ報告すると、管理局側でも追加記録が見つかった。


【SM-07施設外移送後 保護責任者:朝倉圭吾】


研究員ではない。


保護責任者。


「実験へ参加した人じゃなくて、外へ連れ出した側?」


僕が聞く。


三枝先輩は「可能性が高い」と答えた。


圭吾さんは十二年前に交通事故で死亡している。事故記録に不自然な改ざん痕跡はなかった。


そして、朝倉家には彼の荷物が一部残されていた。


「黒い箱」


朝倉が言う。


「子供の頃、一回見た。開けちゃ駄目って言われてたから覚えてる」


「どんな箱?」


「黒くて、SとMみたいな文字が付いてた」


Sも僕も黙った。



放課後、朝倉家へ向かうことになった。


三枝先輩付きで。


「なんか嫌だな」


朝倉が言う。


「何が?」


「クラスの男子を家に呼んだら、美人な三年生まで付いてきた」


「言い方!」


――修羅場だな。


(君まで乗らないで)


「任務」


三枝先輩は平然としている。


「ですよね」


朝倉が苦笑した。


家は本当に普通だった。


玄関の家族写真。リビングの観葉植物。階段に積まれた通販の箱。


能力者の秘密なんて、どこにもなさそうに見える。


納戸の奥から、朝倉が黒いケースを引っ張り出した。


表面には、確かに二つの文字。


【S】


【M】


三枝先輩が先に検査する。


「能力反応なし。爆発物反応もなし。ただの保管箱」


鍵は、圭吾さんの古い封筒の中から見つかった。


カチッ。


蓋が開く。


中には一冊のノート。


数枚の写真。


そして、古い記録媒体。


写真には四十代くらいの男と、小さな少年が写っていた。


少年の顔は塗り潰されている。


裏に一文字。


【07】


朝倉がノートを開く。


最初のページ。


『四月三日。今日はカレーを二杯食べた。辛口はまだ無理らしい。』


僕たちは顔を見合わせた。


次。


『四月七日。初めて一人で学校へ行けた。帰宅時、三回後ろを確認。追跡への恐怖が残っている。』


さらに。


『四月十二日。夜泣き。研究所の夢を見たとのこと。防衛人格が前面へ出る。十五分後、自発的に交代。』


そして。


『本人たちを症例として扱わない。二人として扱う。』


胸が鳴った。


『M側はS側を危険な存在だと思っている。S側はM側を守ろうとする。どちらも、ただの子供だ。』


――……。


Sが黙っている。


朝倉が小さく言った。


「圭吾さん、この子を助けてたんだね」


「多分」


僕も、そう思いたかった。


ノートの最後の方には、一文だけ強く書かれていた。


『もしSM-01が現れたなら、07を探してほしい。』


その下。


『彼は失敗例ではない。』


さらに小さな字で。


『少なくとも、本人たちの人生を研究結果だけで失敗と呼ぶべきではない。』


さっき第一分室で僕とSが感じたことと同じだった。


朝倉圭吾さんは、研究員ではない。


だからこそ、研究の外側から二人を人間として見ていたのかもしれない。


朝倉が、その文字を指でなぞる。


「この人、ちょっと好きかも」


「会ったことないのに?」


「会ったことないから、今のところ減点がない」


――お前の友達、たまに辛辣だな。


(普通だよ)


――普通怖ぇ。


続きは、ページごと破られていた。


僕たちより先に。


人工的に作られた、不安定な先行例。


それでも「二人」として生きた人がいる。


SM-07。


僕たちは、その人を探すことにした。


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