↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
えすえむっ!  作者: 角竜
その覚醒を、誰が望んだ
PR
24/120

一万人を、殴って止めるのは無理だから

【10,000】


画面に出た数字を、僕はしばらく理解できなかった。百人であれだけ大変だった。それが次は一万人。


「場所は?」


三枝先輩が聞く。白峰主任が首を振る。


「まだ特定できない」


「時間は」


「ログにはない」


「じゃあ何が分かるんですか!」


思わず声が強くなった。主任は怒らなかった。


「一つだけ」


画面を拡大する。


【SM SYNC NETWORK TEST】


「ネットワーク……?」


「今までの装置は、一台ずつ対象へ干渉していた」


今回は、一つの基準信号で複数の装置を同期させる。


「つまり」


早乙女さんが低い声で言う。


「一万人を同時に覚醒させるための試験」


僕の身体が冷たくなる。


――湊。


(分かってる)


――いや。


声が強い。


――今のお前、また一万人助ける方法考えてる。


図星。


「……」


三枝先輩もこっちを見る。


「真白君」


「はい」


「今度は言う前に止める」


「まだ何も」


「顔」


最近、顔に出すぎる。


「一万人を、あなた一人で止める方法は考えない」


「でも」


「でもじゃない」


Sと同じ言い方。少し腹が立つ。でも、正しい。


――な?


(君ちょっと嬉しそうだね)


――仲間増えたからな。


何の仲間だ。白峰主任が端末を操作する。


「だから今回は、対象者を守るんじゃない」


「え?」


「同期元を潰す」


地図の中心に、黒い点が一つ表示される。


「一万人へ信号を送るなら、送信元がある」


僕が言う。


「そう」


早乙女さんが立ち上がる。


「そこを止めれば」


「覚醒そのものを始めさせずに済む」


白峰主任。僕は画面を見る。初めて、戦い方が変わる。これまでは暴走した人を一人ずつ止めてきた。でも一万人を相手に同じやり方はできない。だったら、誰も暴走する前に原因そのものを止めればいい。


「場所」


三枝先輩が聞く。


「どう探す?」


早乙女さんが答えた。


「向こうに聞く」


「は?」


早乙女さんが端末を取り出す。画面にはLiberation Frontの暗号通信回線が開かれていた。


「穏健派の回線」


「使えるんですか」


「私、代表だよ?」


忘れそうになる。この人、かなり偉い。送信。短文。


【一万人試験の場所を知っている者は連絡を。】


一分、二分。反応はない。三分を過ぎたところで、一件だけ返事が届いた。


「来た」


全員が画面を見る。送信者は匿名。


【場所は教えられない。】


「意味ないじゃん」


倉田がぼやく。


「でも」


メッセージは続く。


【止めたい。】


空気が変わる。さらに。


【過激派内部にも反対者はいる。】


僕は早乙女さんを見る。組織は一枚岩じゃない。前に聞いた。でも、過激派の中にもまだ分かれている?次に座標。


一つ送られてくる。


「場所!」


三枝先輩が地図を開く。示されたのは東京湾沿岸、使われていない物流倉庫群だった。さらに、メッセージの最後には――


【急げ。今日十九時。】


現在は十八時十七分。残り四十三分。


「行くよ!」


三枝先輩。全員が動いた。


◇


十八時五十二分。東京湾沿岸の物流倉庫群へ着いた。巨大な倉庫が何棟も並び、海から冷たい風が吹き込んでくる。


「どれですか」


『中央三番棟』


白峰主任が遠隔で答える。


『異常電力消費を確認』


三枝先輩は槍を持つ。早乙女さんは何も持っていない。


「能力は?」


僕が聞く。


「Secret」


「……秘密?」


「そう」


「能力名まで秘密なんですか」


「Secretっていう能力」


ややこしい。


「何ができるんですか」


「秘密」


「絶対楽しんでますよね?」


初めて、S以外に腹が立った。


――俺はこいつ好き。


(気が合いそうだね)


倉庫の入口。管理局が突入。僕もついていく。中は無人。いや、違う。


奥に人。十人くらい。機械が大量に並ぶ。中央には黒い柱。そこから何百本ものケーブル。


「同期装置……」


白峰主任の通信。


『それだ!』


中央のディスプレイ。カウントダウン。


【00:06:41】


六分。


「止めます!」


僕が走ろうとする。その瞬間、床に黒い線。糸。


――止まれ!


