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えすえむっ!  作者: 角竜
その覚醒を、誰が望んだ
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23/120

百人いれば、百通りある

駅前に着いた時、最初に聞こえたのは悲鳴じゃなかった。怒鳴り声。笑い声。泣き声。全部が一緒だった。


「能力反応、多数!」


三枝先輩が叫ぶ。駅前広場は人で埋め尽くされている。その中に能力者が一人、二人、十人――もっといる。でも、全員が暴れているわけじゃない。


「うわあああっ!」


男の人の両腕から氷が伸びている。M型かS型かも分からない。少し離れたところでは、女の人が地面に光の線を描いていた。


その横では、高校生くらいの男子が笑っていた。


「すげぇ!」


手のひらに火花。


「俺も能力者だ!」


興奮と恐怖と混乱が、同じ広場でごちゃ混ぜになっている。


「百人が同時覚醒したんじゃ」


僕は周囲を見る。


「百人が同時に敵になったわけじゃない」


「そう」


三枝先輩が頷く。


「だから余計に難しい」


一人ずつ状態が違う。怖がっている人、喜んでいる人、制御できている人、暴走している人。逃げたい人も、戦いたい人も、すでに誰かを助けている人までいる。


「真白君」


三枝先輩が僕を見る。


「勝手に敵味方を決めないで」


「はい」


――お前の得意技だな。


(何が?)


――自分以外全部守る対象認定。


(……気をつける)


「まず、暴走してる人だけ止める」


「分かりました」


その時、右手で衝撃音が響き、人が吹き飛んだ。


「っ!」


僕は反射的に広場中央へ走る。大男が周囲の人を拳で弾き飛ばしていた。


「来るな!」


叫ぶ。


「俺に近づくな!」


攻撃的。でも、顔は怖がってる。


「三枝先輩!」


「S型!」


端末が反応する。


「固有能力Strength!」


また拳。人が吹き飛ぶ。校舎裏で最初に襲ってきた能力者を思い出した。最初に僕を襲ったStrength。攻撃すればSPが増え、筋力へ変換される。


つまり今、人を殴るほど強くなる。


「止めないと」


僕が前へ出ようとする。


――俺だ。


(でも)


――あいつS型だ。


S型同士で殴り合えば、互いにSPが増える。泥沼になる。


「じゃあ僕が」


――それも駄目。


(何で)


――お前、殴られてMP貯め始めんだろ。


返す言葉がない。三枝先輩が言う。


「攻撃しないで」


「え?」


「S型に攻撃を続けさせない」


なるほど。


「じゃあ」


僕は周囲を見回し、倒れていた大きな広告看板を押して、大男との間へ壁として立てた。


「何だ!」


男が拳で看板を殴る。金属が凹む。SP?


「物でもいいんじゃ」


『損害判定は対象認識による』


白峰主任の通信。


「つまり?」


『人を傷つけたと本人が認識していないなら、効率は落ちる!』


だったら、人へ届かせない。


「こっちです!」


僕は大男の正面へ出る。


「来るな!」


「行きません!」


「は?」


男が止まる。


「そこから動かないでください!」


「何言って」


「僕も動きません!」


――何だこの作戦。


(時間稼ぎ)


男は困惑し、怒る。でも、殴る対象はいない。僕にも届かない。看板一枚が間にある。


「怖いですよね!」


僕が言う。男が止まる。


「……何」


「急に力が出て」


「黙れ!」


看板を殴る。でも、さっきより弱い。SPが補充できていない。


「自分で止められないんですよね」


男の顔が歪む。


「違う!」


拳。看板。さらに弱い。


「俺は」


「違う!」


「なら」


僕は言った。


「殴らないでください」


男の拳が止まる。


「……」


そのまま力が抜ける。三枝先輩がすぐMeasureを発動。出力制限。


「確保」


一人止まった。戦わずに。


――やるじゃん。


(殴られなかった)


――そこ基準かよ。


でも、嬉しかった。その瞬間、左で爆発。


「次!」


三枝先輩が走る。僕も続く。


◇


次はM型。能力はMonster。女子生徒の身体が少しずつ巨大化している。原因は、周囲の人が怖がって物を投げたこと。それでMPが増えた。


「やめて!」


僕は周囲へ叫ぶ。


「攻撃しないで!」


「でも化け物だぞ!」


誰かが言う。少女の顔は泣いている。


「違う!」


僕は少女を見る。


「攻撃されたから大きくなってる!」


また身体が変わる。周囲が止まる。攻撃がやむ。少女の変化も少し止まる。


「大丈夫」


僕が近づく。


――ゆっくりな。


(うん)


「近づかないで」


少女の声は低く、身体も変わっている。でも、怖がっている。


「触らないから」


一歩。


「そこにいるだけ」


もう一歩。少女が僕を見る。


「私、戻れる?」


僕は答えられない。分からない。嘘はつきたくない。


「分からない」


少女の顔が歪む。


「でも、戻る方法は探せる」


「本当に?」


「僕たちだけじゃなくて」


三枝先輩。後ろの救護班。


「他の人と一緒に」


少女が泣いた。でも、暴れなかった。二人目。


止まった。


◇


それから何人対応したか分からない。次はS型のSpeed。覚醒直後の混乱で道路標識を壊し、その時に得たSPを勢いよく速度へ変えたらしい。本人は大喜びで道路を走り回っている。