Sの警告に足を止める。目の前にStringが大量に張られている。そして奥から歩いてくる。あの男。


何度も戦ったString能力者。


「よう」


「またあなたですか」


「俺も飽きたよ」


三枝先輩が槍を構える。


「退いて」


「嫌だね」


男が笑う。でも前とは違う。笑い方が少し固い。


「本当に」


僕が言う。


「全員を能力者にするつもりなんですか」


「俺は、能力者が隠れなくていい世界を作る」


「質問に答えて。一万人、望んでない人も強制的に変えるんですか」


男の口が止まる。早乙女さんが男を見る。


「答えられない?」


「黙れ」


「あなた、最初はそんな思想じゃなかったでしょう」


「黙れ!」


糸が飛ぶ。三枝先輩が槍で弾く。攻撃が始まり、男のSPが増える。Stringが一気に増える。


「真白君!」


三枝先輩が叫ぶ。


「装置へ!」


「でも」


――任せろ。


(え?)


――お前が行け。


「僕のままで?」


――Momentumは壊すのに向いてる。


その通り。僕は走る。糸が来る。避ける。一本が肩をかする。


痛い。


少しMP。でも止まらない。もう一本。避ける。


――受けなくていい!


(分かってる!)


昔の僕なら、全部受けてMPを貯めようとした。今は違う。必要な分だけ。


「くそ!」


Stringの男が僕へ糸を集中させる。その瞬間、早乙女さんが指を鳴らした。何かが変わる。男の糸が僕を通り過ぎた。


「は?」


位置がずれた?いや、僕が見えていない?


「Secret」


早乙女さんが、事前に貯めていたSPを能力へ回して笑う。


「指定した情報を認識から隠す」


強い。僕の存在を、男の認識から一瞬だけ外した。


「今!」


僕は中央の装置へ到着し、ディスプレイを見る。


【00:02:13】


二分。


「どう壊す!」


『中央コア!』


白峰主任の声が飛ぶ。


『ただし爆発させるな!』


「難しい!」


黒い柱のカバーは分厚い。試しに拳を一発当てる。


痛い。


固い。Momentumはほんの少し。


『真白君』


白峰主任の声が続く。


『外から壊すんじゃない』


「え?」


『入力されたエネルギーを逆流させろ』


画面に構造図が映る。Momentumは、受けた衝撃を蓄えて放つ能力だ。ここで必要なのは外から壊すことではなく、内部へ押し返すこと。


「やったことないです!」


――やるしかねぇ。


(簡単に言うね)


――失敗したら俺が何とかする。


(Speedで?)


――知らん。


頼りになるのか、ならないのか。でも笑った。


「分かった」


装置が低く振動している。内部からエネルギーが出ている。僕は手を当てる。振動を受ける。Momentum。


少しずつ溜まる。


「真白!」


倉田。後ろに大量の糸。


「急げ!」


カウント。


【00:00:48】


四十八。MPはまだ少ない。もっと。装置の振動を受ける。腕が痺れる。


――湊。


(もう少し)


――違う。


Sが言う。


――全部貯めようとすんな。


ハッとする。またやってる。最大まで受ける必要はない。止めるのに必要な分。それだけ。


「……うん」


手を離す。MPは十分。多分。


「主任!」


『やれ!』


拳を構えかけて、やめる。掌で装置へ触れ、Momentumを放出する。外へではなく、内側へ。


「戻れ!」


ドン、と小さな音がした。けれど装置の内部では、何かが逆回転するような振動が走る。画面の数字が揺れた。


【00:00:11】


十。九。エラー。八。七。


【SYNC ERROR】


六。


【OUTPUT FAILURE】


五。四。画面が消える。


静寂。


成功?


次の瞬間、装置の一部が爆発した。


「うわっ!」


僕は吹き飛び、壁へ激突。


痛い。


MPが溜まる。


――痛ぇ!


(ごめん!)


――なんで俺に謝んだよ!


その直後、三枝先輩が駆け寄る。


「真白君!」


「大丈夫!」


言って、止まる。最近学んだ。


「……結構痛いです!」


「後で診る!」


ちゃんと言えた。


◇


装置は停止した。


一万人。


人工覚醒反応、ゼロ。間に合った。僕は床へ座り込む。足が動かない。疲れた。


痛い。


でも、生きてる。Stringの男は三枝先輩に拘束されている。早乙女さんがその前にしゃがむ。


「ねえ」


「……何だよ」


「まだ、これを自由だと思う?」


男は黙る。


「一万人へ、何も聞かずに力を押しつける。これが能力者解放?」


男の顔が歪む。


「俺は、能力者が隠れて生きる世界が嫌だった」


声が初めて弱い。


「家族が死んでも、事故にされた」


五年前。ガス爆発。本当は能力者事件。


「俺たちは、いなかったことにされた」


早乙女さんは何も言わない。


「だから、全員が能力者になれば隠せなくなる」


僕は理解した。この人は、最初から世界を壊したかったんじゃない。自分たちを見つけてほしかった。


「でも」


僕が言う。男がこっちを見る。


「そのために、今度は一万人の気持ちをなかったことにする」


僕はゆっくり立つ。


「それ、あなたが一番嫌だったことと同じじゃないですか」


男は何も言わなかった。


◇


翌朝も、ニュースは能力者と政府と解放戦線の話ばかりだった。人工覚醒も世界も相変わらず騒がしい。それでも僕は、いつもの学校の机に座っている。


「真白君」


朝倉が僕の机へ寄ってくる。


「何?」


「怪我増えてない?」


バレた。


「……転んだ」


「嘘」


「はい」


「そこ認めるの早いね」


「成長しました」


「悪い方向に?」


うるさい。でも、普通の会話。それが少し嬉しい。窓の外はいつもの校庭。ただ、スマホのニュースに一つ気になるもの。


【政府、能力者登録制度の見直しを検討】


早乙女さんの放送。Sparkの男。社会のいろんな声。世界は少しずつ動いている。僕たちだけじゃない。


その時、Sが話しかけてきた。


――なぁ。


(何?)


――昨日、お前、装置止める時、俺に代わろうとしなかったな。


僕は少し考える。


(Momentumが必要だったから)


――そうじゃねぇ。


Sの声が少し笑う。


――自分でやれるって思ったんだろ。


僕は止まる。そうなのかもしれない。前は、怖かったらS。戦うならS。僕は受けるだけ。


そう思っていた。でも昨日は、自分で避けた。考えた。止めた。


「……うん」


小さく声が漏れ、朝倉がこちらを見る。


「何が?」


「なんでもない」


――おい。


(これはいいの)


少し笑った。僕たちはまだ別々。Momentumは僕。SpeedはS。人格交代も、連続ではできない。


でも前より少し分かる。僕ができること、Sができること。そして、どちらかに全部任せなくてもいいこと。


放課後。


管理局から新しい資料が届いた。停止した同期装置。最深部の保存データ。そこには、一万人試験のさらに先の計画。


【PHASE 3】


その下、対象範囲。


【NATIONAL】


対象は全国。そして資料には、もう一つ知らない名前があった。強制覚醒計画の統括責任者を示すコード。


【MASTER】


添付された古い写真。白衣の男。顔の半分が焼けていて、判別しづらい。でも白峰主任が、その写真を見て言葉を失ったらしい。報告書の最後に一文。


【SM計画初代責任者。】


【十八年前の研究所襲撃事件にて死亡確認。】


死んだはずの人間。その人物が今、全人類強制覚醒計画を動かしている。僕は写真を見つめた。そしてなぜか、胸の奥でSが一瞬だけ震えた。


――……こいつ。


(知ってる?)


長い沈黙。


――分かんねぇ。


でも、いつもの強い声じゃない。


――なんか。


Sが言った。


――怖ぇ。


僕は初めて、Sの恐怖を自分のものみたいにはっきり感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。