「速い!」


「止まって!」


車が危ない。Sへ交代。追う。でも攻撃しない。追いついて横へ並ぶ。


「レース終わり!」


「誰だよお前!」


「止まれ!」


「嫌だ!」


走る。SPが切れる。二人とも普通の速度。


「……」


「……」


徒歩。


「走れよ!」


「もう速くねぇんだよ!」


最後は、二人で息切れしながら捕まえた。M型、Mirror。警察が怖がってゴム弾を撃とうとする。


「撃たないで!」


間に入る。Mirrorは受けた攻撃を反射する。撃ったら戻る。だから武器を下げてもらう。そしてM型/Mine。これが一番怖かった。男の子。MPが大量。多分、逃げる途中で何度も転び、人とぶつかった。爆発できる。


でも本人は知らない。


「何これ」


手が光る。


「怖い」


僕は絶対に触らなかった。


「動かなくていい」


「俺、何なんだよ」


「M型」


「M?」


「説明は後」


「爆発すんの?」


「多分」


「多分!?」


「だから今は!」


少し強く言う。


「何もしないで!」


男の子が固まる。


「……はい」


妙に素直だった。白峰主任が遠隔でMPを安全に抜く方法を指示する。少しずつ地面へ放出。小さい爆発が何度か。最後、ゼロ。


「……終わった?」


「終わった」


男の子はその場に座る。


「怖かった」


「うん」


僕も座りたい。でも、まだ人がいる。


――湊。


(何)


――もう無理。


(まだ)


――違う。


声が強い。


――お前が。


僕は止まる。身体が重い。足が震える。いつの間にか息が浅い。MPも少し溜まっている。


何回か小さい攻撃を受けた。でも使っていない。問題はそこじゃない。疲れてる。


「真白君!」


三枝先輩がこちらへ来る。


「休憩!」


「でも」


「交代も禁止!」


先に言われた。


「Sなら」


「Sも疲れてる!」


え。


――そういうこと。


(君も?)


――身体一個だぞ。


当たり前だった。Sへ代われば、無限に動けるわけじゃない。


「五分」


三枝先輩が指を立てる。


「座って!」


「……はい」


僕は駅前のベンチに座る。初めて、自分から戦場で休んだ。変な感じ。


「五分でいいんですか」


「十分」


「増えた」


「口答えしたから」


理不尽。


――黙って寝ろ。


(寝たら怒られるよ)


それくらい疲れていた。


◇


夕方。確認された能力反応は百三名。暴走二十八名、重傷者十四名、死者ゼロ。


その数字を見た時、僕は本当に息を吐いた。全員、生きていた。いや、違う。僕が全員を助けたんじゃない。管理局、救護班、消防、警察、覚醒した能力者自身、周りにいた一般人。そして、能力者同士で助け合った人もいた。


百人いれば、百通りある。Sだから攻撃的、Mだから受け身。そんな単純な話じゃない。能力は一つの性質でも、人間そのものまで決めるものじゃない。その時、大きな拍手が起きた。駅前。


誰かが拍手している。一人、二人と増えていく。管理局へ向けたものか、救護班へか、それとも能力者へかは分からない。けれどテレビカメラは、能力者が人を助け、一般人が能力者を助ける光景をすべて撮っていた。


昨日、世界は能力者の存在を知った。そして今日、初めて「知られた後」の能力者事件が起きた。少なくともこの場所では、能力者は怪物じゃなかった。その時、白峰主任から通信。


『真白君』


「はい」


『過激派の人工覚醒装置を一基回収した』


「良かった」


『いや、良くない』


声が重い。画面が送られてくる。装置内部。新しい部品。僕には分からない。


でも、ラベルは読めた。


【SM SYNC】


背筋が冷える。


『百人同時覚醒が成功した理由。制御技術が一段階進んでる』


「でも」


僕は自分の胸を見る。


「僕は何もしてません」


CONTROL TEST。僕のS/M波形が必要。そう言っていた。


『そう。だから問題なんだ』


三枝先輩も画面を見る。


『彼らは真白君なしで、S/M同期技術を作り始めてる』


――じゃあ。


Sも気づいた。僕も同時に理解した。


「僕を狙う必要、なくなる可能性がある」


一瞬、少しだけ安心しそうになった。狙われないなら。でも白峰主任は続けた。


『逆だ』


「え」


『君が不要になれば、次は実験規模をもっと大きくできる』


僕は言葉を失う。僕が計画の鍵だった頃は、僕を奪わない限り完成しなかった。でも、鍵が複製されたら。もう止めるものがない。そして回収した装置の最後のログ。


次の試験規模として、そこに数字が記されていた。


【10,000】


一万人。


僕は画面を見つめた。百人であれだけだった。次は、その百倍。もう、一人ずつ助ける戦い方じゃ絶対に間に合わない。


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